救うための力
「では、アプリ、準備は良いですか?」
「うん。大丈夫」
僕らは今、リビングに集まって、アプリの修行の総仕上げを見ている。
昨日、50人が住める家をほぼほぼ完成させたことで、『魔力の子』救出作戦も決行間際の段階まで来ていた。
家に関しては、この後、僕とルートさんとグレイの三人で仕上げをする予定だ。
ちなみに、昨日帰るつもりだったカイは、奥さんのイオにそれを提案したところ――
『アプリの修行がまだ終わっていないのに、帰れるわけがないでしょう? それに、作戦の成功も見届けたいですし、カイだけで先に帰って下さい』
と言われ、落ち込んだ様子で部屋に籠り、今朝はまだ出てきていない。
この星のシステムで、始祖竜に砦を一つ任されている偉大な竜も、奥さんには頭が上がらないようだ。
まあ、うちも似たようなものだけどね。
「アプリ、ウィンリィの手を握って、集中して下さい」
「うん」
「魔力の流れを感じたら、その魔力属性を教えて下さい。それと、その根拠もです」
アプリは、目を瞑り、ウィンリィも、緊張の面持ちでアプリの顔を見つめている。
「……ウィンリィは、光属性。根拠は……暖かな光が見えるから」
「そうですね、概ね当たっています」
魔力属性とは、個々の持つ魔力の質そのものを指す言葉で、火、水、風、土の4大属性が基本だ。
4大属性から更に派生して、雷や氷などの属性もある。
ウィンリィの光属性は、4大属性の外にある少し特殊な魔力だ。
そして――
「その調子で、次はルートのを見てみましょう」
「よろしくね、アプリ」
「ああ、アプリ、ルートのは、覗き過ぎると闇に呑まれることもあるかもしれないので、さわりだけ、そっと観察するくらいで良いですよ」
「うん。分かった」
イオの言い草にもニコニコと笑顔を絶やさず、手を差し出すルートさん。
アプリの修行の妨げにならないように黙っているのだろう。しかし、闇属性て既に言っちゃってるけどね、イオ……
「ルートさんのは、闇属性……暗くて黒くて、何にも見えない……あと、重たそうで……どんよりしてる」
「重たそうで、どんより……」
ど、どんよりって! 僕は込み上げた笑いを必死に抑え込み、隣のコーラも口元に手を当てて、肩を震わせている。
ともあれ、ルートさんの闇属性も、4大属性の外に位置する特殊な魔力だ。
「そうですね、闇属性はそんなものです。次は――」
その後もコーラ、グレイ、ノア、長、僕……と全員の魔力属性とその根拠を正確に当てて見せたアプリ。
「アプリは凄いね! 短期間の修行で魔力属性まで分かるようになるなんてさ! 僕なんて、味しか分からないよ」
大好きな姉貴分に褒められて、アプリは、頬を赤くして、顔を綻ばせている。
「おや、ウィンリィは魔力の味がわかるのですか?」
「うん! 分かるよ!」
「ほお……では、アプリの味は?」
「アプリはね、色んな味がするんだ! それも、一つ一つが別々なんじゃなくて……えーと、例えるなら、虹を丸ごと飴にしたみたいな……そんな味の魔力だよ!」
魔力の味が分かるというのは、うちの母の特殊能力だ。 ちなみに、僕にも遺伝しているので、子供の頃は、タグ付けの度に、人によって味が違うんだなあ……と思ったものだ。
「ふむ。ウィンリィに言われてしまいましたが、アプリ、先ほど感じた皆の魔力と、自身の魔力の違いは分かりますか?」
アプリは、目を閉じて、自身の胸に手を当てた。
「……色んな色が見える……火、水、風、土、光、闇……他にもたくさんの色……」
「そうです。それが『魔力の子』の持つ魔力です。全属性の魔力を星から供給されていますからね」
この星の魔力の在り方は、星が、個々の生物の持つ魔力容器キャパシティに見合った量を供給するというものだ。
ちなみに、僕ら転移組の魔力の仕組みは、こことは違う。僕らは自身の体内で魔力容器に見合った魔力を生成している。
「魔力属性は魔力容器に紐づいています。『魔力の子』は全ての属性を受け入れるために作られた魔力容器を持って生まれてくるのです」
改めて聞いてみると、途方もない話だ。
このアプリの小さな体に、全属性の魔力が流れているのだから。
でも、それは、この星が魔力溢れる爆弾のような星であり、その溢れた魔力を排泄するためのシステムが、『魔力の子』だという腹立たしい事情も孕んでいる。
「どうですか? アプリ、それらを全て理解した上で、自分の魔力の輪郭は掴めましたか?」
「うん。分かるよ。他の『魔力の子』も同じなら、腕輪を付け替えた時に出る装置への過不足分も、絶対に分かるし、供給も出来る」
真ん丸の赤い瞳に光が差し、自信の色が垣間見えた。
「なら、大丈夫そうですね」
「イオ、供給の練習は?」
「済ませていますよ。アプリは、飲み込みが早かったので、知識学習と並行して、実技も行っていたんです」
「ふふ、アプリ、頑張ったわね」
「ん……」
ふわりとコーラがアプリを後ろから抱きしめた。
嬉しそうに微笑み合う二人は、本当の親子のようだ。
「本当に凄いよ、アプリ」
「……ううん、みんなの方が凄いし、私一人じゃ出来なかったことだから、みんなのおかげだよ……でも――」
アプリは、めいっぱい顔を上げて、僕を見た。
「サムとコーラに褒めてもらえるの、凄く、嬉しい……私、これからも頑張るね」
う、うちの娘、めちゃくちゃ可愛い!!
「いくらでも褒めるよ、アプリはずっと頑張ってるから。あと、生きて僕らと出会ってくれて本当にありがとう」
「その通りね……そして、これからも生きて、明日を共にしましょうね、アプリ」
「うん!」
僕は、アプリを抱きしめるコーラごと、二人を抱きしめた。
「ふふ、良い家族だね、インター」
「そうだね、リィ。今夜は三人で寝かせてあげようか」
「アプリ、すっかりサムさんたちの娘になったんだね……ねぇ、ノア」
「……うん」
「ふむ。準備は出来たようだな」
長の声に、僕は、僕らは、こくりと頷く。
「『魔力の子』50人の救出作戦、始動だ」
ウィンターン国境街、アイスエッジへ――
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