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第23話:無敵の王、その傲慢

重力を失い、綿毛のように軽くなった3トンの超合金鉄球を片手で転がしながら、サクラは隣を歩くレインに視線を向けた。

レインはただ、純粋な『肉体の筋力』だけで鉄球を押し進めている。髪一筋乱さぬ優雅な動作。しかし、その一挙手一投足から放たれる質量は、すでに人間の域を超えていた。



「ねえ、会長。あんた……魔法は使わないのかい?」



サクラが『αC-38』の吸い殻を携帯灰皿に捨てながら尋ねる。

元・生徒会メンバーであり、『魔の七日間』を共に生き抜いたサクラですら、レインが本気で固有魔法を解放したところは数えるほどしか見たことがない。



「え? ああ……こんなお遊びの行事(ところ)で使ってしまっては、色々と面白みがないですし」



レインは事も無げに言った。障害物として立ち塞がった装甲車を、鉄球ごと自慢の怪力でバキバキに粉砕しながら。



「はぁ……『縛りプレイ』ってやつかい? 余裕だねぇ」



「違いますわ。私はただ――魔法勝負は、本気の初見で戦いたいものですわ」



レインの瞳の奥に、ぞっとするほど純粋な、そして底知れない渇望の炎が揺らめいた。



「事前に手の内を晒してしまっては、あの村娘……アリシアと魂を削り合う瞬間の『愉悦』が薄れてしまうでしょう? 彼女たちの絶望と、私の歓喜。それは常に、ぶっつけ本番の戦場にこそあるべきなのです」


「……」



それは、強者の余裕などという生易しいものではなかった。

いつか来る『最高の死闘』のために、己の最強の切り札を大切に、大切に隠し持っている狂気。戦いそのものを、極上のフルコースのように楽しもうとする戦闘狂(バトルジャンキー)の思考。

サクラは両手を頭の後ろで組み、呆れたように、けれどどこか懐かしむように笑った。



「はは……敵わないねぇ、あんたにはさ」



レインがその本性を現す時、この学園は本当の地獄へと変貌する――。それを一番よく知るサクラは、ただただ、明後日の方向で100キロ走っているアリシアたちの無事を祈るばかりだった。

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