第112話:サクリファイス
「これは……ッ」
ギャラクシーツリーへと向かう高速バスの車内。カシウスが座席のモニターを凝視したまま、息を呑んだ。
画面に映し出されていたのは、凄惨を極める世界の現状だった。世界主要都市の3割強が、すでにライラの理念に共鳴した『能力者優生思想』の勢力によって瞬く間に制圧されていたのだ。
――そして同時刻、崩壊の渦中にある国連本部。
「国連……サクリファイス!」
封印から解き放たれた150年前の覚醒者たちは、それぞれの思惑に従い、世界各地で破壊の活動を開始していた。
国連が誇る世界最強の対超能力者用AI戦車「メタルフレイル」。その重装甲と最新鋭兵器の群れが、一人の少女の手によって玩具のように木っ端微塵へと粉砕される。
ライラと共に封印から目覚めた二人の少女――そのうちの一人、巡の手によって、世界の頂点たる国連はたった一人で壊滅へと追い込まれていた。
「かっ……金なら出す! 望むだけの富も、権力も与える! だから……ッ!」
瓦礫の山となった総会議場で、命乞いをする国連議長に向かって、メグは心底軽蔑しきった眼差しを見下ろした。
「だっさ……。今になって自分たちが一番恐れていたことが起きたからって、見苦しく命乞い?」
「お、恐れたことだと……!?」
「あっそ……。結局お前らは、どこまでいってもそういう奴らなわけね」
メグは冷ややかに呟くと、踏み出して議長の顔面を巨大な爪のようにガッシリと掴み上げた。
「……サクリファイス」
「アッ……ガ、アァァァァッ――!?」
短い悲鳴と共に、議長の体からあらゆる生命力と魔力が強奪されていく。一瞬のうちに水分と命を吸い尽くされた肉体は、まるで枯れ葉のようにシナシナとしぼみ、床へと崩れ落ちた。
「次……ツリーのライラ様のところへ合流しようか」
冷たくなった骸を踏みつけ、メグは退屈そうに漆黒の空を仰いだ。




