第11話:鉄火場のB組
「そういえば私、この学園に来てから一度もクラスに顔を出していない気がするんだけど……」
体育祭の案内プリントを眺めながら、アリシアはふと呟いた。初日は廊下でエリカと大立ち回りを演じ、二日目はセレナと重力ケーキを貪り、夜は滝行。学生らしいことを何一つしていない。
「さあ? 貴女の勘違いではなくて? ……っと、私の教室はあちらですので、ここで一度別れますわ」
廊下の分岐点で、エリカがサイバー扇子で右側の通路を指した。
「? エリカって別のクラスなの?」
「まぁ……そんなもんですわ。じゃあ、体育祭で会いましょう」
エリカは含み笑いを残し、足早に去っていった。
一人残されたアリシアは、手元の端末に表示された『2年B組』のプレートがかかる重厚な鉄扉の前に立つ。見た目は教室というより、銀行の巨大金庫のようだ。
「よし。おじいちゃんも挨拶は基本って言ってたしね」
アリシアは意を決して、電子ロックの解錠されたドアを勢いよく開け放った。
「おはようございます、ですわ!」
開いた瞬間、室内の気圧差で怪しげな白煙が廊下へと吹き出した。
アリシアが目を細めて煙の向こうを睨む。そこは、お嬢様学校の教室とは到底思えない、血と硝煙の匂いが立ち込める『鉄火場』だった。
ネオン管の光が不気味に明滅する室内。
ある令嬢は、最新型の電子タバコをふかして紫煙を燻らせ、またある令嬢は、視神経に直接接続されたサイバーVRゴーグルを装着し、虚空に向けてシャドーボクシングを繰り返している。机の上には教科書ではなく、分解された自動拳銃のパーツや、違法改造された魔導チップが散乱していた。
「……あ?」
一斉に、鋭い視線がアリシアに突き刺さる。そのどれもが、一般社会のルールをドブに捨てた者の眼光だ。
例示学園2年B組。
素行不良、戦闘狂、あるいは実家が裏社会の元締め――。学園の治安維持対象が集まるそのクラスを、人々は畏怖を込めてこう呼ぶ。
『弾丸』と。
「……なるほどね。ここが私の戦場ってわけだ」
アリシアは怯むどころか、ゾクゾクとする高揚感に口角を上げた。
体育祭を前に、アリシアの高校生活はさらにバイオレンスな加速を始めていく。




