譲渡された魔法と妻の決意
ウィンリィの修行を見た後、僕とルートさんで鉱石プレートと魔力転送の腕輪を繋ぐ術式をプラシー君も交えて話し合った。
粗方、構築し終えて、後は細かい調整をプラシー君にお願いし、僕らは各々自室に戻った。
久しぶりに一人の時間を満喫しようかとも思ったが、それよりも気にかかることがある。
ウィンリィの母――ヘリオスのことだ。
僕の祖母でもある彼女が引き起こした第一国の市街地戦闘――その真相を調べるために、僕はアイテムボックスから一枚の古い写真を取り出す。
生前、母さんはヘリオスのことを一切話さなかった。しかし、戦死した後、私物を整理していたら、母を抱くヘリオスの写真が一枚だけ出てきたのだ。
「黄色味がかっていて、大分古びてはいるけれど、画像は鮮明だ。これならきっと」
集中して、写真のヘリオスに探査魔法をかけてみる。
写真が光を放った後、いつものようにちゃんと本が出てきた。
市街地戦闘に内容を絞ったから、今回は一冊だけだ。
それを開き、数ページ手繰っただけで、直ぐに理解した。
「そうだったのか……」
史実は間違っていた。
ヘリオスは市民を巻き込んだのではなく――
これはウィンリィに告げるべきなのだろう。
でも、伝え方に気をつけなくては、僕の正体のこともまだ隠しておきたいし……
コンコン。
考えていると、聞こえたノックの音。
開けるとルートさんの姿がそこにあった。
「サム、何か高度な魔法発動させたでしょ?」
「わ……ルートさん、どんだけ鼻が効くんですか……」
ルートさんは部屋に入るなり、僕が読んでいたその調査書を手に取った。
「あ、待って下さい。それは、あまり気持ちの良いものではないので」
僕は手を叩いて本を消した。
「あらま、君がそう言うなんて、余程だね?」
「まあ、ルートさんなら、一度消した本も出せそうですけどね?」
この人が本気を出せば、僕がすることなんて何もかも無意味なんだろうなあ。
「? なんで? 君の探査魔法、情熱の塊は固有魔法でしょ?」
「は? え? そんなはず……何でそう思ったのですか?」
「僕に使えなかったから……だけど?」
にーっこりと深みある笑い方をして、そう答える彼。
「それ、本当ですか?! でも、それなら、僕が使えるのは可笑しいですよ。この魔法は、僕の師匠のリアさんから教えてもらったものですし……」
リアさんの固有魔法ならば、僕に発動できるわけがない。
だって、テレポート魔法も、浮遊魔法も、他の固有魔法は発動出来ていないんだぞ!?
「うーん……予想なんだけど、リアちゃんはさ、譲渡したんじゃないのかな? 君に」
「譲渡……」
「心当たりない? 血を分けてもらったとか、生命の危機に魂で寄り添ってもらったとかさ」
血……血なら、子供の頃に……でも、そんな――
「あります……でも、自分の子供でもない僕になぜ……?」
当時、リアさんには、子供がいなかった。
僕は親友の息子であるとはいえ、希少な固有魔法を譲ってもらえるほどの存在だったとは思えない。
「リアちゃんか……リィもよく口にしているよ。大好きな親友だって」
それは知っている。それでも、それが僕に譲渡するほどの理由になり得るだろうか……
「きっと、リアちゃんにとってもリィは大好きな親友なんだろうね。だからさ、難しく考える必要はないんじゃない?」
ぽんと肩を叩かれた。
「そんな難しい顔してましたか? 僕……」
「ふ、してたよ。君はさ、自分が思うよりもずっと人に好かれているよ、自信持って」
バタン。
ルートさんが出て行った後の扉をしばらく見つめた後、僕は決意して立ち上がる。
「僕の体に探査魔法をかけてみよう。それで……」
魂に固有魔法が結びついているのかを見て、その術式を解読する。
「自力で組み立てるつもりだったから、ずるしてるみたいだなあ……でも、ウィンディのために、最短ルートがあるなら、やってみなくちゃ! あと……」
時渡りで見た、僕の魔力封印も解除出来るならしておきたい。
「よし! 魔力が回復したら、再探査だ!」
そして、コーラも帰ってきて、夕食を共にした後、寝る前に僕の身体に情熱の塊をかけた。
出てきた本には、僕の体に二つの術式が施されていると書かれていた。
一つは、魂に結びつけるようにして施されたリアさんの固有魔法、情熱の塊。
二つ目は、高魔力を人並みに絞る魔力封印の魔法。
更に、その二つの術式そのものを隠すように認識阻害まで施されていた。
「まじか、リアさん……術式自体に認識阻害かけているとは……いやまあ、僕も同じ立場ならやるかな……」
「ふふ、一筋縄ではいかないわねぇ……あなたのお師匠様は」
コーラの言う通り、我が師匠リアさんの魔法はとても強固だった。
認識阻害そのものは解ける。
しかし、その数が問題だった。
何重にも重ね掛けされた分厚い術式。
魔力消費の激しい探査魔法の後では、解除に必要な魔力量は残っていない。
なのでとりあえず、数だけ把握しようと数えてみたのだが――196個目で僕は挫折した。
「はあ、てか、調査書の最初の一文、ムカつくな……」
『僕は、平々凡々な平魔導士のサム』
「分かってんだよ。そんなことは!」
「ふふ、あなたの一人称なのだから仕方がないわ? 誰もそんな風には思っていないのにね」
「コーラ、ありがとう。でもこれは……」
地道に解いていくしかないな……
「うう、お父さん頑張るよ。応援してね、ウィンディ」
「私も応援しているわ、あなた」
項垂れる僕の背を撫でてくれるコーラ。
ああ、僕の妻、優しいなあ……
「あ、そうだわ、あなたに話したいことがあるの」
「ん?」
言うと、アイテムボックスから、ショコラさんにあつらえてもらった剣を取り出す妻。
「コーラ?」
「この里にいる剣使いの名手に弟子入りを決めてきたわ。私……」
す……と、コーラの赤紫の瞳に今まで見たことのない熱がこもるのを僕は見た。
「剣を極めたいの」
「面白かった!」
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