第26話:見えざる吸血鬼
「はぁ、はぁ……っ! おかしいよ……いつもなら、これくらいの運動量じゃ、絶対にばてないはずなのに……っ!」
50キロメートル地点。折り返し地点を過ぎたところで、アリシアのスタミナはすでに完全に底を突いていた。
両足の筋肉が鉛のように重く、呼吸をするたびに肺が焼けるように熱い。単に走法がゴリ押しだからという理由だけでは説明がつかないほど、恐ろしい勢いで生命力が削り取られていた。
「ぐっ……!?」
前方を飛んでいたエリカのジェットパックの推進力が、急激に弱まった。
キィィィンと悲鳴を上げるノズル。エリカ自身の顔からも、急速に血の気が引いていく。
「まさか……」
エリカはフラつく身体を必死に支えながら、自身の体操着の袖に目を落とした。
「やっぱり……ですわね……」
そこには、肉眼では辛うじて捉えられるほどの、細かく鋭い『青い髪の毛』が、まるでトゲのようにチクリと刺さっていた。
「気がついたかい? お嬢様方」
二人の背後から、一切の息の乱れもない、あまりにも爽やかな声が響く。
キラキラとしたエフェクトを撒き散らしながら、悠然と歩を進めてくる影――麗しのランカー、アリス・メイデンだ。彼女の美しい青髪の毛先が、ほんの少しだけ不自然に短くなっている。
アリス・メイデンの固有魔法。それは『超吸収』。
対象に直接触れる、あるいは『自身の体の一部』を相手に付着させることで、対象のスタミナ、魔力、果ては生命力に至るまで、あらゆるエネルギーを強制的に強奪する吸血魔法。
もちろん、その『奪う速度』はメイデンの意思一つで自在に変えられる。
「さっき、並走して君たちとお喋りしていた時にね、ちょっとだけ僕の髪の破片をプレゼントさせてもらったのさ。急激に奪うとルール違反になるかもしれないから、気づかれないように、じわじわと、ね」
メイデンが妖しく微笑む。彼女の肌は、アリシアとエリカから奪い取った莫大な生命力によって、まるで内側から発光するように瑞々しく輝いていた。
「ずるい……! 並走して優しく声をかけてくれたのは、これを仕込むためだったの……!?」
アリシアが怒りで拳を震わせるが、足に力が入らず膝がガクガクと震える。
「戦場は例示学園だよ、可愛い子猫ちゃん。優しさなんて、ハナから期待しちゃいけないさ」
吸い取ったスタミナを極限まで脚力に変換し、メイデンが爆発的な加速を見せる。
バグ使いの書記やエヴェリンの後を追うように、メイデンが二人を軽々と抜き去っていく。
奪われた体力、遠ざかる背中。
頼みの綱のフィジカルを封じられたアリシアに、逆転の策はあるのか――!?




