第10話:騒乱!寮生活のワンダーランド
「ここが寮か……」
アリシアは目の前にそびえ立つ、要塞のような高層建築を見上げて呟いた。昨日、エリカとの激闘を終えた後、アリシアはあろうことか学園内で迷子になり、近くの滝で滝行をしながら野宿していたのだ。おじい様の『迷ったら自然に還れ』という教えに従った結果である。
「あの方ですわ!」
「セレナ様を食事で下したという……!」
ロビーに入った瞬間、刺すような視線とひそひそ話が集中する。当然だ。転校二日目にして生徒会の広報を『完食』した新人は、すでに学園の要注意人物筆頭だった。
「君かい? すごいね、噂になってるよ」
人混みを割り、キラキラとした光り輝くオーラを纏った人物が現れた。青い流麗な髪に、すらりと高い背。その王子様のような佇まいに、アリシアは思わず身構えた。
「……ここ女子寮ですけど。不法侵入なら、今ここでチョップするよ?」
「ひどいな……。こう見えても女子なのだけれど。アリス・メイデンっていうんだ」
よく見れば、その人物は女子制服を着こなしていた。しかし、あまりにも中性的で麗しい。
「え……それでメイデン……?」
「証拠、いるかな?」
メイデンは不敵に微笑むと、アリシアの手を掴み、自身の胸元へと引き寄せた。
その瞬間、アリシアの脳内に『DENGEKI』が走る。
「(……私よりも“ある”! 筋肉じゃなくて、柔らかいのが!)」
「ふふ、納得してくれたかな。さてと、私も一応ランカーだけれど、夜の寮は例外を除いて戦闘は許可されていない。ので!」
メイデンはアリシアの手を引いたまま、軽快な足取りで歩き出した。
「私が寮について教えてあげよう。初心者には刺激が強いかもしれないけれどね」
案内された寮の内部は、アリシアの知る「寝泊まりする場所」の概念を根底から覆すものだった。
「洗濯物は、レーザービームで汚れを落とせるよ。たまに燃えるけど…」
「大浴場は、皮膚から直接栄養を摂取できるよう、特注のゼリーが循環している。美肌が叶うお嬢様の嗜みだね」
「……ここ、本当に寮? 」
アリシアが引き攣った顔で尋ねると、メイデンは『心外だな』と肩をすくめた。
「どうかな? 悪役令嬢として隙をなくすには最高の環境だろう? 一応、男子寮も同じ構造らしいよ」
「男子……。そういえばこの学校で、一回も男の人を見たことないんだけど」
学園のどこを見渡しても、いるのは戦う令嬢たちばかり。アリシアの素朴な疑問に、メイデンはどこか遠い目をした
「……こういう『美少女動物園』的な作品では、彼らは抹消されやすいからね。存在、設定、尊厳……そのすべてをね」
「存在ごと消されてるの!? 」
アリシアは戦慄した。最強を目指す道も険しいが、この学園の構造そのものが、何やら巨大な『悪』の意志によって支配されているのを感じずにはいられなかった。




