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28歳の息子と13歳の母の異世界冒険譚  作者: 相沢春人
第7章 アイスエッジの動かぬ命

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大人たちの決意

「お嬢様、毎年作ってばかりで、ご自分で楽しんだりしないじゃないですか、今年はお友達もいるようですし、たまには子供らしく遊んできて下さいね」


 まるで、普段は子供らしく過ごせていないような言い方だ。


「友達って……今会ったばかりのお客様だから」

「あら、そうなのですか? 楽しそうに話してらっしゃったので、てっきりお友達かと」


 そのメイドさんは、残念そうな表情でウィンリィを見た。


「友達だよ! 今、友達になったんだ! 行こうよ、シュルン! 一緒に回ろ!」

「え……」

「三人で回ったら……とっても楽しいと思う」


 アプリも大きな赤い瞳でシュルンを見上げている。この目で懇願されて断れる猛者は果たしているのだろうか。


「うっ……じゃ、じゃあ、少しだけ、なら……」

「やったあ! 僕はウィンリィ!」

「私はアプリ」

「シュルンよ……ウィンリィにアプリ」


 シュルンは、ウィンリィとアプリに挟まれて手を繋がれ……気恥ずかしそうに中へ入って行った。


「ふう。少し強引でしたかね……保護者の皆様、何も言わないで下さり、有難うございます」

「ふふ……良いわよ。うちの子たちも嬉しそうだったし」

「だね。メイドさんが来なくても、リィなんか、多分、強引にでも引っ張って行ったと思うよ?」

「ですよね……ウィンリィならやりかねません……」

「ふふ、そうなのですね。では、保護者の皆様、あちらにセルフのスープがありますので、お待ちの間、良かったらお召し上がり下さい」


 保護者用に用意されていたガーデンセットに腰掛けて、スープを飲む。


 それはコンソメ味で、でも、僕らの知るインスタントの味ではなく、材料を煮詰めて作った本格的なものだった。


 つまり、とても美味しい。


「無料で出していいものじゃないよねぇ……これ」

「ですね。あのビニールハウスの野菜で作ったのでしょうか?」

「そうなんじゃない? あと、これは……鳥型の魔物肉を使ってると思う。コカトリスかな?……旨みがさ、普通の鶏よりも深くなるんだ」


 ルートさんがあまりにもこの世界の料理に明るくて、僕とコーラは目を合わせた。


「はは、ルートさん、この世界で料理人になれるんじゃないですか……」

「ふふ。野宿の時も、エルフの里でも美味しいものを作ってくれてたものね……」


 話していると、いつの間にか、テーブルの上にアドが舞い降りて来ていた。


 アドは、スープの入ったマグカップの縁に両手を置き、僕を見上げている。


 飲みたいのかなと思い、カップを傾けると、口を付けて飲み始めた。


「もしかして、そこにアドいる?」

「あ、はい。いますよ」

「子供たちをゆっくり遊ばせてあげたいけれど、早く話も聞かなくてはね……あ、そうだわ」


 コーラは、良いことを思いついた時の顔をして、僕らを見た。


「二人が出て来たら、私たちだけ、先に帰りましょうか」

「そうだね、子供だけで遊ぶ時間くらいあっても良いよね」

「そうだよ。僕らはただの旅行者なんだから」


 結局、僕らは子供たちに甘い大人なのだ。

 作戦決行は、明後日。

 それまで、怪しまれる訳にもいかない。それを口実に存分に祭りを楽しませてやりたいと思う。


―――――


 ウィンリィとアプリを領主邸に残し、大人三人とアドで宿に戻った。


「じゃあ、アド、君が見てきたものを見せてくれる?」


 部屋のドアに鍵をかけて、僕らはアドへと意識を集中し、目を閉じる。


 暫くして、術の発動を感知して、目を開けると――


「ここが、領主邸の地下一階……」

「薄暗いわね……こんなところに50人も子供を押し込んでいるなんて……」

「気が逸るけどね、僕らは大人だ。冷静に見ていこう」


 実は、アドは喋れない。なので、伝達手段はアドの得意な幻覚魔法だ。


 薄暗い通路の奥に目をやると、僅かに光の漏れる場所が見えた。

 

 ふわりと僕の肩に降り立ったアドが指を差すので、そこに向かって歩いていく。


 ガチャ……とドアを開けると――


「!」

「……」

「あらら、これはまた……」


 ずらりと並ぶベッドの上――空きの一つもなく、子供たちが仰向けに寝かされていた。


「ふうん……この首輪が魔力転送の装置なんだね……」


 ルートさんが、手前のベッドに横たわる子供の首輪に、そっと触れた。

 その手を首輪から伸びている太いコードへと滑らせていく。


「転送の仕組み自体は単純だね……」

「そうですね、このコードが直にこの下の魔力装置へ繋がっているみたいです」

 

 頭の中で、この首輪を外すのに必要そうな魔法を、僕は探した。

 

 「あなた、大丈夫よ。ロックがかかっているようなものではないわ」

「えっ? あ、あれ?」


 コーラに言われて、改めてよく見てみると、確かに、解錠に魔法が必要そうではない作りに見えた。

 こんなことも気付かないなんて、やはり、この状態は、少なからず、自分にショックを与えていたようだ。


「もし、実物を見て、何かしらの魔法錠が付いていたとしてもさ、コーラの魔法で錬成したナイフなら、簡単に切れるんじゃない?」

「そうね、当日は、更にサムの調整魔法で強度をあげたものを持たせるわ。あと、アプリに持たせているウルツ鋼製の小刀も2本借りましょう」


 アプリの護身用ナイフを半分も借りてしまうのは心配だったが、ルートさんが貸してくれている電撃魔法具もあることだし、それに――


「サム、装置の魔力調整をするアプリの護衛だけど、コーラとリィ、どっちが適していると思う?」

「そうですね……もし、見つかって、警備兵と戦闘になった場合、静かに戦えるのはコーラだと思います。なので、精密な装置に、精密な魔法を組み込まないといけないアプリの側にコーラを付けるべきかと」

「了解。コーラもそれで良い?」

「ええ。娘の身の安全を守れて光栄だわ。誰が来ても、静かに粛々と切り伏せるわね」


 うちの奥さん、ほんと頼もしいなあ……


「よしサム、僕らは、魔力を途切れさせないために、先に腕輪を付けてから首輪を外そう。

そして、彼らを迷わずアイテムボックスへ入れていくんだ。分かってると思うけど、人間だから、子供だからとか考えてちゃだめだよ? そういう優しさは、帰ってから存分に発揮してね」


「はい。スピード重視で、一人も取りこぼすことなく、ここから連れ出すことだけに注力します」


 決意新たに、僕たちは改めて室内を見渡した。

 子供たちは、眠っている子もいたが、起きている子たちは、誰も彼も虚な瞳で、宙を見ていた。

 手も足もないのだ……そうする他ないのだろう。

 一番幼い子でも10歳ほど。年長でも15、6歳にしか見えない。


 性別も種族もバラバラのこの子たちは、星にランダムに選ばれてしまった魔力の排泄器官なのだ。


「決行まで待つしかないけれど、早く救い出したいわね……」


 何事にも動じない妻が、珍しく下唇を噛んでいる。

 僕は思わず、肩を抱き寄せた。


「大丈夫。体が治れば、心も健やかになる。時間がかかっても、きっと、この子たちの未来には……」


 そこまでで言葉に詰まってしまう。

 本当に、体を治して、自由を得ただけで、この子たちは笑えるだろうか?


 奪われたものが、体の自由だけではないと、虚な瞳が物語っていた。

 

 容易く日常を取り戻せるような人生では、なかったのだと……


「サム、コーラ、アプリの言ったこと、覚えてる?」


 ルートさんの声に、僕ら夫婦は顔を上げた。

 そこで初めて、自分たちが俯いていたことに気が付く。


「僕さ、好きなんだよね、あの、


『一日でも生きたら、今まで見たことのない景色を、きっと見ることが出来るから』


ってやつ」


 ああ、アプリが長に言った言葉だ。


「今後、この子たちがどう生きるかは分からない。こんな酷い目に遭って、それを忘れて生きられるとは僕も思えない。


でもさ、僕らは知ってるよね? 明日が予測つかないってこと。


だから、僕ら大人はさ、安心して明日を迎えられる環境を整えることに全力を尽くそう。それが大人の務めだと思うしさ」


 ルートさんの表情に迷いはなく、アプリの言葉が彼に響いたのだと確信した。


 今のルートさんは、僕の世界の彼とは全く違う未来を歩んでいけるのではないかとも。


「ルートさん……」

「ふふ。育児放棄クソ野郎にしては良いこと言うでしょ?」

「ク、クソ野郎とまでは言ってませんよ!」

「ふふ、今が立派過ぎて、信じられないわね。ルートが育児放棄属性だってこと」

「あ! サム、コーラに話したの? 全くもう、ペラペラ話すような内容じゃないんだよ? 三人の息子のことはさ」

「あら、三人もいるのは知らなかったわ。今度詳しく聞かせてくれるかしら?」

「え、三人目のことしか話してなかったの? あちゃー、余計なこと言っちゃった。サムってば、僕が自爆するの待ってた?」

「も、もう、その話は後にして! 下の魔力装置も見なくちゃですよ! ほら! 二人とも早く行こう!」


 アプリとウィンリィが帰ってきたら、この『魔力の子』たちの状態も話さなくちゃいけない。


 ウィンリィは大丈夫だと思う。悲惨な戦場も経験しているから。

 アプリも、実年齢にしては、大分大人だ。『魔力の子』として生きてきた覚悟もある。


 それでも――子供たちの心が傷付くことを想像したら、伝えるのは少し怖かった。

 しかし、コーラもルートさんもいるのだ。


 僕は、僕たちを信用している。少なくとも、アプリとウィンリィの笑顔を守れる自信がある。

 そう思うと、恐怖心も和らいだのだった。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「今後どうなるの!!」


と思ったら


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。


何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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