作戦会議②
「では、脱出経路は、一ノ門を堂々と通るということでいいですね。
次は、囚われている領主邸からどうやって救出するか、です。
囚われているのは、地下一階の大部屋で、全員、ベッドの上に仰向けで寝かされています。
首には、魔力吸収の首輪が付いており、それ一つ一つにコードが伸びていて、地下二階の魔力装置に魔力を送っています」
魔力装置―――――マロンの言っていた言葉が頭を過ぎった。やはり、軍事利用されているということか!
「50人分の高魔力を何に使っているのかしら?」
「魔力装置からウィンターン全土に送られた魔力は、ニノ門にある砲台や、他の軍用魔法具など、ありとあらゆるものに使われている。
が、一番、魔力を割いているのが、『天候掌握魔法』だ」
天候掌握?? 僕らの世界じゃ聞いたことのない魔法だ。
「ウィンターンは本来、年中猛吹雪の極寒の国です。ですが、今の王になってからは、天候掌握魔法によって降雪のない気候を保っています」
「『魔力の子』らは、元々、その魔法のために王が全土からかき集めた子共たちのようだ」
は? 天候のために手足を切って、動けなくしたのか?
「狂ってるね……その王」
「ルートさん……」
さすがの僕も、あまりにひど過ぎる事実に、「過去のルートさんも相当狂ってましたよ」とは、心の中ですら呟けない。
「ええ。でも、これが人間の王の所業なのです。サム、コーラ、人間、皆が皆、あなたたちのような善良さを持ち合わせているわけではありません」
「え? イオ、僕は?」
「ともかく、救出において、重要なのは、地下二階の魔力装置です。サムはどう考えていますか?」
イオがルートさんの訴えを完全に無視した!
「えと、まずは、地下一階の『魔力の子』たちの部屋に忍び込んで、魔力転送の腕輪を付けていくけど……その時、地下二階に供給される魔力が途切れるのは、ウィンターンの天候が元に戻って……気付かれてしまうな……。なら、救助の前に、魔力装置に細工して、しばらくは天候掌握魔法に不具合が出ないようにしなくちゃいけないと思う」
我ながら、それが途方もなく難しいことなのだと分かっている。でも――やるしかないんだ。
「そうですね、私もそう思います。この救助作戦は、単なる救助作戦ではダメなんです」
「そうだね。下手したら、僕ら全員、ウィンターンのお尋ね者になるからねぇ……」
国そのものを敵に回して、良いことなんかない。まして、僕らには、救助した子供たちのその後も守らないといけないのだから。
「国に、国民に、気付かれないように『盗み出す』――ということかしら?」
コーラの言葉に、僕は頷く。
僕らは助けるつもりでも、向こうから見れば盗人なのだ。
「この作戦名は、差し詰め、隠れて盗む――ハイドアンドシーフといったところでしょうかね……」
しーん。
イオは至って、真剣なのだろうけれど、どっかの映画のタイトルのような作戦名に、転移組が静まり返る。
「まあ、イオのダジャレは置いといてさ」
ああ! ルートさん! イオはダジャレのつもりで言ってませんよ!
「『魔力の子』たちの魔力供給をそのままに、救出出来ればいいんでしょ? ならさ」
ルートさんが、アイテムボックスをごそごそとして……
「これを使おうよ」
「鉱石プレート!?」
それは、僕らの世界で使われている――ありとあらゆる術式を刻める魔力の札だ。
「ルートさん、しかもこれ……」
「うん、ウルツァイト製の最硬度札さ……これに、救出する子たちの魔力転送の腕輪を繋いだら――」
「ウィンターンへの魔力供給を遮断することなく救い出せる!」
「そういうこと」
ルートさんは、悪そうな顔で笑い、僕も――
「ああ、サムまで、ルートみたいな顔してますよ、コーラ」
「ふふ、仲が良いのよ、この二人」
出来ることを確信して、顔が綻んでしまうのを抑えられなかった。
「あなた、やる事がはっきりしたのはいいけれど、分かりやすく説明してくれないかしら?」
コーラの言葉で、ルートさんと笑い合っていた僕も我に帰った。
「ええとね、魔力転送の腕輪の魔力の転送先をこの鉱石プレートに設定して、更に、地下二階の魔力装置の中に、この鉱石プレートを仕込むんだ――勿論、気付かれないように認識阻害をかけてね」
「そ。それなら、魔力供給が途絶える事がないから、時間が稼げる。更に――」
ルートさんがバトンタッチとばかりに、ちらりと視線を向けてきたので、僕が続けた。
「領主邸も、『魔力の子』がいなくなったことを王に打診しないかもしれない。言えば、罰則があるだろうし、言わないでいても、魔力供給はあるわけだから、視察にでも来ない限りはバレることはないんだ」
「ふむ。私はとても良い作戦だと思いますよ。カイはどう思います?」
「俺も異論はない」
「グレイとプラシーは? 何か思うところはないかしら?」
それまで、話を聞いているだけになっていた二人は、顔を見合わせて……
「えと、凄すぎて、理解するので精一杯、です……」
「僕も驚きました! 今からでも遅くないと思うので、ウィンリィたちとお昼寝をしてきてもいいですか?」
「それはダメ。プラシー、君、仮にもエルフだろ? このプレートに組む術式の精度を上げるのを手伝ってくれない?」
「あ、はい、それは勿論」
ルートさんの牽制と実益を兼ねた提案に、プラシー君は承諾するしかないようだった。
「ふむ。あとは、魔力装置に繋がっている首輪と、魔力転送の腕輪を付け替える時に生じる魔力供給のブレをどうなくすか、ですね」
「それは、調整の得意な人が地下二階に行ってやらないとダメ……かな。どのみち、鉱石プレートも、仕込みに行かなくちゃいけないし……」
50人を一人で保護していたら時間がかかり過ぎる。
やはり、アイテムボックスが大きめな僕とルートさんの二人でそれはやりたい。
となると――
「私にやらせて」
声に振り向くと、いつの間にか起きていたアプリの姿。
「アプリ、でも」
「魔力の子の魔力のブレを補えるのは、同じ魔力の子の私だよね? どうやるのかはまだ分からないけれど、教えてもらえたら、絶対に出来るようになるから」
真っ直ぐに見つめてくる大きな瞳に、僕は、父として、仲間として、この子を信じたいと強く思った。
「分かった。イオやプラシーと一緒に術式を組んで、必ずアプリに教えるよ」
「うん! ありがとう、サム」
やる気満々といった感じで、握り拳を作る娘の肩をコーラも誇らしげにポンと叩く。
「よし、やることは決まったね。あれ? そう言えば、グレイとノアは、長の手紙の代わりに来たんじゃなかった?」
はっ! すっかり忘れてた! 救出作戦の前に、この里に50人受け入れてもらう許可を得ないとダメじゃないか!
「あ、長なら、明日にでもこっちに来いと言っていただけですから」
「あら、なら、明日は、エルフの長に会いに行くのね」
エルフの長……風の魔法を極めて、卓越した調整魔術を操り、飛行魔法さえ実現しているという――
「とんでもなく、大者だよね……緊張するな……」
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