第13話:最凶のトゲと祭りの時期
「……まぁ、洗礼を生き延びたなら仲間だ。そういや、あんた良い時期にこのクラスに来たね」
級長のサクラが、机に腰掛けながら不敵に笑う。アリシアはまだ口の中に残るミミズの風味をプロテインの記憶で必死にかき消しながら、首を傾げた。
「時期?何が?」
「もうすぐ体育祭があってね……。ウチのクラスの戦力が足りなくて困ってたところさ」
「その話、アタチからやりますぅ!!」
突如、教室のドアが激しく蹴り開けられた。
現れたのは、縦ロールのツインテールを振り回す、ひときわ小柄な金髪の少女。フリルだらけの特攻服を羽織り、小さな体から溢れんばかりの威圧感を放っている。
「わぁ……可愛い!!」
村娘気質が抜けないアリシアは、迂闊だった。普段のアリシアであれば避けられたが、そのマスコットのような愛らしさに思わず目を輝かせ、手を伸ばそうとした。
「ガルルルルル……ッ!!」
「うわぁぁぁん!!」
次の瞬間、少女の手がブレた。超硬質の魔力爪がアリシアの頬を電光石火の速度で襲い、鋭い引っかき傷を作る。アリシアは思わず顔を押さえてのけぞった。
「チッ、新入りのくせにアタチを安売りすんじゃねぇですわ! アタチは2年B組の特攻隊長、ココアですわ!」
フシャーッと威嚇するココアを見ながら、サクラは電子タバコを一口吸い、やれやれと首を振った。
「……アリシア、あいつあんたのことをかなり気に入ってるね」
「え? 気に入られてこれ!? 私の顔、思いっきり血が出てるんだけど!」
「何言ってるんだい。前、偵察に絡まれたときは、あいつ、そいつの首の皮一枚残して一瞬で切り飛ばしてたよ」
「きょーぼー…」
アリシアの背筋に、本物の戦慄が走る。気に入られて爪。気に入られなければ首チョンパ。バレット組の距離感は、あまりにもバグりすぎていた。
サクラは煙を吐き出し、アリシアの目をまっすぐに見据えた。その瞳には、おふざけの一切ない、裏社会を生きる者の冷徹な光が宿っている。
「怯むんじゃないよ。あんた、『地上最強の悪役令嬢』になるんだろ? だったら、こんな身内の小競り合いで恐怖してたら、スタートラインにすら立てやしないさ」
サクラが手にする最新型の電子タバコ『αC-38』の先端が、赤く妖しく明滅する。
「体育祭は、全クラスが合法的に殺し合う。ココアの爪にビビってる暇があるなら、その薪割りの拳、もっと鋭く研ぎ澄ましておくさね」
小さな猛獣と、煙煙たる級長。
アリシアは頬の血を拭い、グッと拳を握りしめた。ここはもう、ただの学校ではない。最強の悪だけが生き残る、無法地帯の運動会が始まろうとしていた。




