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28歳の息子と13歳の母の異世界冒険譚  作者: 相沢春人
第5章 王室と魔族

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番外編② イオと孵らない卵

 私は、イオ。

 始祖竜アルの10番目の子供で、番(つがい)のカイとともに、砦を一つ任されている。


 今では500体もの竜が暮らす砦だが、カイと二人、巣立ちしたばかりの頃は、そうなる未来がまるで見えなかった。


 これは、その時のお話。


「お疲れ、イオ」

「ふう、有難う、カイ」


 カイが、産卵を終えて、汗をかいていた私の額に、タオルを押し当ててくれた。


 川で水に晒してくれたのか、冷んやりと気持ち良い。


「10個、無事に産めたみたいだな」

「ええ……後は、半年間、魔力循環の良い場所に置いて、孵るのを待つだけね」


 水を飲もうと、水瓶まで歩こうとして、よろけてしまう。

 初めての産卵は、思いの外、体力を消耗してしまったようだ。


「……大丈夫か? 水なら俺が持ってくるから、イオは、寝床に横になるといい」


 受け止めてくれたカイは、そのまま私を抱き上げて、寝床まで運んでくれた。


「有難う、カイ」

「ああ、安静にな」


 それから半年後、無事に産まれた10体の子供たちと賑やかな暮らしをここでする筈だった。


 そう、思い込んでいた。


―――――


「カイ!」

「! どいてろ! イオ!」


 産卵から5ヶ月後。

 光を放つ卵を持って、祠を飛び出したカイは、遥か上空に卵を投げて――


パアアアアン!


 と大きな音と暴風を立てて、卵は爆散した。


「カイ……」

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……イオ……」


 光を放っていた卵は、『魔力の子』だった。

 竜の卵の分厚い外殻に阻まれて、私もカイも、爆発する直前まで、それに気付けなかった。


「残り9個は、皆、無事か?」

「ええ……傷一つないわ」


 それから半月。

 あの日から毎日確認していた卵の一つに異変が現れた。


「カイ……この子」

「ああ……魔力が微弱だな」


 それから、卵の側を離れず、祈るように抱き続け――


「魔力を感じないわ……」

「…………」


 卵を産んでから半年を目前にして、その子の成長が止まった。

 この子は、あの爆散した『魔力の子』の番だったようだ。

 番を失って、産まれてくる気力を失ってしまったのか……それでも、


「私は、産まれてきてほしかった」

「イオ……」


 カイが肩を抱いてくれても、私の心は空虚だった。

 それから、卵が成長を止めた後も、私はその子を抱き続けた。


 卵は、どんどん黒ずんでいって、生命が息絶えたことを私に突きつけたが、私は構わず、抱き続けた。


 ある日、私が籠ったこの祠の……隣の祠から産声を聞いた。それでも、私はここから動けなかった。


「イオ……」

「……」


 カイが毎日やってきて、花と水を置いていく。

 たまには、口に含んだ方が良いと、鬼大雀の巣から採取した魔力たっぷりの蜂蜜を固めた飴も、持ってきてくれた。


 私たち竜は、星から送られてくる魔力だけで、充分活動できるのだが、経口摂取が出来ないわけではなく、たまに、そうしたものも嗜んではいた。


 しかし、何が目の前に置かれても、今の私の心は動かなくて……口にすることが出来なかった。


「イオ、葬式をしよう」


 何日も引き篭もり続けたある日、カイが突然そう言った。


「……葬式?」

「草花人(そうかびと)とエルフがしているお別れの儀式だ。これをすると、気持ちが少し軽くなるらしい」


 軽く? 私の卵は二つとも、死んでしまって、私の持ち物は、"軽く"なったのではないのだろうか?


 それとも、無くした気持ちが重くて、私は今、身動きが出来ない、とでも言うのだろうか?


―――――


 カイが、あまりにも悲しそうな顔をするので、私は、その"葬式"とやらをしてみることにした。


 カイが用意してくれた木の棺に、黒ずんだ卵を入れる。


「綺麗なものを一緒に入れるといいらしい」


 とカイが言うので、花を摘みに行く。


 戻ってくると、棺の中に、卵以外に、同じ大きさの石が入れてあった。


「爆発した子の代わりだ」

「そう」


 何となく、成長を止めた子の上に赤い花を、爆発した子の上に青い花を添えた。


 そして、周りに色とりどりの花を敷き詰めて、お別れの言葉を言って、土に埋めた。


 その上に、カイが石から切り出しておいてくれた墓標を立てて、手を合わせる。


 合わせながら、考えてしまった。

 また、産卵することが出来たなら、今度こそ、あなた達を産んであげると言えるのに、と。


 竜は、一生のうち、一度しか産卵出来ない。

 私がこの二人を産んであげられる機会は、二度とないのだ。


「イオ、家に帰ろう」

「……」


 家、とは、あの私が籠っていた祠ではないわよね……

 今度こそ、あの産声の主たちに会わなければいけないのか。


 気持ちは重かった。

 "葬式"をしたのに、私の気持ちは軽くならなかった。


「お帰り、カイ、イオ……」


 家に帰ると、ボロボロのヨレヨレになった父――始祖竜アルが目の前にいた。


 普段はサラサラのストレートロングヘアは、ところどころ絡まっていて、パァンっとハリがあった顔も、なんだか皮膚が弛んでしまっている。

 極め付けは目の下の隈だ。長く生きてきて、ここまでやつれた父の姿を見たのは初めてだった。


 父の腕の中には、眠る一体の赤ちゃん竜。


 他の子達は、寝床ですやすやと寝息を立てていた。


「一体だけ、何をしても泣き止まなくてな……お前たちは、そんなことなかったのに、一世代挟んだだけで、こうも個体差があるとはな」


 父が話しながらヨロヨロと私の前に向かってくる。

 赤ちゃんを抱いているというのに、何と不安定な足取りか――気付けば、思わず父の腕の下に自分の手を出してしまっていた。


「ほら、イオ、お前の子だ」


 父がその赤ちゃん竜を私の腕の中に落とす。


 ずしり、とおさまったその命は、とても重たく感じた。


 初めて、生きた自分の子を腕に抱いたというのに、私の心は重たく沈んだままだった。


 だが、


 ふわりと、カイが子ごと私を抱きしめた。


「っ……」


 力強く抱きしめてくるので、子供が潰れないかと危惧した私は、カイに苦言を呈そうと、彼を見上げた。


 ポロポロと、涙が降ってきて、私の顔を濡らす。


 その涙は、ずっと、彼を一人きりにしてしまっていたのだと、私に気付かせた。


 腕の中の子が身じろぎをして、私は、カイが、力強くとも、子が苦しくないように配慮してくれていることも理解して――


 とうとう、私の目からも、涙が溢れた。


「カイ……ごめんなさい……私、一人で、悲しんで……閉じこもって……」

「いい……産んだのは、イオだから……俺よりも、辛かっただろうから……」


 そんなことない、そんなことはないでしょう?


 たまらなくなって、私は、子を片手に持ち替えて、空いた腕を彼の背に回した。


「ごめんなさい……カイ」

「……っ」


「二人とも……」


 父の低く疲れ切った声に、私たちは、父の方を見た。


「私は、帰ってもいいか?……他の子達の砦も見に行きたいのでな……」


 私たちは、父にお礼と平謝りをして、送り出した。


 父は去り際に、「何かあったら、すぐに使いを飛ばすこと」


 と私たちに言った。


「カイ……私、一人じゃなかったのね……」

「ああ、俺も、父も、兄姉たちも、それに、子供たちもいる」


 一人で塞ぎ込んでいたことを、私は深く後悔した。


 彼の優しさと存在に感謝しながら、子供たちを育てて、一緒に砦を大きくしていこう。


 そう、強く決意して、腕の中の子を見つめた。


「遅れてごめんね……お母さんだよ」


 小さな子竜の手にそっと触れる。

 すると、眠っているその子竜は、小さな手で、私の指を握ってくれた。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「今後どうなるの!!」


と思ったら


下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援お願い致しますm(_ _)m


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。


何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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