第24話:王者の凱旋と、迫る限界
「それじゃ、お先にゴールさせてもらうさね」
サクラが気怠げに指先をパチンと鳴らすと、重力を完全に遮断された3トンのトゲ付き鉄球は、もはや光の速さでグラウンドのゴールラインへと吸い込まれていった。
『ヘビィ大玉転がし、1位――白組、生徒会長レイン&1年B組サクラペア!』
実況ドローンの無機質な音声がグラウンドに鳴り響く。
レインは息一つ乱さず、朝礼台の上から遠くの空を見つめていた。その視線の先にあるのは、学園の外周へと続く10万メートル走のコースだ。
「フフ、私の勝ちですわ、サクラ。さて……エリカは、そしてあの村娘はどこまで私を楽しませてくれるかしら?」
「さあね……。でも、あんまりあの子たちをいじめないであげてよ」
サクラは2位以下が血みどろになって鉄球を奪い合う惨状を一瞥もせず、定位置のベンチへと歩き出した。
ーーー
その頃、スタートから30キロメートル地点。
10万メートル走の特設コースでは、凄まじい異変が起きていた。
「ハッ、ハッ、ハッ……! お、おかしい……!?」
アリシアの息が、激しく上がり始めていた。
一歩踏み込むたびに地面を爆砕し、クレーターのフチを蹴ることで、摩擦ゼロの書記やバグ加速のエヴェリンに力任せで追いついていたアリシア。しかし、その豪快すぎる走法が、ここにきて最悪のツケとなって回ってきたのだ。
「あはは! 子猫ちゃん、どうしたんだい? 急にペースが落ちているよ!」
真横を並走するアリス・メイデンが、キラキラとした汗をなびかせながらアリシアの顔を覗き込む。
「地面を……毎回全力で粉砕しながら走るの、思ったより……めちゃくちゃ疲れる……ッ!!」
当然である。
普通に走るのとはワケが違う。一歩一歩が(限界寸前のスクワット)と同義なのだ。いかに村の薪割りで鍛えた強靭なスタミナがあろうとも、100キロという超長距離の魔境において、その燃費の悪さは致命的だった。
「ふふ、そこまでのようね、村娘。肉体のゴリ押しが、魔法に勝てるわけがありませんわ」
お尻を地面につけたまま、マッハの速度で後ろ向きに滑っていく生徒会書記が、アリシアを嘲笑うように抜き去っていく。
続いて、直立不動のエヴェリン、さらには魔力を限界まで絞り出すエリカのジェットパックまでもが、スピードの落ちたアリシアを次々と追い抜いていった。
3位……5位……12位……。
「くっ……! 順位が……どんどん下がってく……!」
視界の先、ライバルたちの背中が小さくなっていく。
生まれて初めて味わう『肉体の限界』と『敗北の予感』。最強の悪役令嬢を目指すアリシアの前に、体育祭の本当の地獄が牙を剥いていた。




