国境街のアイスエッジ
第2話 国境街のアイスエッジ
凱門の外に出ると、冷たい風に晒された。
僕らは、風を遮れそうな小道に入り、受付で渡された宿屋一覧を見ながら、宿を目指す。
豪雪地帯だった頃の名残なのか、印象的な急勾配のとんがり屋根の建物が立ち並んでいる。
その造りも、基本は木とレンガのようだが、一階部分のみ、頑丈な石造りとなっていた。
「サム、お家の下が石だよ……なんでだろう?」
「多分ね、雪の重みに耐えられるように石で強度を上げてたんじゃないかな? あ、あれ!」
小道を抜けると、広い道路と家々の間に、数多の氷の彫像が現れた。
妖精のような美しい女性が様々なポーズでランタンを携えている精巧な芸術品だ。
「わあ! 綺麗だね、氷魔法で作ったのかな?」
「だろうねぇ。この彫像、ランタンに火が灯るのかな? 楽しみだね」
「うん! でも、これの側、めちゃくちゃ寒いね! アプリ大丈夫?」
「うん。ウィンリィが暖かいから平気だよ」
「えー、手繋いでるだけだよ?」
「ウィンリィは光属性だものね。普通の人よりも暖かいのがこの寒さの中だと顕著にでるのじゃないかしら?」
ウィンターンは、年中真冬の国だと聞いていたので、僕らはコートをしっかり着込んでから外に出た。
しかし、天候掌握魔法で、雪が降らないとはいえ、空気は雪が降っている時と変わらないくらい凍りついていて、コートを着ていても、かなり寒い。
ましてや、氷の彫像の側は通るだけで、冷気が頬を掠めていった。
「はあー、息が白いよ……時渡りの最下層を思い出すねぇ……」
「ああー、あそこ、氷になっちゃうかと思うくらい寒かったなあ……二度と入りたくないよ……もう入れないけど」
ルートさんとウィンリィの会話を聞いて、僕はふと浮かんだ疑問を口に出した。
「そう言えば、オータンが年中秋なのは、時渡りの迷宮が秋がモチーフだからなんですよね? なら、このウィンターンにも?」
「うん。ウィンターンには冬がモチーフの迷宮がいくつかあるよ。 時渡りの迷宮と同じで、下に行くほど次の季節に似た気候の階層になるみたい」
つまり、最下層は、春のような階層ということか。
「それにしても、冷や冷やしましたね……」
「そうだねぇ。今の時期は検問が甘くなるって聞いていたから、尚更ね」
五年前にも、この街へ異世界旅行者が来ていた。
それは僕らにとって、決して小さくない情報だった。
しかし、その人のお陰で、危うく入国の危機だったわけだが。
―――――
街を道なりに歩いて、一の門から一番近い宿に入る。
祭りの期間なので、部屋がないことも視野に入れていた。
が、この時期限定の氷のホテルに旅行者は集中するとのことで、普通の宿には意外と空きがあり、五人全員眠れる広い部屋を取ることができた。
部屋に入り、各々、ベッドや椅子に腰を下ろす。
僕とコーラは、部屋に入ってすぐ、窓を開けて外を見始めたアプリの背を見つめた。
「獣人が全然見当たらない……」
ここは三階だ。
窓からは、明日の祭りに備えて、屋台の設営をする人や、旅行者と思われる大荷物の人々が見えた。
が、確かに獣人は一人も見当たらない。
「五年前の大脱走で、みんな逃げたってのは本当みたいだね」
エルフの里滞在中に、サマーンからの買い付けの行商人を何人か見たのだが、人だけでなく、獣の耳や尻尾を携えた獣人も多く見かけた。
オータン王マロンが知っていたのかは分からないが、ウィンターンとサマーンで長く続いていた獣人の奴隷制度は、五年前に破綻したのだそうだ。
「獣人大脱走があったのも、五年前だからさ、きっとその異世界旅行者も一枚噛んでるんだろうねぇ」
「そうでしょうね。なにはともあれ……」
「良かったね、アプリ! 獣人の仲間たちは、みんな今、自由なんだよ! 作戦を終えて、みんな元気になったらさ、フォスとか、サマーンにいる獣人のみんなに会いに行こうね!」
「うん……」
そう。ウィンターンから脱国してきた傷付いた獣人たちをサマーン国王は、全て受け入れたのだそうだ。しかも、それまで、ウィンターンから輸入していた獣人奴隷の制度も廃止し、彼らに真っ当な市民権を与えた。
ただ、ウィンターンは、獣人がいなくなった後も、獣人奴隷制度を廃止してはいない。
それどころか、サマーンが廃止したことに反発して、今、二カ国は一触即発状態だそうだ。
こんな状況なので、僕はアプリに何重にも認識阻害を掛けている。
エルフの里では伸び伸びと動いていた可愛らしいうさぎの耳も、当分は見るのもお預けだ。
「ふうむ。祭りの進行表によると、明日からは、屋台と、街中の氷の彫像のランタン点灯、豪雪地帯の名残りの巨大水路でスケートが楽しめるみたいだよ……あと、領主邸で、子供向けの氷の迷路の遊び場が開放されるってさ」
机の上に置いてあった進行表を読み上げるルートさん。
僕らは、作戦決行を、祭りが最も盛り上がる四日目の夜と決めて来た。
その日は、大広間で、この祭り最大の見せ場である氷の城の点灯式があり、領主も出席するため、領主邸に盗みに入るには絶好の機会なのだ。
「アプリ、ウィンリィ、明日、二人で行って来たらどうかしら? その氷の迷路に」
「コーラ! 僕もそうしたいなって思ってたとこだよ! アプリ、良いかな?」
「うん……迷路、行ってみたい」
「あ、二人とも、下手に偵察しようと気負わなくて良いからね? 偵察は、僕ら大人がこっそりやるから」
領主邸の地下一階には、50人の『魔力の子』たちが捕らわれている。
アプリとウィンリィが遊んでいる間に、潜入しているドライアドと合流して、詳しい現状を把握するのだ。
「ま、僕らもさ、怪しまれない程度には、祭りを楽しもうよ。ずっと気を張ってたら、普段出来ることも上手く出来なくなったりするからね」
「ふふ。ルートの言う通りね」
「うーん、じゃあ、明日は、アドをアイテムボックスに匿って、領主邸を外から可能な限り観察したら、屋台を楽しもうか」
アドから早く話を聞きたいが、それは宿に帰ってからじっくり話してもらうことにするか。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援お願い致しますm(_ _)m
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m




