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第17話:無法の1キロメートル

「よし……! やっと戦える!」



スタートラインに立ったアリシアは、体操着の泥を払いながら、深く息を吸い込んだ。

なんだかここに来るまでの準備段階――ミミズ味の洗礼、トゲトゲしいココアの歓迎、そして校長先生の1時間半に及ぶ不毛な長話――だけで精神的に疲れ果てていたが、ついに待ちに待った本番だ。



「位置について。……よ〜い、ドン(・ ・)ふぁ〜後適当によろしく〜」


先生のピストルの合図と同時に、スターティングブロックが火花を散らす。



「やる気ぃぃぃッ!」



アリシアが猛然とダッシュを決める。しかし、前方に突っ込んでいる間に、すでに40人はいるであろう令嬢たちの軍団が、凄まじいデッドヒートを繰り広げていた。



「おーっほっほっほ! エンジン全開ですわ!」



隣のレーンから、凄まじい爆音とともにエリカが急加速していく。背中のジェットパックのノズルが真っ青に染まっていた。エリカはこの時のために、昨日アリシアと戦う遥か前から、全魔力を温存し、機体をフルチューンしていたのだ。



「よし! 私もいくよ!」



アリシアが両足に魔力を込める。

彼女が踏み込んだ瞬間に、競技場のコンクリート地面がアリシアの足の形にへしゃげ、その反動で弾丸のように身体が前方へと射出された。



「やあ! 子猫ちゃん、いい加速だね」



真横から、キラキラとしたエフェクトを撒き散らしながら並走してくる影があった。青い髪を風になびかせた、麗しのランカー、アリス・メイデンだ。



「猫? ああ、私のこと!? っていうかメイデンさん、並走しながら喋らないでよ!」


「うん? いいじゃないか、これくらい。楽しいだろう?」



時速100キロ近い速度で疾走しながら、二人は信じられないほど平然と会話を交わす。



「……ゆる〜い会話をしていますけれど、二人とも周囲に発生させている風圧(ダウンフォース)が凄まじいですわよ。っと……そろそろ、ですわね」



エリカが高度を上げながら、冷徹に前方のカーブを見据えた。

グラウンドを飛び出し、学園の敷地外の特設コースへと入る。

先生の目が完全に届かなくなった地点――スタートから約1キロメートル。



「ごきげんよう、皆様。……死にかける(リタイア)準備はよろしくて?」



先頭を走る令嬢の一人が、ドレスの裾からサイバー手榴弾をピンを抜いて後方へと放り投げた。

ここからは審判の目も、倫理のストッパーも存在しない。10万メートルにおよぶ血と硝煙のデス・ロードが、ついにその牙を剥き始めた。

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