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追放されたダンジョン清掃員、配信切り忘れでボス部屋を一人で片づけてしまう  作者: 花守りつ


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3/4

協会査察は、ボス部屋の床から始めます

翌朝、ダンジョン協会の査察官が来た。


 勇者でも、配信者でもない。

 灰色の作業服に、分厚い記録板。


 彼女はボス部屋の入口で立ち止まり、床を見た。


「ここを一人で片づけた清掃員はどなたですか」


 配信コメント欄は、まだ昨夜の切り抜きで燃えている。


『ボス撃破より床が綺麗』

『清掃員、避け方がプロすぎる』

『勇者パーティー、罠の札を踏み抜いてたの草』


 けれどレンは、コメントより床のぬめりを見ていた。


「僕です。まだ右奥は乾いていません。踏むなら青い紐の内側でお願いします」


 査察官が片眉を上げる。


「青い紐?」


「昨日、ボスの酸が飛んだ範囲です。見た目は乾いていますが、靴底の革を溶かします」


 勇者カイトが鼻で笑った。


「大げさだな。俺たちは昨日ここで戦ったんだぞ」


 彼は一歩踏み出した。


 じゅ、と小さな音がした。


 高価な白い靴の底から、煙が上がる。


「うわっ、何だこれ!」


「酸です」


 レンは、用意していた中和砂を靴の下へ撒いた。


「だから青い紐の内側と言いました」


 コメント欄が一斉に流れる。


『勇者、注意書き読め』

『清掃員の言うこと聞け』

『ボスより床に負けるな』


 査察官は笑わなかった。


 彼女は床の青紐、壁に貼られた罠札、入口の濡れ布を順番に見て、記録板へ印をつける。


「戦闘後処理手順が、冒険者側に共有されていませんね」


「共有していました」


 レンは古い木箱から、薄い紙束を取り出した。


 ボス部屋清掃手順。

 酸床の中和順。

 落石罠の再固定。

 魔石粉じんを吸わないための布口覆い。


「ただ、パーティーの控室で『掃除係の落書き』として捨てられていました」


 カイトの顔が引きつる。


「そんな細かい紙、戦闘職が読むかよ」


「読みます」


 査察官の声は、床石より硬かった。


「読まなければ、次に入る低ランク冒険者が死にます」


 入口の向こうで、見学に来ていた新人冒険者たちが息を呑む。


 彼らの装備は薄い。

 靴も安い。

 中和砂を買う金も、替えの手袋も少ない。


 レンは彼らの足元を見て、予備の布靴カバーを差し出した。


「入るならこれを。今日は見学だけです。床の色が二段階変わるまで、討伐済みでも安全ではありません」


 一人の少年が、靴カバーを受け取った。


「ありがとうございます。昨日の配信、見ました。ボスの核を壊すより先に、入口を拭いてたの、何でですか」


「逃げ道が滑ると、勝っても帰れないから」


 その一言で、査察官の手が止まった。


 彼女は記録板の空欄に、新しい項目を書き足す。


 ――討伐後、退路清掃を完了するまでボス部屋を開放しない。


「暫定規則にします」


 カイトが声を荒げた。


「待てよ。そんなことを決めたら、俺たちの討伐記録が遅れるだろ」


「記録より先に帰路です」


 レンは、床の青紐を結び直した。


「討伐した人の名声より、次に入る人が生きて帰る足場です」


 新人の少年が、小さく頷いた。


 査察官は入口の札を剥がし、代わりに大きな板を掛ける。


 一、ボス討伐後は清掃完了札が出るまで入室禁止。

 一、酸床、粉じん、落石罠は清掃員の確認を優先する。

 一、配信を行う場合、危険表示を画面に映すこと。


 コメント欄の勢いが、少し変わった。


『これ、清掃員が守ってたの視聴者じゃなくて次の冒険者か』

『地味だけど大事』

『勇者、ずっと清掃手順で守られてた説』


 カイトは舌打ちして、出口へ向かった。


「好きにしろ。俺はもっと深い階層で結果を出す」


「その階層、昨日の酸袋を持ったままだと危ないです」


 レンが言うと、カイトの背負い袋から、ぴち、と湿った音がした。


 全員の視線が集まる。


 袋の底から、黒い液が一滴落ちた。


 レンは青紐をほどき、すぐに入口を塞いだ。


「査察官さん」


「何ですか」


「ボス部屋は、まだ終わっていません」


 彼はモップを握り直した。


「危険物を持ち出した人の追跡清掃が必要です」

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