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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第1章転移と喪失 第5話 もう一人の娘


『ウィンディ、迎えに来たよー』

『お父さん、すみません。お絵描きに夢中になってまして、少し待っててあげてもらえますか?』

『え? ああ、分かりました……』

『ウィンディちゃん、キリがいいところで、終わりにしようね?』

『うん、まってね……あと少しだから……できた!! お父さん!』


 笑顔で僕を目指して駆けてくる娘を、抱き止めようと腕を伸ばしたところで――


「ん……」


 目が覚めた。腕の中の妻の温もりに心底安堵する。


「ん、サム?」


 コーラも起きて、僕の胸から顔を上げた。


「コーラ……ウィンディの夢を見たよ。迎えに行く夢……」

「私も、似たような夢を見たわ……」


 顔を合わせて、互いの心の切なさを共有しようにも、腫れ上がった瞼が重くて、よく見えない。


「……か、回復かけようか……」

「そ、そうね、お願いするわ……」


 顔を元に戻して、右手の魔法紋に口付けて、隊服を身に纏う。

 薄汚れていた隊服は、1日収納しただけで元通りのパリッとした戦闘服に復活していた。


「異世界でも、私たちの世界の魔法が使えて良かったわね」

「そうだね。アイテムボックスも生きてたし、割と恵まれているのかな……」


 本音では娘を置いて来てしまって、恵まれてるもクソもないので、あはは……と2人、力無く笑った。

 すると、窓から陽の光が差し込み始めたので、部屋を出る。


 リビングに行くと、グレイが朝食を用意して待っていてくれたので、手早く胃に収め、外に出た。


「加えたい子は村長の家にいるんです。昨日の今日で、申し訳ないのですが……」


 昨夜、彼が口にした「もう一人」という言葉が頭を過ぎる。

 しかし、シルバーの家にいるのなら、昨日のうちにグレイの家に連れてくれば良かったのでは?と思ったが、彼のことだ――事情があるのだろう。


 それに、シルバーの家、コンクリートのような作りで、明らかに他の木造の家より頑丈に作られていた。

 しかも、結界も外側ではなく、内側に向かって張られている。

 住宅地からも離れているし……何かを隔離しようとしているのではないだろうか。


 考えているうちに家に着くと、今回はベルを鳴らしてから中に入った。


「おはよー……ごめんね、今起きたんだ……でも、この子は先に起きて、身支度も済ませてたみたい」


 眼下には、シルバーの脚の長さほどもない背丈の子供。

 真っ白な髪に、大きな赤い瞳の兎獣人の女の子だ。


 コーラが少女を驚きの表情で見つめている。

それは――娘と同じくらいの少女だからというだけでは、きっとない。


「子供ですよね? 危険では? というか、何故、この子を?」


「アプリは、まだ4歳で子供だけど、この子がいた方が竜の砦まで安全に行けるはずなんだ……詳しくは、道中でグレイに聞いてね。ほら、アプリ」


 アプリと呼ばれた少女は、僕らの真ん前までテテッと歩き、目を見たあと、一歩下がって深くお辞儀をした。


「アプリは言葉を話せません。だけど、こちらが言っていることは分かりますし、物分かりもとても良い子です」


と、グレイが続ける。


 言葉が話せない? 代償だろうか? だって、この子……


 改めてアプリに目を凝らす。


 魔力が灯りやすい瞳から、ぽろぽろと微量の魔力が溢れ落ちている。

 少女が瞬きをするたび、それは零れ、彼女がこちらへ来るまでの道には、足跡のように魔力の痕跡がはっきりと残っていた。


 何だこれは……まるで溢れているようだ。この子の体積に収まらない魔力が。

 手首に嵌めている魔法具と思しきリングに、最も魔力が集中している。どうやら、これで抑えているようだが……


 恐ろしい――こんな小さな子に抱くべき感情ではないと思いつつ、僕は畏怖した。


「初めまして、アプリ。私はコーラよ。こっちはサム。私たちね、あなたと同い年の娘がいるの」


 妻の柔らかな声音にはっとする。


「あっ……こんにちは! 僕はサムだよ、アプリ」


 母親らしく、優しく挨拶したコーラに対して、僕からは、ぎこちない声が出てしまった。


 それでも――少女は、にこりと笑みを返してくれた。


 その時、何か言おうと巡らせていた思考を遮るように、僕の耳に大きな物音が響いた。


バタバタバタバタ! バタンっ!!


「グレイっ!」


 今起きて来たのだろう。寝癖直らぬ頭で、部屋に現れたのは、また子供。見た目からして、シルバーの息子かな?


「ノア……」


 どうしたの?と聞かないのと、何やら負い目がありそうなグレイの表情に、僕らは傍観者を決め込む。


 ノア少年は、僕らに軽く会釈すると、グレイの前に行き、自分より大分大きい彼を精一杯背伸びして、見上げて言った。


「わかってると思うけど、アプリは凄く柔らかいんだ。爪とか牙で傷つけないように気をつけてね」

「分かった。爪カバーグローブ付けてくよ、安心してな」


 優しく微笑んで、彼は鞄を漁り、ゴツい皮で出来たカバーを爪に装着していく。


 その間、ノア少年のことをシルバーから紹介してもらい、僕らは出立した。


 目指すは、竜の集落。

大人3人と子供1人の旅がどんなものになるのか。見知らぬ土地での冒険のわくわくよりも、不安を携えて、歩を進めた。



 ―オマケ―

 ―オーレンの定期報告―


 サム、コーラ、お前達が戦死してから今日で一年が過ぎた。


 ウィンディは問題なく成長し、昨日、初訓練を終えた所だ。


 訓練初日で、対魔防壁をぶち抜くというお転婆っぷりをお前たちにも見せてやりたい。


 一国に次ぎ、我が二国の強靭な対魔防壁を齢5歳にして破壊する偉業は、サム、お前の母、ウィンリィさん以来ではなかろうか。


 間違いなく、この子は軍のトップ魔法少女になる。

 将来は、戦闘激化地区に送られて、お前の父、スノークのような末路を辿るかもしれない。


 でも、安心してほしい。俺もこの度、昇進が決まった。

 魔法少年、少女たちの司令官に任命されたのだ。


 こうなれば、権限を最大限利用して、俺たちの子を守ろうじゃないか。


 いつか、子供達が戦争に送られる仕組みを変えてやる。


 見ててくれ。


 一追伸一


 ジーニアスにこれを書いているのがバレてしまった。

 次回の定期報告は、自分が書くと譲らないので、息子に書かせることとする。


 お前は気に食わないだろうが、どうか読んでやってくれ。

 頼むな。


 オーレンより


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