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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第2章 竜の集落とその運命(さだめ) 第1話 アプリ


 竜の集落に向かい、険しい山路を4人で歩く。

 アプリはまだ子供だが、兎獣人の特性なのか、ぴょんぴょんと軽快に歩みを進めていた。


 僕ら夫婦も、国境沿いのライン戦線地区は、森の中にあったので、難なく彼らに付いて行くことが出来た。

 ふと、隣のグレイとアプリを見て、一口に獣人と言ってもタイプは百万通りあるのかもしれないと思う。

 グレイから、人の姿と変わらない獣人もいるとは聞いていた。

 だが、同じ獣人とは思えないほど違う二人に、つい目がいってしまう。


 グレイは、狼そのものの顔立ちに、手足には、長く鋭い爪、体も硬そうな灰色の毛で覆われている。

 それに対し、

アプリは、僕ら人と変わらない顔立ちに、本来の人の耳の位置に兎の長い耳を携え、後ろを見ると、腰とお尻の真ん中辺りの布が小さく膨らんでいた。


 おそらく、兎の丸みある尻尾がズボンの中に納めてあるのだろう。


「サムさん、やっぱり気になります? 俺たちの外見の差」


 しまった!考察に夢中になって、不躾な視線を送ってしまっていた!

 慌てて謝罪すると、グレイは笑って、気にしてませんよと言ってくれた。


「仕方ないですよ。俺たちはこの差を『獣濃度じゅうのうど』と呼んでいます。

ちなみに、魔法で調節可能です。

俺はどうしても、この姿じゃないと落ち着かなくて、やらないんですが、草食獣人と肉食獣人のカップルなんかは特に多用していますよ」


 僕もコーラも顔を見合わせて、


「グレイの人間顔見てみたいな」

「私も見たいわ」


 と言ったが、彼は少し照れた表情をして、


「いやあ、遺伝子の中の情報を人よりに引き出すだけで、本来持っている姿だって、わかっちゃいるんですけど、どうしても落ち着かないし……あと、普通に普段と違う姿を人に見せるのって恥ずかしいじゃないですか。だから、お断りさせて下さい」


 これ以上は、誠実で良い奴の彼に強いちゃだめだなと思って、僕らも食い下がらなかった。


 ふと、先ほどの、ノアの言葉が頭を過ぎる。


『アプリは、とても柔らかいんだ。だから、爪とか牙で傷つけないように気をつけてね』


 これはもしかして、彼本人の経験談なのではないだろうか?

 ノアもシルバーも、アプリと同じくらいの獣濃度の姿だった。


 あの姿は、魔法で調節したものなのだろう。

 まだ子供だというのに、ノアの優しさには目が滲む。


「ノア君……ノアのこと考えてるでしょ? あの子、ジーニアスに似ていると思わない?まるで、好きな子を守る王子様みたいだったわよねえ」

「ジーニアスは置いといて、ノアが王子様みたいは、同意するよ。うんと優しくて、良い子だったから」


 ジーニアスとは、娘の守護者を気取る、いけすかない少年だ。

 親友の息子というアドバンテージを持ってしても、僕はどうしても奴を好きになれなかった。

だって、彼は……


「あなた、ジーニアスが将来、あの子と結ばれるかどうかは、分からないわ。それなのに、はなから敵対視するのは大人気ないわよ?」

「いいや、かっさらって行くよ。僕には分かる」


 その時、先行して、前を行くグレイとアプリが、ピタッと立ち止まった。


「? グレイ、どうしたの?」

「あちらに、鬼大雀おにおおすずめの大群が居ます。下がって遠回りしますね」


 視線の先には人の赤ちゃんほどのサイズの巨大な蜂が山道を覆い隠すように群れている。

 迂回しつつ、鬼大雀についてグレイが話してくれた。


「鬼大雀は、普通の蜂が花の蜜を好むのに対し、魔力や瘴気を好む蜂型の魔獣です。竜の排出する魔力たっぷりの瘴気を目当てに竜の集落付近に巣を作るんです。毒は無いんですけど、強靭な顎で噛まれると厄介です」


 そう、僕らの目的は、あくまでも、


『竜の様子を見てくること』


 魔物退治で騒ぎ立てて、竜に気付かれでもしたら、本末転倒だ。


 しかし、迂回しても、迂回しても、鬼大雀は現れる。

 5度目の迂回の時、流石に疲れて、昼食を取ろうと、腰を下ろした。


「すみません……まさか、あんなにたくさんの巣が出来ていたなんて、暫くここまで来ていなかったので、把握出来ておりませんでした……」


 以前よりも数が増えた、と言う事なのだろうか?

それは、瘴気が濃くなったということを示しているのではないだろうか。


 浮かぶ疑問をグレイに問おうと彼に目を移す。


 がっくりと肩を落として、手に持ったサンドイッチを中々齧ろうとしないその姿に、質問攻めにするのは、後にしようと思い、考えを飲み込んだ。


 そして、何とか元気付けようと、僕が口を開こうとしたその時、


 くいくい


 と、アプリがグレイの袖口を引っ張って、何やら口を動かした。


「えっ!? でも、それは危険だよ。もし、奴らにそれを感知する能力がなかったら!」


 アプリは、ゆっくりと首を振り、また口を動かす。


「それはないって……まあ、確かに竜の魔力瘴気を追って巣を作るから、探知能力はありそうだけど……」


「グレイ、アプリは自分を真ん前にして、堂々と突っ切ることを提案してる?」

「あっ、そうなんですけど、分かっちゃいましたか……」

「うん。唇の動き読めるから」

「えっ??」

「私達、子供の頃の環境がてら、そういう訓練を受けてるのよ」


 グレイは驚いた顔をして閉口したが、アプリは直ぐに切り替えて、僕ら夫婦に向き直ると口を動かした。


「うん、アプリ、言いたいことは分かったよ。君のその、溢れる魔力を利用するんだよね?

でも、それだと鬼大雀が寄ってきて、逆効果なんじゃないのかな?それじゃあ、君が囮になってしまうよ?」


「アプリは、その……」


 それまで、閉口していたグレイがやっと口を開くが、言い淀み、口を噤んでしまう。

アプリがそんな彼の腕を引っ張り、小さな口で

「言っていいよ」と告げた。


「体全体が、巨大な魔力の爆弾そのものの『魔力の子』なんです。

だから、竜も、魔力を餌にする魔獣も、簡単には手出し出来ない」


 苦々しい表情で話したグレイに、またアプリが唇を動かす。

 今度は「気にしないで」だ。


「ごめん、ごめんね、アプリ」


今度は首を振った。そして、微かに笑顔を向ける。


 優しい子だ。僕は初対面で恐れを抱いてしまったことを申し訳なく思った。

グレイもそうだが、他者を思い遣る心がこれほど強い関係を目の当たりにすることは滅多にない。


 同じ獣人同士でも、力の差が大きいからこそなのだろうが、何て、思い遣りに溢れた種族なのだろう。


 それでも、確認しないといけないことがある。


「つまり、大きな衝撃が加わると、アプリの内包魔力が破裂する恐れがあるってことかい?」

「はい。でも、安心して下さい! 魔法具で押さえていますから、ちょっと怪我をしたくらいでは暴発しません。その、だから、アプリを…」


 僕とコーラは、目を合わせた後、グレイとアプリになるたけ優しい目を向けて、話す。


「大丈夫だよ。何も変わらない。アプリは、可愛い女の子だ。守るべき対象のね」

「ふふ、その通りね……しかも、」


 コーラがアプリの真ん前まで移動し、彼女をひょいと抱き上げる。


「うちの子と同じ4歳児。可愛らしくて堪らないわ」

「そうでしたね……」


 娘を置いて、異世界に飛ばされた僕らの身を憂いてか、グレイの眉がこれでもかと下がって、吊り目との対比が凄いことになってしまう。


「昨日泣いてらっしゃったのも、娘さんのことですよね……」

「うん……煩くしてごめんね」

「いえいえ! 全然煩くなんか! これからも気にせず泣いて下さいね!」


 優しい彼にお礼を言って、コーラとアプリに視線を移すと、アプリはコーラの腕の中で安心したのか、朝が早かったせいなのか、眠ってしまっていた。


 可愛い寝顔を3人で見つめて、くすりと笑い、僕らは食事を切り上げて、鬼大雀の群れを突っ切る覚悟を決めた。

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