息子と母
あの日、僕とコーラとアプリで入った盛場で、信じられないものを見た。
亡くなったはずの母が、13歳の子供の姿で、元気に動いているのを。
傍らには、何故か敵国の筆頭魔導士がいるし、随分仲も良さそうだし、訳がわからなかったあの日。
でも――
混乱したけれど、母さんが生きている、そのことが、途方もなく嬉しかった。
――――――――――
「あ、サム」
「ウィンリィ……」
開かれていたドアを通って、ウィンリィが座っていたベッドの前まで歩く。
傍らには、コーラとアプリもいて、目が合った妻は、こくりと頷き、娘もにこりと微笑んで見せた。
"話しても、大丈夫"と二人が言ってくれているようだった。
僕は、ウィンリィの目の前に椅子を引いて、腰掛けた。
「横になってなくて大丈夫?」
「うん! たくさん食べたからね! 貧血も大分おさまったよ!」
ふむ。頬には赤みが差して、大分顔色が良くなっている。虚勢を張っている訳ではなさそうだ。
「良かった。昨日は、僕もどうなることかと思ったけれど、エリィのお陰で何とか乗り切れたよ」
「あ……サムにも、見えたの? エリィの姿」
「うん。ウィンリィのこと、ずっと見てたよ、あの子」
「エリィには、夜、悪夢を見た時に、何度も助けてもらったんだ……何故か、インターには姿が見えないみたいだけど」
僕らがルートさんの方を見ると、彼は、肩をすくめて、困り顔をして見せた。
「それはさておき、本題に入ったら? 二人とも」
エリィの姿が見えるのは、ウィンリィとその息子の僕だけなのかもしれない。
あの過去で出会ったエリィにも、僕がウィンリィの未来の息子だと即座に言い当てられた。
ウィンリィのことを母さんとも呼んでしまったし、エリィの姿も見えるし、鈍感なところのあるウィンリィにも、流石に僕が自分の息子だと分かってしまったよね……
「サム、もしかして、僕は……」
それに続く言葉を肯定する覚悟をして、僕は続きを待った――
「君の……お母さんに似ているの?」
ガターンッ……
僕は盛大に椅子から滑り落ち、椅子も倒れた。
「サ、サム! 大丈夫!?」
「ぶっくくっ!」
「ふっ、ふふっ……」
心配するウィンリィと、ルートさんとコーラが吹き出す声に何とか椅子を起こして、座り直す。
アプリも大きな赤い目をまん丸にして、僕を心配していた。
「……大丈夫。あと、ウィンリィは僕の母親にそっくりだよ。だって、僕の母も、ウィンターコスモスの魔法少女だからさ」
「あっ! そうなんだ! 僕が初代だから、その人は、二代目かな?」
「……二代目はね、僕とコーラの娘、ウィンディが拝命すると思うよ。あの子もウィンターコスモスだから」
「そっ、そうなんだ!? ウィンディ……もウィンターコスモスなんだ! ならきっと強いんだろうね! しかも、サムとコーラの娘だなんて、サラブレッドじゃない!? 将来が楽しみだね!」
ここまで来ると、これは天性のものなんじゃないかと僕は思った。
僕の知る母も、戦場ではこれでもかってくらい察しが良いのに、日常生活における察しの悪さは、仲間からも折り紙つきだったから……ほんと、本当にウィンリィは、母さんなんだなと思う。
「後で画像を見せるよ……だって、君の孫でもあるし。君、ウィンディのこととても可愛がっていたしね」
「ま、孫??」
「あははっ……リィ、ここまできて、それはないでしょ。まあ、サムのこと、『お父さんと同じチェリーブロッサムだから、親戚なんだと思う』なんて、言ってた君じゃ、気付かないのも無理はないと思うけどね」
「え?」
「ウィンリィさんらしくて、懐かしいわね。私を育てたあの人も、謎の鈍感力を携えた人だったわ」
「ウィンリィ、私ね、サムとコーラから、何も聞いていないよ。だけど、二人を見てたら、何となく気付けたの……君が
サムのお母さんだってこと」
アプリの言葉に、ウィンリィの目が瞬く間に見開かれ、その視線が徐々に僕に向けられていく。
「こ、子供? 僕の?」
「うん」
「ほんとに?」
「本当だよ」
「サム、もうさ、画像見せたら?」
「そうですね……」
僕は、アイテムボックス内のタブレットを取り出し、起動させると、画像フォルダから、生前の母と僕とコーラがウィンディを囲んでいるものを出して見せた。
「っ……このピンクの人、僕に似てる……」
「本人だからね」
「……サムを産んだにしては、若過ぎない?」
「高魔力保持者だからね、20代半ばから歳はとっていないはずだよ」
「……」
画像の中のウィンリィは、長めのボブカットにしている髪を、孫のウィンディに引っ張られているにも関わらず、満面の笑みだ。
ウィンリィは、その画像をそっと撫でると、顔を上げて、僕の目を見据えた。
「……君の、父親、は?」
息を呑む。とうとうこれを話す時が来たんだ。
これを告げて、今のウィンリィは、どう思うのだろうか。
つい最近まで、アベル先生を思ってたウィンリィに話すのは、気が引けるが、父が――スノークが、ウィンリィだけを思ってた事実を、息子として、ちゃんと伝えたい。
「スノークだよ」
ウィンリィの桃色の瞳が見開かれていったかと思えば、今度は大きく揺れ動き、伏せられる。
眉も寄せて、顔も俯いたウィンリィから、絞り出すような声が漏れた。
「スノークが……僕と、子供……を作るわけないよ……嫌われてるのに……」
「嫌ってなどいないわ」
口を開いたのは、コーラだった。
「私、知ってるもの。夜、誰よりも早く寝入るサムの顔を撫でながら、『お父さんにそっくりだね……』ってそれはもう、幸せそうに呟くウィンリィさんを。あれは、スノークさんに嫌われていたら、決して出てこない言葉と表情だったと思うわ」
そんな話、聞いてないぞ! コーラってば、教えてくれても良いのに……
「……確かにサム、スノークによく似てる……特に、睫毛が厚くて、長いところ、そっくりだ……」
言われて、僕は認識阻害魔法を解く。
解かなくても、ウィンリィには元の顔が見えているのだけれど、そうせずにはいられなかった。
もっとよく、父に似ている僕の顔を見て欲しくて。
「信じてもらえた?」
「サム……信じるよ。君が、僕とスノークの息子だってこと」
「ウィンリィ……」
胸が詰まって、それ以上の言葉が出てこなかった。
……また会えたことが嬉しかったと言いたいのに。
僕とコーラは母さんを亡くしてしまった。
だからこそ、ウィンリィには、自分を優先して、幸せになってほしいと伝えたいのに。
今、目の前にいるウィンリィは、へへっと笑い、少し照れているように見えた。
僕も、少し気恥ずかしい。だって13歳の少女を前に、28歳の男が、『あなたは僕のお母さんです』と言っているのだから。
「よし! 二人とも、積もる話もあるだろうけれど、一旦、置いといてね。サムにはやるべき事があるでしょ?」
ルートさんの声で現実に引き戻される。
そうだ、早く魔力の子たちの手足を元通りにしなくては!
「面白かった!」
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