作戦会議①
手足を失っている……それは――
「イオ、50人全員がということ?」
「ええ。ドライアド――アドが目視で確認したそうです」
僕は、はっとして、後ろを振り向く。
アプリの大きな瞳が見開かれ、瞳孔も開ききっていた。
それを見たウィンリィとノア君が、すぐにアプリに寄り添った。
「あなた、やれるかしら?」
「うん。一度に全員は無理だけど……必ず元に戻すよ」
アプリがゆっくりとこっちを見る。
僕は、最大限、優しい表情を作り、娘を見つめた。
「アプリ、みんなの手足は、時間がかかるけど、僕が必ず治すから……でも、君の魔力を借りてもいい?」
「……な、治せるの?」
「うん」
「みんな、ものを掴める?」
「うん」
「は、走れる?」
「もちろん」
「アプリ、あなたのお父さんはね、祖国一の回復士なの。どんな欠損も元通りに出来るわ」
アプリの顔は、ボロボロとこぼれ落ちる涙であっという間にぐしゃぐしゃになった。
僕は、それにハンカチを当てる。
「っ、よかった、よかったよお……サム、あり、がと、う! ひくっ」
「うん、アプリ」
―――――
「コーラ、欠損が治せる回復士なんて、二国にもサム一人しかいないんじゃない?」
「そうね、その通りよ」
「ふむ……それなのに、サムはどうしてあんなに自己評価が低いのさ」
「自分の魔力だけで治せないからよ。魔力だけあっても、発動できない者ばかりの難解術式なのにね」
「ははっ。サムらしいね」
「ほんとにね」
あの後、アプリの涙は中々止まらなかった。
けれど、泣き疲れた今は、ウィンリィとノア君に挟まれて、小上がりの中心でお昼寝をしている。
「もう、二人とも、聞こえてるよ」
淹れてきた七人分のお茶をテーブルの上に置きつつ二人を少し睨む。
「だってさ、欠損を治せる回復士なんて、僕の国にもいないからね。本当、君は自信を持つべきだよ。全く」
「……僕の前の筆頭回復士は、自分の魔力だけで全て治してみせましたから」
戦死するまで筆頭回復士だったアニは、僕とコーラの幼馴染にして、ルートさんの孫娘だ。
彼女と同じことが出来るまでは、僕はまだ胸を張れない。
「もっと言ってやって下さい、ルート」
「この世界でも、稀有だぞ? 欠損回復士はな」
むむ……イオとカイまで……
「ほんとですよ。僕も50年生きてきて、サムさんが初めてですよ」
プラシー君! 50歳だったんだ!? エルフだから、見た目よりは歳上だと思ってはいたけれど、やっぱり、15.6歳の見た目で50歳は驚くなあ……
「ふふ。サムさん、調整魔術だけでも凄いお人なのに、欠損回復まで使えるなんて……遥か遠くまで行ってしまいそうですね……」
「いやいや、グレイ、みんなも! 買い被り過ぎだから! コーラも何か言ってよ! アニに比べたら、僕なんてまだまだでしょ!?」
複数人に褒められることはあまりなかったので、反応に困った僕は、妻に助け舟を出してほしかった。
しかし――
「あら。私は子供の頃から、あなたのことを凄い人だと思っていたわ? 今、ようやくあなたが正しく評価されるようになって、とても愉快よ?」
言って、優雅にお茶を飲んだ。
むむ……コーラ、子供の頃はそんなこと言わなかったくせに。
「さて、雑談はこれくらいにして、詰めるぞ? 子供たちが寝ている間に」
「あ、うん! カイ、イオ、現状説明をお願い」
イオが、お茶に口を付けてから、ウィンターンの地図を広げた。
「ウィンターン全土を覆う結界は強固です――が、海沿いの国境街アイスエッジには、凱門が二つあり
、大峡谷に近いニノ門は、警備に魔導士を配置していません」
シンプルに考えるなら、逃走路に選ぶのは、ニノ門だ。だけど、警備ゼロの理由があるはず。
「どうして、魔導士を配置していないの?」
ルートさんが僕と同じ疑問をイオに問う。
「ニノ門に、魔導の砲台があるからです。この砲台は、遠隔で撃つことが可能で、今まで、他大陸から海を経由して上陸しようとした侵略者を一人残らず撃ち落としてきた実績があります」
「砲台の大きさは?」
「一般的なサイズですよ。しかし、動力が魔力ですので、小回りがききます」
「つまり、魔導士が対人目的で撃つ魔法と同じ精度ということか……」
ふうむと、ルートさんが口元に手を当てた。
「ルートさんの言う通り、入る時は旅行者として入国するとして、助け出した50人もの『魔力の子』を連れて通るには危険過ぎるね……」
50人……しかも、手足がない状態の子たちだ。
大きな運搬物が必要になる。
この世界にある馬車でも、多くても10人ほどしか運べない。
やはり、複数の馬車を用意するしかないか? ならば、怪しまれずに複数の馬車が出国するには、商人ギルドに登録して、商品を運ぶ体で行くしかないか……
「やっぱり、あれしかないんじゃないかしら?」
「ああ、コーラもそう思う? 僕もね、同意見だよ」
「?? 二人とも?」
コーラとルートさんの二人だけが、それしかないと頷きあっていて、皆、きょとんとそれを見つめている。
「サム、僕らにはさ、何でも持ち運べるボックスがあるじゃない?」
「えっ!? まさか、アイテムボックス!?」
「なるほど、それなら、見た目にも怪しまれずに凱門を通れますね」
確かにそうだが!
「あの、生きた人間を入れたことがないんですけど、大丈夫なんですかね??」
「え? 大丈夫でしょ。 むしろさ、中に入れたものの時を止めるくらいだから、子供たちが衰弱していたとしても、それ以上悪化させることなく、安全に連れてこられるよ」
確かに、ルートさんの言う通りだ!
でも!
「分かりました。ただ、一度、僕が入って確かめてみます。ルートさん、僕をしまってもらえますか?」
「なら、僕はサムのアイテムボックスに入るよ」
僕らは、交代で10分だけ互いのアイテムボックスに完全に入ってみた。
体感時間は、一瞬で、入ってすぐに開いて、外に出られた。
「全く問題ないですね……でも、長時間入れてる内に、もし窒息でもしたら……」
「確かに、魔力の子を保護してから、エルフの里に戻ってきて解放するまで、すんなりいっても丸一日は見た方がいいね。長時間の検証も後でやろうか」
僕はルートさんの言葉に頷き、みんなも同じように頷いたところで、イオが口を開く。
「では、脱出経路は、一ノ門を堂々と通るということでいいですね。
次は、囚われている領主邸からどうやって救出するか、です」
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