第15話:10万メートル走
体育祭当日。
グラウンドは、およそ運動場とは呼べない惨状と化していた。トラックの周囲には装甲車が並び、上空には対地ミサイルを搭載した実況ドローンが飛び交う。例示学園の体育祭は、文字通りの『戦場』だった。
「サクラさん、私は何すればいいの?」
体操服の袖をまくりながらアリシアが尋ねると、サクラは手元のタブレットをスクロールしながら気怠げに呟いた。
「うーん……まぁ、一番キツいのに言ってみる?」
「良いよ! 薪割りでスタミナには自信あるし!」
「じゃあ、10万メートル走ね」
「10万!? 10じゃなくて?」
アリシアが素で驚いたその時、聞き覚えのある高笑いと共に、背中から聞き慣れた金属音が響いた。
「おーっほっほ! 因みに10万メートルは100キロメートルですわよ、アリシア」
縦ロールを戦闘モードで固めたエリカが、フルチャージされたジェットパックを背負って立っていた。
「そうなの!? というかエリカ、なんでここに? 」
「うちのクラス、インドア派の令嬢ばかりでフィジカルが絶望的に弱いですの。だから、このジェットパックで飛行ができる私が、参戦ですわ」
「へ〜、便利な魔法さね」
「ではまた、開会式で会いましょう!」
エリカがノズルから火花を散らして去っていくのを見送りながら、アリシアはサクラを振り返った。
「私が100キロも走ってる間、クラスのみんなはどうするの? 応援?」
「因みにこっちの心配はいらないよ。あんたが100キロ走ってる最中に、他の種目は裏でガシガシ進めるからね」
「うーん、なんか納得いかない……。それ、私が走る意味ある?」
「そもそも、この体育祭は一種目につき一人一度までしか出場できないルールさね。そうしないと、やつらが全種目に出て無双しちまうからね」
「もうすぐ開会式ですわよ! 早く集まりなさいな!」
遠くから、拡声器を持ったセレナが鋭い声を張り上げている。
「はーい、今行く!」
アリシアが元気よくグラウンドへ走っていくと、サクラはポケットから『αC-38』を取り出し、紫煙を大きく吐き出した。視線の先、校舎の影から一人の令嬢が静かに歩み寄ってくる。
「ふぅ……。アレでよかったのかい? 『書記』さん」
現れたのは、生徒会のバッジを胸に光らせた黒髪の令嬢――生徒会書記だった。彼女は冷徹な目でアリシアの背中を睨みつけている。
「会長と副会長はヤツを認めてる……。けれど、こっちとしてはまだ認めてない。あの村娘が本当に我が校の『悪』に相応しいか、この体育祭で品定めさせてもらうわ」
「はぁ……めんどくさいなぁ。そんなに気になるなら、直接タイマン張って戦えばいいじゃない」
サクラの言葉に、書記は不敵に目を細めた。
「それは貴方も同じでしょう? 『会計』」
「……元ね? 今の私は、ただのしがない煙草飲みさね」
サクラは冷たく言い返すと、歩き出した。
100キロに及ぶ地獄のレースの号砲が、今まさに鳴り響こうとしていた。




