第31話:栄光への最底辺
「やった……やったよエリカ! 吸血令嬢を撃破したよ!」
コンクリートに綺麗に突き刺さったアリス・メイデンを見下ろし、アリシアは己の限界を超えた両拳を突き上げた。アースされた20人分のスタミナの残滓が、周囲にパチパチと綺麗な火花を散らしている。
だが、感動的な勝利の余韻に浸る二人に向けて、実況ドローンの無慈悲な電子音が、冷徹な現実を突きつけた。
『10万メートル走、残り10キロメートル! ――悲報! 1年B組アリシア・エリカペア、アリス・メイデンとの死闘に時間を取られすぎた結果、後続のモブ令嬢たちにゴボウ抜きされ、現在**40人中39位**!!』
「さ、39位ぃぃぃーーーッ!?」
アリシアの目玉が、本日一番の勢いで飛び出した。
当然である。アリスをハメるための作戦会議、そしてあの完璧な垂直落下式を決めるまでの間、二人はその場に完全に「立ち止まって」いたのだ。
その隙に、アリスの呪縛から解き放たれた15位以下の令嬢たちが、涙を流しながら猛烈な勢いで二人を追い抜いていってしまっていた。
「わ、わたくしたち、1人倒して……さらに順位が下がっていますわよ……!?」
エリカが血の気の引いた顔でブルブルと震える。
前方、遥か彼方――残り10キロの直線の先には、直立不動のまま時速200キロで滑空するエヴェリンや、お尻を地面に擦りつけながら時空を歪めて進む生徒会書記の背中が、米粒のような大きさで見えている。
「あはは……もう笑うしかないね。残り10キロで、39位から巻き返すなんて、絶対に無理だよ……」
アリシアがガクリと膝をつきかけた、その時。
コンクリートに突き刺さったメイデンの頭部から、バリバリと青い放電が走った。
「ん……? あれ?」
アリシアが気づく。
アリスの体から大地へ逆流しきれなかった『20人分のスタミナの残滓』。それが、今もなおクレーターの周囲に、濃厚な魔力の霧となって漂っているのだ。その霧が、アリシアとエリカの肌に触れた瞬間――。
「あ、あれ……!? 力が、力がみなぎってくる……!?」
「こ、これは……アリスが吸い溜めていた、他クラスの令嬢たちの純粋なエネルギーの残り香ですわ! 触れているだけで、細胞が活性化していきますわ!」
カラカラだった二人の燃料タンクに、超高純度のガソリンが無理やり注ぎ込まれていく。
アリシアの筋肉が瞬時にガチガチと鳴り響き、エリカのジェットパックの核融合炉が、かつてない異常な高音で再起動を果たした。
「エリカ……いける?」
「愚問ですわ、アリシア。例え最底辺からでも――悪役令嬢は、最後に華麗に勝つものですわ!」
お互いに不敵な笑みを浮かべる二人。
リミッターを完全に吹き飛ばされた令嬢と、過給圧MAXの魔導兵器
「いくよぉぉぉぉッ!! ラストスパートォォォッ!!!」
アリシアの一歩が、音速の壁を置き去りにしてコースを大爆破した。39位の泥まみれの怪物が、トップを走るチートお嬢様たちの背中に向けて、文字通り『光』となって突撃を開始した!




