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追放されたダンジョン清掃員、配信切り忘れでボス部屋を一人で片づけてしまう  作者: 花守りつ


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危険物を持ち出した人の追跡清掃です

黒い液は、カイトの背負い袋から階段へ落ちた。


 じゅ、と石床が鳴る。


 コメント欄が一瞬で騒がしくなった。


《また酸!?》

《勇者、持ち出すな》

《青い紐、青い紐!》


 瀬尾悠真は、笑わなかった。


 コメント欄では、いつの間にか「レン」と呼ばれている。清掃員の名札に残った姓を読み違えたらしい。

 けれど、今見るべきものは名前ではない。


 しずくの向き。

 階段の勾配。

 新人冒険者たちの安い靴底。


「通路を封鎖します」


 悠真は青い紐を伸ばし、階段前に立入禁止札を掛けた。


「中和砂、濡れ布、記録板。先に退路を止めます」


「おい、俺を閉じ込める気か」


 カイトが怒鳴る。


「閉じ込めるんじゃありません」


 悠真は床に落ちた一滴へ砂をかけた。


「あなたが持ち出した危険物が、次に入る人の帰り道を溶かす前に止めます」


 査察官は記録板を開いた。


「追跡清掃、開始時刻を記録します」


 悠真はしずくを追った。


 ボス部屋入口。

 控室前。

 階段の一段目。

 勇者パーティーが記念撮影をした壁際。


 黒い液は、派手に暴れてはいなかった。

 ただ、誰かが気づかなければ、夕方には透明に乾いて、安い靴底だけを溶かす。


「赤札を一枚」


 悠真は壁に貼った。


 赤札――入るな。酸、粉じん、落石罠あり。


「青札を二枚」


 青札――清掃中。青紐の内側だけ通行可。


「白札はまだ出しません」


 新人の少年が、入口で足を止めた。


「昨日の配信で、ボスが倒れたら終わりだと思ってました」


「討伐完了と清掃完了は違います」


 悠真は予備の靴カバーを渡した。


「今日は見学だけにしてください。白札が出るまで、冒険は終わっていません」


 少年は靴カバーを両手で受け取った。


「はい。待ちます」


 その返事で、コメント欄の流れが変わった。


《白札出るまで待つ、覚えた》

《討伐完了より清掃完了》

《新人講習これでよくない?》


 カイトは歯を食いしばった。


「俺の討伐記録はどうなる。ボスは倒したんだぞ」


「記録します」


 査察官が答えた。


「同時に、危険物持出しも記録します。第五階層への一時立入停止、危険物管理講習、汚染清掃費と新人用安全装備費の負担。配信上での危険表示訂正も行ってください」


「そんな処分、重すぎるだろ!」


「軽いです」


 悠真は最後のしずくに中和砂をかけた。


「誰も帰れなくなる前に止まったので」


 長い沈黙が落ちた。


 ざまぁのための沈黙ではない。

 通路が安全に戻るまで、誰も動かないための沈黙だった。


 査察官は入口の古い板を外し、新しい札掛けを取り付けた。


 一、討伐完了より、清掃完了。

 一、清掃完了札が出るまで、ボス部屋へ入らない。

 一、危険物を持ち出した者は、帰路の安全確認まで責任を負う。


「瀬尾悠真さん」


「はい」


「本日付で、第五階層ボス部屋安全管理担当として協会登録します。戦闘職ではありません。清掃員としてです」


 悠真は、思わずモップを握り直した。


「清掃員のままで、いいんですか」


「清掃員でなければ困ります」


 査察官は淡々と言った。


「ボスを倒す人はいます。けれど、次に入る人の靴底を守る人がいません」


 コメント欄が、また流れた。


《清掃員登録きた》

《安全管理担当、かっこいい》

《白札グッズ化して》

《いやまず講習に使え》


 悠真は、端末を見た。


 事故でつながった配信だった。

 置き去りにされた証拠だった。


 けれど今は、入口の札を見せるために使える。


「協会さん」


「何ですか」


「この配信、次から新人講習用にできますか。赤札、青札、白札の意味だけ、最初に映す形で」


 査察官は少しだけ笑った。


「正式運用として検討します。まずは、あなたの机を置きましょう」


 翌朝。


 第五階層ボス部屋の入口横に、小さな安全管理室ができた。


 机は古い。

 椅子は少し傾いている。


 それでも机の上には、伸縮モップ、記録板、青い紐、清掃完了札、靴カバーの箱が並んでいた。


 新人の少年が、入口で白札を見上げる。


「入ってもいいですか」


 悠真は札掛けを確認した。


 赤札なし。

 青札なし。

 白札あり。


「講習を受けたら入れます」


「はい!」


 少年は、勢いよく頷いた。


 カイトの処分通知は、掲示板の隅に貼られている。

 コメント欄の切り抜きは、まだどこかで笑われている。


 けれど、入口で止まった一足があった。

 白札を見て待てた新人がいた。


 それで十分だった。


 悠真は配信端末を机に立て、最初の画面に札を映した。


《第五階層新人講習、始まった》

《白札確認》

《討伐完了より、清掃完了》


 悠真はモップを手に取った。


「では、今日の講習を始めます」


 ボスを倒した人より、次に入る人の靴底を守る。


 その小さな規則が、ダンジョンの入口に残った。

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