大人たちの決意
「お嬢様、毎年作ってばかりで、ご自分で楽しんだりしないじゃないですか、今年はお友達もいるようですし、たまには子供らしく遊んできて下さいね」
まるで、普段は子供らしく過ごせていないような言い方だ。
「友達って……今会ったばかりのお客様だから」
「あら、そうなのですか? 楽しそうに話してらっしゃったので、てっきりお友達かと」
そのメイドさんは、残念そうな表情でウィンリィを見た。
「友達だよ! 今、友達になったんだ! 行こうよ、シュルン! 一緒に回ろ!」
「え……」
「三人で回ったら……とっても楽しいと思う」
アプリも大きな赤い瞳でシュルンを見上げている。この目で懇願されて断れる猛者は果たしているのだろうか。
「うっ……じゃ、じゃあ、少しだけ、なら……」
「やったあ! 僕はウィンリィ!」
「私はアプリ」
「シュルンよ……ウィンリィにアプリ」
シュルンは、ウィンリィとアプリに挟まれて手を繋がれ……気恥ずかしそうに中へ入って行った。
「ふう。少し強引でしたかね……保護者の皆様、何も言わないで下さり、有難うございます」
「ふふ……良いわよ。うちの子たちも嬉しそうだったし」
「だね。メイドさんが来なくても、リィなんか、多分、強引にでも引っ張って行ったと思うよ?」
「ですよね……ウィンリィならやりかねません……」
「ふふ、そうなのですね。では、保護者の皆様、あちらにセルフのスープがありますので、お待ちの間、良かったらお召し上がり下さい」
保護者用に用意されていたガーデンセットに腰掛けて、スープを飲む。
それはコンソメ味で、でも、僕らの知るインスタントの味ではなく、材料を煮詰めて作った本格的なものだった。
つまり、とても美味しい。
「無料で出していいものじゃないよねぇ……これ」
「ですね。あのビニールハウスの野菜で作ったのでしょうか?」
「そうなんじゃない? あと、これは……鳥型の魔物肉を使ってると思う。コカトリスかな?……旨みがさ、普通の鶏よりも深くなるんだ」
ルートさんがあまりにもこの世界の料理に明るくて、僕とコーラは目を合わせた。
「はは、ルートさん、この世界で料理人になれるんじゃないですか……」
「ふふ。野宿の時も、エルフの里でも美味しいものを作ってくれてたものね……」
話していると、いつの間にか、テーブルの上にアドが舞い降りて来ていた。
アドは、スープの入ったマグカップの縁に両手を置き、僕を見上げている。
飲みたいのかなと思い、カップを傾けると、口を付けて飲み始めた。
「もしかして、そこにアドいる?」
「あ、はい。いますよ」
「子供たちをゆっくり遊ばせてあげたいけれど、早く話も聞かなくてはね……あ、そうだわ」
コーラは、良いことを思いついた時の顔をして、僕らを見た。
「二人が出て来たら、私たちだけ、先に帰りましょうか」
「そうだね、子供だけで遊ぶ時間くらいあっても良いよね」
「そうだよ。僕らはただの旅行者なんだから」
結局、僕らは子供たちに甘い大人なのだ。
作戦決行は、明後日。
それまで、怪しまれる訳にもいかない。それを口実に存分に祭りを楽しませてやりたいと思う。
―――――
ウィンリィとアプリを領主邸に残し、大人三人とアドで宿に戻った。
「じゃあ、アド、君が見てきたものを見せてくれる?」
部屋のドアに鍵をかけて、僕らはアドへと意識を集中し、目を閉じる。
暫くして、術の発動を感知して、目を開けると――
「ここが、領主邸の地下一階……」
「薄暗いわね……こんなところに50人も子供を押し込んでいるなんて……」
「気が逸るけどね、僕らは大人だ。冷静に見ていこう」
実は、アドは喋れない。なので、伝達手段はアドの得意な幻覚魔法だ。
薄暗い通路の奥に目をやると、僅かに光の漏れる場所が見えた。
ふわりと僕の肩に降り立ったアドが指を差すので、そこに向かって歩いていく。
ガチャ……とドアを開けると――
「!」
「……」
「あらら、これはまた……」
ずらりと並ぶベッドの上――空きの一つもなく、子供たちが仰向けに寝かされていた。
「ふうん……この首輪が魔力転送の装置なんだね……」
ルートさんが、手前のベッドに横たわる子供の首輪に、そっと触れた。
その手を首輪から伸びている太いコードへと滑らせていく。
「転送の仕組み自体は単純だね……」
「そうですね、このコードが直にこの下の魔力装置へ繋がっているみたいです」
頭の中で、この首輪を外すのに必要そうな魔法を、僕は探した。
「あなた、大丈夫よ。ロックがかかっているようなものではないわ」
「えっ? あ、あれ?」
コーラに言われて、改めてよく見てみると、確かに、解錠に魔法が必要そうではない作りに見えた。
こんなことも気付かないなんて、やはり、この状態は、少なからず、自分にショックを与えていたようだ。
「もし、実物を見て、何かしらの魔法錠が付いていたとしてもさ、コーラの魔法で錬成したナイフなら、簡単に切れるんじゃない?」
「そうね、当日は、更にサムの調整魔法で強度をあげたものを持たせるわ。あと、アプリに持たせているウルツ鋼製の小刀も2本借りましょう」
アプリの護身用ナイフを半分も借りてしまうのは心配だったが、ルートさんが貸してくれている電撃魔法具もあることだし、それに――
「サム、装置の魔力調整をするアプリの護衛だけど、コーラとリィ、どっちが適していると思う?」
「そうですね……もし、見つかって、警備兵と戦闘になった場合、静かに戦えるのはコーラだと思います。なので、精密な装置に、精密な魔法を組み込まないといけないアプリの側にコーラを付けるべきかと」
「了解。コーラもそれで良い?」
「ええ。娘の身の安全を守れて光栄だわ。誰が来ても、静かに粛々と切り伏せるわね」
うちの奥さん、ほんと頼もしいなあ……
「よしサム、僕らは、魔力を途切れさせないために、先に腕輪を付けてから首輪を外そう。
そして、彼らを迷わずアイテムボックスへ入れていくんだ。分かってると思うけど、人間だから、子供だからとか考えてちゃだめだよ? そういう優しさは、帰ってから存分に発揮してね」
「はい。スピード重視で、一人も取りこぼすことなく、ここから連れ出すことだけに注力します」
決意新たに、僕たちは改めて室内を見渡した。
子供たちは、眠っている子もいたが、起きている子たちは、誰も彼も虚な瞳で、宙を見ていた。
手も足もないのだ……そうする他ないのだろう。
一番幼い子でも10歳ほど。年長でも15、6歳にしか見えない。
性別も種族もバラバラのこの子たちは、星にランダムに選ばれてしまった魔力の排泄器官なのだ。
「決行まで待つしかないけれど、早く救い出したいわね……」
何事にも動じない妻が、珍しく下唇を噛んでいる。
僕は思わず、肩を抱き寄せた。
「大丈夫。体が治れば、心も健やかになる。時間がかかっても、きっと、この子たちの未来には……」
そこまでで言葉に詰まってしまう。
本当に、体を治して、自由を得ただけで、この子たちは笑えるだろうか?
奪われたものが、体の自由だけではないと、虚な瞳が物語っていた。
容易く日常を取り戻せるような人生では、なかったのだと……
「サム、コーラ、アプリの言ったこと、覚えてる?」
ルートさんの声に、僕ら夫婦は顔を上げた。
そこで初めて、自分たちが俯いていたことに気が付く。
「僕さ、好きなんだよね、あの、
『一日でも生きたら、今まで見たことのない景色を、きっと見ることが出来るから』
ってやつ」
ああ、アプリが長に言った言葉だ。
「今後、この子たちがどう生きるかは分からない。こんな酷い目に遭って、それを忘れて生きられるとは僕も思えない。
でもさ、僕らは知ってるよね? 明日が予測つかないってこと。
だから、僕ら大人はさ、安心して明日を迎えられる環境を整えることに全力を尽くそう。それが大人の務めだと思うしさ」
ルートさんの表情に迷いはなく、アプリの言葉が彼に響いたのだと確信した。
今のルートさんは、僕の世界の彼とは全く違う未来を歩んでいけるのではないかとも。
「ルートさん……」
「ふふ。育児放棄クソ野郎にしては良いこと言うでしょ?」
「ク、クソ野郎とまでは言ってませんよ!」
「ふふ、今が立派過ぎて、信じられないわね。ルートが育児放棄属性だってこと」
「あ! サム、コーラに話したの? 全くもう、ペラペラ話すような内容じゃないんだよ? 三人の息子のことはさ」
「あら、三人もいるのは知らなかったわ。今度詳しく聞かせてくれるかしら?」
「え、三人目のことしか話してなかったの? あちゃー、余計なこと言っちゃった。サムってば、僕が自爆するの待ってた?」
「も、もう、その話は後にして! 下の魔力装置も見なくちゃですよ! ほら! 二人とも早く行こう!」
アプリとウィンリィが帰ってきたら、この『魔力の子』たちの状態も話さなくちゃいけない。
ウィンリィは大丈夫だと思う。悲惨な戦場も経験しているから。
アプリも、実年齢にしては、大分大人だ。『魔力の子』として生きてきた覚悟もある。
それでも――子供たちの心が傷付くことを想像したら、伝えるのは少し怖かった。
しかし、コーラもルートさんもいるのだ。
僕は、僕たちを信用している。少なくとも、アプリとウィンリィの笑顔を守れる自信がある。
そう思うと、恐怖心も和らいだのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援お願い致しますm(_ _)m
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m




