剣のエルフとコーラとサム
「剣を極めたいの」
コーラの言葉に、まだ幼かったあの頃のコーラが目に浮かんだ。
「コーラ……もう一度、挑戦するんだね?」
「ええ。私、諦めが悪かったみたい」
「悪いなんてことないよ? 当然のことじゃないか……剣は君のお母さんの魔法なのだから」
そう、コーラのお母さんの職性魔法は剣だった。
対して、コーラは刀。
よく似ている武器だが、職性は身体に結びついていて、いかに似ている武器であっても、変更は出来ない。
「ええ。この剣ね、画像で見た母のものにそっくりなの。だからね、これはもう、最後のチャンスだと思うのよ」
まるで、形見のように剣を撫でる妻の肩を僕は抱く。
「危ないわよ」とコーラに怒られたけど、それでも、そうせずにはいられなかった。
あの日の君の涙を覚えていたから。
―――――
翌日、コーラがその剣使いの名手のところに通うのに僕もついて行った。
「エルフの里からほど近い森に住んでいるわ。名前はフローガ。綺麗な人よ」
フローガさんのことは、ショコラさんに教えてもらったそうだ。
そんな話、僕は全く聞いていなかったので、少し寂しく思った。
が、今日ついて行くことを許してくれたからよしとしなくちゃな……
「ここよ」
「あれ? まさか、鍛冶屋さんなの?」
そこには、赤レンガ作りの可愛らしいお家があり、二階の煙突からは、白い煙がもくもくと出ている。
ショコラさんの鍛造所と瓜二つの造りに驚いていると、ドアが開いた。
出てきたのは、僕と目線の高さがほとんど変わらない女性。
「コーラ、隣の男は?」
「私の夫のサムよ。サム、こちらが、フローガさん。剣の名手と鍛冶屋を兼業している方よ」
逆立つように流れる長い髪は、燃え盛る赤。
瞳の色はエメラルドグリーン。
エルフの特徴である長い耳は、細く長く、プラシー君や長と変わらない長さだった。
でも――
「風と火のハーフですか?」
「そうだよ。色で分かるだろ?」
火のエルフを見たことはない。
けれど、真っ赤な髪は炎を連想させるには充分だった。
そういえば、ショコラさんも火のハーフだったはずだが、髪も目も黒だ。
同じ火のハーフでも、発現する色彩は、バラバラなのかな……
「そんなに見て、ショコラとの違いに驚いたのか? あの子はな、鍛造する時だけ、瞳が赤く染まるんだ」
「えっ? あっ……そ、そうなんですね。もしかして、ショコラさんはお弟子さんだったり?」
「そうだが? コーラから何も聞いていないんだな、夫のくせに」
カッチーン。
じろじろ見たことは悪かったと思うが、初対面で、夫のくせにとはあんまりな言い草じゃないか?
「ふふ、夫は、とっても頭が忙しい人なの。だから私、自分で決められることは自分である程度進めてから事後報告にしているわ。
それで、フローガさん、今日は夫の見学を許してもらえるかしら?」
「それは構わないよ? でも、コーラ、俺のことはフローガと呼び捨てにしてくれと言っただろう? でないと、稽古はつけてやらないよ?」
ん?
「あら、忘れていたわ。では、フローガ、今日もお願いするわね」
「ああ、かかっておいで? 可愛いコーラ」
んん??
「ちょ、ちょっと待って? コーラ」
「なあに? あなた」
僕は、コーラの耳に口を寄せ、小さな声で話しかける。
「昨日も手合わせしたの? てか、あの人、女性なんだよね?」
「ああ、今はそうみたいだけど、プラシーと同じ二極持ちなんですって。だから、男の時もあるみたいよ?」
な、な、な、なんだってー!!!
「夫婦で内緒話かい? 焼けるな」
「ふふ、そんなんじゃないわ、さ、始めましょう」
ま、マジか……
僕は、ルートさんのことを思い出していた。
ウィンリィに好意丸出しのプラシー君のことを、"淫魔"と呼び、めちゃくちゃ牽制していた彼。
その気持ちが今、僕にも理解できたところだ。
げんなりした気持ちの僕を傍に、二人は剣を交えて激しい剣撃を繰り出し始めた。
「はは! 昨日、基礎を教えたばかりだと言うに、これに対応するか! ますます気に入ったよ! コーラ!」
「それは、ありがとう。でも、あなたに話す隙も与えない使い手になるのが目標なの。努力しなくてはね」
コーラ、昨日会ったばかりなんだよねえ??
何でこんなに気に入られてるのさ……
―――――
「あなた、今日はありがとうね」
「僕、見てただけだけどね……」
日が傾き始めた頃、僕らは帰り路についた。
「本当はね、少し緊張していたの」
「ええ……全然そんな風に見えなかったけど? まるで10年来の師弟関係に僕には見えたよ」
あんまり親しげだから、僕は何度嫉妬の感情に揺らされたか分からないほどだ。
「ふふ。軽口が過ぎるところがあるからかしらね?」
「軽口なんてものじゃ片付かないよ……」
そう、フローガはことあるごとにコーラを口説くような言葉を吐くのだ。
夫の僕の目の前で、それってどうなんだ??
全く腹立たしい。
「それでも、剣の腕前は本物よ? 私、昨日の手合わせで使い慣れた魔法刀を使ったわ。それでも勝てなかったのよ」
勝てなかった!? 祖国の刀、剣使いの魔導士の中で、トップクラスの腕前のコーラが!?
「……それは、相当だね……」
「そうなのよ。アベル師匠と良い勝負だと思うわ……あと、ルベル」
その名前が妻の口から出たのは久方ぶりで、僕は目を見張った。
「あの子なら、私より上手く立ち回れたんじゃないかしら?」
「……そんなことないよ。ルベルは、一度も君に勝てたことがないじゃないか」
コーラが目を伏せた。その姿は、遠くの過去を噛み締めているようで、僕も昔を思い出す。
「……どうかしらね、少なくとも、私はあの子に一度だって勝てた気がしなかったわ」
コーラの唯一のライバルだったルベル――魔法少女コーラルベルは、アベル先生とチュラさんの娘だ。
そして――
両親のいなかったコーラの数少ない血縁者の一人でもある。
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