第30話:過負荷の怪物
「あははは! さあ、終わりだよアリシア! 君の絶望した顔、最高に美しいね!」
スタミナを吸い尽くして肌を輝かせるアリス・メイデンが、勝利を確信して勝ち誇る。だが、アリシアは白目を剥きかけた脳内で、必死に計算を巡らせていた。
(待って……。メイデンさんは今、私やエリカだけじゃない……15位以下の『20人分の 』のスタミナを一気に吸収してるんだ。……なら!)
人間の肉体が許容できるエネルギーには、必ず限界がある。
20人分の爆発的な生命力を体内に溜め込んだ状態で、もしそのエネルギーを消費させずに、その場に強制的に留まらせたらどうなるか?
中身がパンパンに詰まった高圧ボンベのバルブを閉めるのと同じだ。体内のエネルギーが逃げ場を失い、内側から肉体を破壊する――『容量超過』が起きる!
「私が前に行くのは無理……! なら、アリスをこの場所に留めるのが最善!!」
アリシアの濁った瞳に、野生の閃きが戻る。
「エリカ!!」
「――わかってますわ!!」
阿吽の呼吸。魔力を失ったはずのエリカが、自身のジェットパックの燃料タンクを素手で殴りつけ、残留ガスを無理やり爆発させた。
「推進力」
が、アリシアの背中を、そしてアリシアの残った全筋肉を前方に弾き飛ばす!
「なっ……まだ動けるのかい!?」
驚愕するメイデンに向かって、アリシアが地を這うような低姿勢から猛然と飛び出した。狙うは首ではなく、その細い腰!
「くらえぇぇぇ千割りの握力ォォォッ!!!」
「ひっ……!?」
アリシアの両腕が、メイデンの腰をガッチリとロックする。20人分のスタミナを吸ってカッカと熱を帯びるメイデンの肉体が、アリシアの腕の中でピキピキと拒絶反応を上げ始めた。
走る推進力を完全に殺され、その場に縫い付けられるメイデン。
「が、あ、熱い!? 体の中が、熱い、は、弾ける……ッ! 放せ、放してくれアリシア!」
「放すわけないでしょーが! お礼参りの時間だよ!!」
アリシアは残った全背筋を反らし、吸い取られた20人分のエネルギーによる自爆の衝撃ごと、メイデンの身体を真後ろへとぶん投げた。
きれいな放物線を描き、脳天から垂直に叩きつけられる。
コースのコンクリート地面に、アリス・メイデンが頭から綺麗に突き刺さった。
「ぶふっ……!?」
まるで犬○家のように両足を天に突き出したまま、ピクピクと痙攣するメイデン。体内に溜まりに溜まった20人分のスタミナが、行き場を失い衝撃により頭頂部からコンクリートへと一気に逆流し、周囲の路面をバリバリとクレーター状に爆砕していく。
「おーっほっほっほ! 見事な垂直落下式ジャーマンスープレックスですわ! ざまぁご覧あそばせ、吸血イケメン令嬢!」
煤まみれのエリカが、執念のガッツポーズを決める。
20人分のエネルギーを強引に大地へ放電させられたメイデンは、そのまま白目を剥いて完全に沈黙した。
14位の絶対障壁、完全粉砕。
満身創痍の凸凹コンビが、ついに上位陣への反撃の足がかりを掴み取った瞬間だった。




