第14話:お嬢様たちの無法地帯
「ねえ、そもそも体育祭って何やるの? 普通の競技なの?」
アリシアが頬の傷に絆創膏を貼りながら尋ねると、ココアはドレスのフリルを直しながら、ふんぞり返って答えた。
「種目自体はそこらの体育祭と一緒でちゅわ。障害物競走、それから騎馬戦にリレー。至って健全、文武両道の例示学園にふさわしいラインナップでゅわね」
「あ、なんだ。それならスポーツだし私、得意だよ! 村の収穫祭の徒競走じゃいつも1位だったし!」
アリシアがホッとしたのも束の間、ココアの口角が意地の悪い角度で吊り上がった。
「まぁ、身体能力が高いのは結構なことでちゅ。でもいわゆるスポーツマンシップ……ウーマンシップ? は、そこにはないでゅ!」
「……え?」
サクラが机から飛び降り、分解していた拳銃の銃身をパチリとハメ直しながら言葉を継ぐ。
「まぁ……簡単に言えば『妨害あり、武器の持ち込みは魔法・科学技術の使用のためなら許可』。要するに、ルール無用のデス・マッチを競技の枠にハメ込んだだけさね。走ってる最中に後ろからサイバー手榴弾が飛んでくるなんてのは日常茶飯事さ」
「そういう感じね……。うん、だいたい分かってきた。この学校、すごい!」
完全に感覚が麻痺しつつあるアリシアは、拳を握り込んでフンと鼻を鳴らした。物理的な妨害なら、薪割りの手刀で弾き返すまでだ。
「まぁ、ウチのクラスは勝手に暴れるだけさ。私は『最強』とかそういう面倒な椅子には興味ないからね。適当に煙草ふかして、生き残れればそれでいいのさね」
サクラが気怠げに電子タバコ『αC-38』の煙を吐き出す。
「へぇ、そうなの? サクラさん、B組の級長なのに」
アリシアが意外そうな顔をした、その時だった。サクラの影から、不気味なほど気配のない声が響いた。
「サクラさんは確かにこのクラス……というか、この学園でもトップクラスの実力者ですが……積極的に格上には戦いにいきません。勝ちを確信できる戦い以外、徹底して避ける現実主義者なのです」
「そうなんだ……って、だれぇぇぇッ!?」
アリシアは驚愕のあまり、廊下まで届くような大声を上げた。
サクラの背後、机の影のわずかな隙間から、前髪で目が完全に隠れた小柄な令嬢がニュッと姿を現していた。その手には、違法に改造されたと思われる盗聴用の高周波レシーバーが握られている。
「ごきげんよう、アリシア様。私はB組の隠密情報員、タンポポ。……以後、お見知り置きを」
挨拶もそこそこに、タンポポは手元の端末を操作し、体育祭の「真のターゲット」のホログラムを空中に投影した。
「アリシア様が目指す『最強』……その最初の大きな壁が、この体育祭で立ちはだかることになります。……生徒会が、動きますよ」
ネオンの煙に巻かれた教室で、アリシアの初めての「狂宴」が、その全貌を現そうとしていた。




