新しい武器
収穫祭は月曜から始まって、七日間催され、最終日には王宮主導で巨大な鉄板焼きが振る舞われた。
首都ハーベストの大広間で行われたそれを見届けてから、僕らはショコラさんの鍛造所に向かっている。
「アプリ、お好み焼き美味しい?」
「……うん、ソースが甘くて、好き」
「ふふ、美味しいもの、たくさん知れて良かったわねぇ」
何と、巨大鉄板焼きで振る舞われたのは、お好み焼きだったのだ。
今、アプリとウィンリィは、厚手の紙に包まれたそれを食べながら歩き、コーラは二人を優しい目で見ている。
「この世界、ところどころ僕らのいた世界と同じ食べ物がありますよね……」
「はは……僕らみたいな転移者が広めたんじゃない?」
そうなのだろうか? ルートさんなら、もっと深い意見が聞けそうな気がしたのだけれど、これは知っててあえて言わないでいるパターンかな。
「はあー、美味しかったあ! コーラとサムのおかげだね!」
「ふふ、たまたまよ」
「まさか、あの時の依頼のウルツ鋼の使い道が、鉄板焼き用のプレートとはね……」
「魔法で均一に熱が通るから、大人数用に向いてるんだよ」
時渡りの迷宮に入る前に受けたウルツ鋼採掘の依頼――ヘムタイトさんが王宮からの依頼だとは言っていたが、まさか、鉄板焼き用とは、誰も予想出来ないと思う。
―――――
「刀を一本に、大人用の小刀を4本、子供用に二本……コーラさんのご依頼の品です」
テーブルの上に綺麗に並べられた武器たち。
コーラは先ず、刀を手に取り、鞘から抜くと、天に翳した。
元々、黒曜石のような黒さを持っていたウルツ鋼だが、鍛えあげられて、更にその黒さを増している。
「密度がかなり上がってるわね……これなら、ウルツ鋼自体も切り出せるのではないかしら?」
「可能です。しかし、切り出し専用なら、もっと向いた形がありますので」
聞けば、切り出し専用の魔法具に使う刃も、ウルツ鋼なのだそうな。
「それと、ウルツ鋼に余裕がありましたので……剣を一振り、鍛えました」
剣……とコーラは目を見開く。
ショコラは、アイテムボックスから、それを取り出すとテーブルの上に置き、一息に理由を話し出した。
「刀は、斬ることに長けていますが、剣は、貫くことと、叩くことに適しています。持っていて損はないと勝手ながら判断致しました」
コーラは、刀を置き、剣を手に取ると、少し、ほんの少しだけ、眉を顰めた。
「あ……お気に召しませんでしたか?」
「いいえ。私が昔、生み出したかった形そのものだったから驚いただけよ。ありがとうショコラ」
ふわりと笑んだコーラに、ショコラは胸を撫で下ろし、今度は僕の方を向く。
「あの、サムさんには、こちらをあつらえました」
「これは……!」
ゴトリと、僕の目の前に置かれたその形状……
元の世界の人間ならば、誰もが一度は目にしたことのある打撃に特化したそのフォルム。
「これは、遠い異国の伝統的なスポーツで使用される道具でして、打撃にとても特化しています。
攻撃手段に慣れていない人間が鋭利な武器を持つと、仲間に怪我を負わせる恐れもあり、危険なので、このような滑らかな形状のものが良いと判断致しました」
「わあ! 僕これ、久しぶりに見たよ!」
「なるほど……確かに、持つだけなら安全で、攻撃しようと振った時に初めて危険物になる……初心者が武器として所持するのに適した道具だよ、これは」
いやあの、バットですけど?
「あ、あと、一人きりで戦う時用に、こちらも用意致しました」
ゴトリと、置かれたそれは、元のバットとほぼ同じ形だったが……
「? トゲトゲ? 」
「くっ! ふふっ!」
アプリが小首を傾げ、
ルートさんが堪えきれず吹き出し、
「わあ、当たったら痛そう……」
「これは確かに単独戦闘用ねぇ……」
ウィンリィとコーラは見たままを述べた。
「これはですね、元のものに釘のような突起を生やした形状になりまして、当たった時の破壊力は、倍に跳ね上がります。くれぐれも仲間のいない場所で使って下さい」
いやあの、釘バットですけど?
「あと、破片を集めて作った小結石です。魔法具の嵌め込みに適したサイズで成形しました」
「あ、ああ、助かります」
反転結界の魔法具用に頼んでおいたのだが、ショコラさんの技術力のお陰か、思ったよりも多く出来ていたし、カットも魔力吸収により適したものが施されていた。
「へぇ……これなら、サムの反転結界、更に強固に出来るんじゃない?」
「そうですね……前に破片で作ったものも、これに変えてまた調整してみます」
―――――
コーラとウィンリィとアプリをショコラさんのところへ残し、僕とルートさんは先に王宮への帰路についた。
「今ごろ、女子四人で恋バナとかしてるのかな?」
「むむ……アプリに恋バナはまだ早いですし、コーラは人妻ですし、ウィンリィだって、周りに同年代の男の子もいませんし……しないですよ、そんなの」
そう? とおどけて見せた彼に気になっていたことを一つ聞いた。
「ルートさん、本当にウルツ鋼製の武器を作らなくて良かったのですか?」
ウィンリィには、ウルツ鋼製のメリケンサックを持たせている彼だが、自身は持っていない。
「うん。僕には、身内がくれたお下がりの剣があるからさ」
身内……というと、過去を見てきた僕の脳裏には藍色の髪を靡かせたロートの姿が浮かんだ。
「ウルツ鋼ほどじゃないけど、中々良い品でね。それに、手に馴染むんだ……不思議だよね。滅多に使わないのにさ」
ルートさんは、懐かしむように目を細め、握り込んだ手をじっと見つめていた――
その日の夜。
僕は、廊下でウィンリィに呼び止められた。
「どうしたの? そろそろ寝る時間だよ?」
「ねえ、サム、50人の魔力の子たちなんだけど……」
「う、うん」
僕の問いをスルーして、突然、真剣な眼差しになるウィンリィ。
「助け出した後のこと考えてる?」
「……まだなんだ。これから、マロンとイオに相談しようと思っていたところなんだけど」
「実はさ、ショコラがそういうのに、使えるかもって、教えてくれた場所があるんだ」
ショコラさんが!? というか、話しちゃったのか……この作戦は危険で、下手をしたらウィンターンという国を敵に回しかねないというのに。
「ウィンターンとサマーンの間にある『エルフの里』そこなら、大人数を匿えるかもってさ」
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