旅立ち
「ルート、怖い、怖いですよ……落ち着いて下さい。アプリが起きてしまいます」
「……」
「私だって、ここ数日ウィンリィと寝所を共にしているんです。あの子の顔を曇らせるようなことをしたいとは思いませんよ」
「……」
「すみませんてば! とにかく、ウィンリィに私から余計なことを話すつもりはありません。あの子はまだ子供ですから」
「大人になっても、だよ」
「それは……あの子が自分で決めるのではないですか? 短い付き合いですが、自らを持って、信じて生きている芯の強い子だと思いますが」
前にルートさんが僕に言ったこととほぼ同じことを言うイオに、ルートさんの表情が少し柔らぎ、
「……はあ、そうかもね、僕もあの子が自分で決めたことには反対しないよ」
重たく流れてきていた空気も柔らぎ、僕とコーラはほっと一息ついた。
「ただいまーあ! インター! イオ! あちゃ、アプリ寝てたんだね……」
その時、木陰に潜む僕とコーラを素通りして、ウィンリィが現れた。
「リィお帰り。話は聞けたかな?」
「うん! エルフの里のこと、たくさん聞いてきたよ! ショコラともちょっとお茶してきた!」
「ウィンリィ、頭の花はどうしたのです? 一つしかありませんが」
「あ、これはね、ノードさんにあげてきたの! キタテハの食草がウィンターコスモスだから、香りが好きなんだってさ」
元気だけど、声量を下げて話すウィンリィに、ルートさんもイオも、アプリに視線を落とす。
未だ娘はすやすやと眠ったままのようだ。
「サム、私たちも行きましょう」
「え、あ、う、うん」
イオが言っていた、『運命』とは、何なのだろうか?
そんなつもりはなくとも、結果的に盗み聞きをしてしまった僕らは、イオにそのことを聞くのは憚られる気がしていた。
―――――
あの後、夕食を終えて、寝る支度を整えた僕とコーラは、久しぶりに僕らと寝たいと話すアプリを迎えて、三人で就寝した。
すやすやと眠る娘は、とても可愛くて、この子の願いを叶えてあげたいと強く思った。
「ねぇ、あなた」
「コーラ、君も眠れないの?」
アプリを挟んで、僕らは目を合わせた。
昼間のルートさんとイオの話のことを僕らは話せずに今を迎えている。
「ええ……あなたもそうね?」
「うん……」
娘がぐっすり眠っているのをいいことに、僕らは小声で話し始めた。
「ルートさんがウィンリィの運命って、どういうことなのかしらね?」
「おかしいよね? ここは異世界で、転移してきた彼らとは、元々、関係のない世界のはずなのに」
それでも、二人は共に祖国一の高魔力保持者だ。 異世界に何らかの影響を及ぼしうる存在であると言われても、驚きはしない。
「そうね。運命というなら、ウィンリィさんのそれは、あなたの父――スノークであるはずよね?」
「うん、僕もそう思う」
そう、そのはずなのだ。そうでなくては、スノークとウィンリィの間に生まれてきた僕の存在をどう説明するのだろう。
ただ、僕の頭には一つの懸念がある。
それは、ずっと片隅に留まり続けていたが、口に出すべきではないと何処かで警鐘が鳴っていた。
「この世界に、この世界だからこその、『運命』なのかもしれない」
「サム、『世界』ではないでしょう?」
ああ、コーラも気付いていたのか。
「そう、だね。でもそれはまだ、確証がないから」
「分かったわ。あなたにそれが持てたら、また話しましょう」
僕は、頷いて、アプリの体の上に添えられたコーラの手に自分のを重ね、目を瞑った。
母さん――ウィンリィが、この世界に留まったところで、避けようのない大きな『運命』があるとしたら、ルートさんはどうするのだろう?
元の世界に返さないことで、ウィンリィを守ろうとしているあの人は……
ただ、僕の考えの通りだとして、どうとなるわけでもない。むしろその方が、帰り道自体は、大分シンプルになる。
こればかりは、一人で考えていても、答えがまだ出ない。
僕は明日、ルートさんと話すことを決めた。
―――――
「あの、ルートさん」
「何? サム」
朝食の後、仕事がひと段落ついたというショコラさんに会いに出掛けた女性陣たちを見送って、僕は彼を呼び止めた。
「ちょっと部屋で話しませんか?」
「ん、いいよ」
僕とコーラが泊まる部屋に招いて、ソファに向かい合わせで座り、
「この世界は、本当に異世界なのでしょうか」
ずっと気に掛かっていたことを直球で聞いてみる。
「異世界だよ」
その言葉からは、そうでないと困るといった意味が滲んでいるように聞こえた。
「サム、僕らはこの世界にとって通りすがりだ。そうでなくちゃいけない」
「そう、ですよね」
そうでないと、この世界でもウィンリィを守れないのかもしれない。
ルートさんの表情も声も、いつもの調子だった。が、目だけは、彼の黒曜石の瞳だけは、光なく暗かった。
「ま、これはさ、僕個人の建前に過ぎないからさ、君はちゃんと、正しいものを見据えて、帰り道の方法を構築してね」
そう言って、片目を閉じた彼の仕草は、見慣れたもので安心した。
が、目を逸らしたところで、すでに竜とも魔族とも、関わりを持っているルートさんとウィンリィに『運命』とやらを回避することができるのだろうか。
「ルートさん、僕は――僕とコーラは、きっとアプリも、ウィンリィの味方です」
「ん、ありがとう。そうだよね、リィには仲間がたくさんいる。何があっても、僕らで守ればいいんだよね……」
帰る方法、ウィンリィの身の安全、アプリの願い。
僕が取り組むことは明白だ。
これからも考え続けて、きっと最善の答えを見つけてみせる。
そして――
ドライアドの香りに認識阻害も無事施せて、アイスエッジに密偵として送り出したところで、僕らはエルフの里に向かうことになった。
「はい、これ」
「え……マロン、これは」
別れの時、王――マロンから手渡されたのは、三つの銀製の札。
それは、この国ではSランク冒険者の意を持つもの。
「あの、ルートさんもウィンリィもいたので、僕らだけの力じゃ……」
「ルートがね、言うんだ。自分は、アドを捕まえただけで、それ以外の戦闘には一切関与していないって。だから、これは君たちのものだよ」
何と、たった一回、迷宮に入っただけで、冒険者として最高の称号を手に入れてしまった……
「三人ともおめでとう! アプリのは僕が付けてあげるねー」
「サム、私のはあなたが付けてくれるかしら?」
「サムのは僕が付けてあげよう。あ、これを付けてるだけで、けっこうモテるから、君は認識阻害かけといた方が良いかもね 〜」
「ええ……それじゃ付ける意味ないじゃないですか……」
あっはははとみんなで笑い合って、イオとカイの背に乗った。
遥か上空から見下ろしたオータンは、国土全域が紅葉していて――
不安になるくらい綺麗だった。
まるで、この世界の真実を覆い隠すように。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援お願い致しますm(_ _)m
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m




