新しい朝と、絆
ぴーぴちゅぴちゅぴちゅぴちち……
小鳥の囀る声が聞こえる……あ、朝か……
窓から差し込む陽の光……眩しいなあ……
…………て!
「朝!? ウィンリィは!? ルートさん!? 魔力の子たちは!?」
ガバアッと起き上がると、下は昨日の格好のままで、上だけTシャツに変わっていた。
ベッドを抜け出して、着の身着のまま外に出る!
「あ、ルートさん!!」
長の家の横に建てた50人の魔力の子たちの家の前に彼はいた。
「あれ? サム、起き上がって平気なの? 大分消耗してたけど」
「だ、大丈夫です。昨日? 気絶しちゃってすみませんでした。あの後、二人抱えて大変でしたよね……」
いくらルートさんといえども、大人の僕と少女のウィンリィを抱えて、あの大峡谷を渡るのはキツかったと思う。
「ああ、あのあとすぐにね、イオが迎えに来てくれてさ、難なく帰れたから、気にしないでね。
それより……」
ルートさんは、神妙な顔で、ドアを見つめた。
「昨日の夜、僕のアイテムボックスの子たちは、ここに寝かせたんだ。リィの眠りの魔法が効いてるとはいえ、そろそろ起きる頃だと思う」
「そ、それは緊張しますね……あ、僕のボックスの子たちも早く外に出してあげないと……」
ルートさんは、うーんと、首を捻って、
「それなんだけどさ、50人相手に誘拐犯同然の僕らが一から説明するより、25人に説明して、分かってもらった後、子供たち同士で話してもらった方が、早く信用を得られるんじゃないかな?」
「た、確かに」
「だよね? よし、じゃ、先ずは25人の信用を得に行こう」
ガチャ……
僕らは驚かさないようにそうっと、部屋に入った。
子供たちは起きたばかりのようで、身じろぎをして、うーん、とか、ふわあー、とか言っている最中だ。
「ふわあー、あ、あんたら!」
手足のない小さな体で、必死に身構えたのは、アドの幻覚で見た迷宮好きの少年、トトだった。
「おはよう。えとね、僕らは怪しい者じゃないよ? 君たちの身の安全と衣食住は保証するから、信じてくれないかな?」
「ふざけんな! どこだよここ! シュルンをどうしたんだ!? 他の子たちは!? 何もしてないだろうな!?」
「……してないよ。他の子たちももうすぐここに来る。シュルンも無事だよ。傷一つ付けていない。でもさ……」
話す内にルートさんの瞳からどんどん光が失われていって、僕は身震いした。
「君らを保護する時に、シュルンから僕らの仲間が攻撃されてね……女の子なんだけど、重傷でさ、今もまだ起き上がれずにいるよ」
「っ、……そんなでたらめ言うな! シュルンが人に怪我させるわけねえ! この嘘つきジジイ!」
黒曜石の瞳がベンタブラックになっても、トトは怯まずルートさんにくってかかっていく。
強い子だ。だけど――
「嘘じゃないよ……まあでも、僕らとシュルンは、赤の他人てわけじゃなかったけれど、突然現れたよく知らない人間に、『魔力の子は、自由に生きられます。手足も元通りに治せます』って言われても、信じられないのは当然だと思うから、ちっともシュルンを恨んだりはしていないんだけどね?」
にいいっこり……と、今までに見たことのない恐ろしい笑顔でルートさんは、トトに詰め寄った。
若干、漆黒の魔力も漏れ出ていて、さすがのトトも、閉口してしまう。
「ちょ、ルートさ――」
「ルート、子供相手に大人げないですよ」
声と共に入ってきたのは、竜のイオだ。
「イオ……でもさ、躾は最初が肝心じゃない?」
「はあ、躾とか言ってる時点でだめですよ。子供の心はね、こうやって掴むんです」
言い終わらないうちに、イオを白い煙が包み込み……
ボンっと弾けて、中から現れたのは!
「りゅっ、竜だ!!」
いつもの大きくて、いかつい竜ではなく、ファンシーな見た目とサイズに変わっていて、そんな姿にもなれるのかと、僕は驚いた。
「ふふ、そうですよ、竜です。竜、知ってるんですね」
「そりゃ知ってるよ……この世界のシステムなんだろ? 俺たちもそうなんだってことも知ってるし……」
「おや、なら話が早いですね。先ず、あなたたちには、この竜である私直々にあなた方、魔力の子のことを教えて差し上げます。毎日、4時間、お勉強しましょうね」
トトはじめ、他の子たちがげげっと声を洩らした。
「皆さん、文字は読めますかね? とりあえず、ウィンターンの公用語で絵本を作ってきました。朝食までに読んでおいて下さいね」
しーん。
「ふむ。暗唱できるようになったら、背に乗せて空を飛んでもいいのですよ?」
「竜の背に乗って……」
「空を……」
「とべるの!? 僕、やる!」
「あたしも!」
「私も!」
「お、俺もやるよ! あ……でもさ、この寝たきりの奴らも乗せてやってくれよ……こいつら、反応が鈍いだけで、ちゃんと嬉しい時は、笑ったりするからさ……」
「もちろん良いですよ。暗唱出来ずとも、私の授業を聞いてくれるならね」
わー!! と盛り上がる子供たち。
「ふふ、どうです、ルート。これが心を掴むということですよ」
「なにそれ、竜にしか出来ないやり方じゃない? ずるいでしょ、そんなの」
「あ、ルート、ウィンリィが起きたのですよ。行ってあげたら――」
バタン!!
「早いですねぇ……ウィンリィのこととなると」
「はは、だね……」
「サムも行って来て下さい。今日のところは、あなたも休むべきですよ」
「あ、うん……有難う、イオ」
―――――
ルートさんを追いかけて、僕も女性陣の部屋へと向かった。
部屋に入ると、上半身だけを起こしたウィンリィに、しがみつくように抱きつくアプリの姿。
昨日、血を大量に流したウィンリィは、起き上がるのはまだきつかったのだろう。ルートさんがしっかりと背を支えている。
「うっ、ひっく、うう、」
「アプリ、心配かけてごめんね、もう大丈夫だから」
「ふっ、う、んっ、ふっ、ひっく……」
「アプリ……」
ウィンリィは、肩を震わせて泣くアプリを宥めるように優しく抱きしめている。
「リィ、言いたいことは山のようにあるけど、無事に治って良かったよ。もう二度と油断しないで」
「インター、ごめん。僕が至らなくて、本当にごめん」
よほどバツが悪いのだろう。ウィンリィは、話しながらどんどん下を向いていく。
「……リィ」
「あーっ!」
ルートさんが、ウィンリィの顔を両手で包み込み、二人の顔が重なったので、僕は思わず声を上げた。
瞬間、ルートさんの体にウィンリィの魔力が巡り、防御魔法が発動したことが伺えた……が、普通、息子の前でやるか? ルートさんめ!
「……やっぱり、僕が君に付けることは出来ないんだね……」
「その気持ちだけで充分だよ」
ウィンリィは、本当に嬉しそうに微笑んで――
ルートさんは、史上最大級に切ない顔をしていた。
そして、ウィンリィを抱きしめて……
「もう誰にも君を傷付けさせない。僕が必ず守るから」
「……いつも守られてるよ。ありがとうね、インター」
ウィンリィがルートさんの背に腕を回すのを見て、割って入りたかった僕の気持ちも、二人の絆の前に溶けてしまった。
その時、二人の腕の中から抜け出したアプリが心配そうな顔でこっちを見ているのに気付いた。
「アプリ」
「……サムも大丈夫?」
「大丈夫だよ、おいで」
トタタ……とこちらに駆け寄ってきたアプリをそのまま抱き上げて、高い高いをした。
正直なところ、4歳児だったころに比べて、9歳児は大分重くて、腕力もぎりぎりだった。
それでも、この子を安心させたくて、必死に虚勢を張る。
「ほら、高い高い出来るくらい、元気だよ」
「……うん。でも」
「コーラも言ってたでしょ? 娘の望みを叶えたいって、僕もそうだからさ、だからそんな顔しないで」
床に下ろすと、アプリは俯いて服を握りしめた。
血まみれのウィンリィを目の当たりにして、父親代わりの僕も気絶して帰ってきたのだ。
当然だよね……
「アプリ」
僕は、優しい娘が抱えているであろう罪悪感をどうにか払拭してやろうと名を呼んだが、気の利いた言葉が出て来ず……
目線を合わせるように膝をついて、握られた拳をただ握りしめるしかできなかった。
すると、俯いていたアプリが顔を上げた。
「サム、私、もう自分の魔力を怖がらない。それで、魔法具に頼らなくても、魔力を使えるように練習する……それで、サムもウィンリィも、みんな、守れるように、絶対なる」
さっきまで泣きじゃくっていた赤い瞳は、更に赤みを増していたけれど、それ以上に、強い意志で彩られた赤に僕には見えた。
また成長したのだ、うちの子は。
「うん。僕も、アプリの魔力を借りなくても大きな魔法が使えるようになりたいな。一緒に成長しよう! 親子でね」
「……うん!」
成長を続けるこの子の未来を絶対に守りたい。
そのためには、全属性魔力による体の崩壊のこと――このことを先ず解明しなくては。
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