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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第5章 王室と魔族 第6話 収穫祭

「むう……僕もショコラに会いたかったのに」

「あはは、今からお祭りに誘えばいいじゃない?」

「お仕事依頼してきたんでしょ? 邪魔になりたくないから、納品日までちゃんと待つよ」


 今、僕らは、マロン王と話があるというイオだけ王宮に残して、残りのメンバー全員で収穫祭を見て回っている。


 収穫祭の呼び名の通り、食べ物の屋台がずらりと並び、美味しい匂いが街全体を漂っていた。


 朝ごはんを軽くしてきたから、食欲をそそられる。


 特に、食べることが大好きなウィンリィなんか、目移りしているんじゃないかと思ったが――


 ショコラさんによほど会いたかったのか、今朝、置いていかれたことにいまだ頬を膨らませていた。


「……ウィンリィ、あれ、なあに?」

「あっ! あれは綿飴だよ! 食べられるお砂糖の綿なの」


 アプリの瞳がパアアアと輝いたのを見て、ウィンリィは、一目散、綿飴を買いに行ってしまった。


「ふふふ、アプリ、頼りになるわねぇ、あなたのお姉ちゃんは」

「……ん、ウィンリィはいつも優しいよ。でも、」


 アプリは、ルートさんの方を見た。彼は今、綿飴屋さんに並ぶウィンリィを目で追っている。


「……私も、ルートさんみたいに、ウィンリィを甘やかしたい」

「ん? アプリ、今なんて?」

「アプリ! 買って来たよ! 食べ切れなかったら僕が食べるから、まずは食べてみて!」


 ああ、アプリが今、とんでもなく尊いことを言ったというのに……


「はむ……おいひい」

「良かった! 甘いし、口溶けが堪らないよね」


 そんな三人の様子に、妻のコーラも、ふふっと笑みをこぼし、


「サム、私たちも、何か食べましょう?」

「そうだね、コーラ。せっかく朝ごはん軽めにしたし」


 アプリは、綿飴を完食しそうな勢いで半分食べたが、他のものもたくさんあるからと、残り半分はウィンリィが引き受けていた。


 二人は、ずっと笑顔で楽しそうだ。


 その様子を見て、案外、ウィンリィを子供たらしめてくれるのは、アプリなのかもしれないと僕は思った。


 大人の言葉が届かなくても、同じ子供であるアプリと過ごす時間が、彼女に子供でいてもいいと思うきっかけになってくれるかもしれない。


 様々な食材を使った料理の屋台が並ぶ中、アクセサリーなどの小物を扱う店もちらほらと目に入る。


 コーラに何かプレゼントしたいような気もするが

彼女の耳には、既に薄紫のアメジストのピアスが付いており、これ以上の装飾品は、ないように思ってしまう。


 まあ、このピアス、僕からのプレゼントなんだけどね、ふふふ。


「サム、何ニヤニヤしてるの?」


 マロンクリームのクレープを頬張りつつ、ウィンリィが不思議そうな顔で僕を見ていた。


「ちょ、ちょっと昔を思い出してね……」

「ふうん?」

「リィ、ちょっと来て」


 いつの間にかアクセサリーを物色していたルートさんが、ウィンリィを手招きする。


「なあに? インター」

「もう、クリーム付いてるよ」


 いつもの白スカーフで口元を拭いてやるルートさん。本当に保護者が板についているなあ。


「これどうかな。リィ、もうすぐ誕生日でしょ? そろそろさ、アクセサリーの一つくらいは持っててもいいんじゃない?」


 ルートさんが手に取って見せたのは、濃ピンクのピアス。

 ウィンリィの桃色の瞳よりも、少し濃いめのその色は、確かに彼女にとても似合いそうだ。


「んー、可愛いけど、僕さ、ピアス付けても、全力で戦った後に、必ず砕け散るんだよね……」


 確かに、大人のウィンリィこと、うちの母は、絶対にアクセサリーを身に付けなかった。

 なるほど……魔力が高すぎて、耐えられなかったのか。


「ふうむ。魔力伝導率の良いトルマリン系は?」

「試してみたんだけど、むしろ限界まで吸収して、破裂したよ……」


 しゅんとしょげるウィンリィに、ルートさんは、ああ! と手を打ち、


「じゃあさ、今、僕の付けてるこの赤いピアスあげる」


 言うが早いか、ルートさんは、ウィンリィの両耳にそれを付けた。


「これね、大分頑丈に作られた護符アミュレットでさ、僕の全力の魔力放出にも耐えるからさ」


 ルートさんは、アクセサリーショップの鏡の前にウィンリィを連れて行き、


「ほら、似合ってる。可愛いね」


 と言って、男の僕から見ても、極上ととれる笑みを浮かべた。


 こ、これは、ちょっと保護者の域を超えているのでは……


 彼らに向かって歩を進めようとしたら、両腕をコーラとアプリに掴まれていることに気付く。


 いつの間に!? と二人の顔を交互に見ると、二人とも一様にうんうんと頷いていた。


 ええ……知らぬ間に二人とも、ルートさんの味方になってしまったのか!?


「インター……本当にこれ、もらってもいいの?」

「うん、あげる」

「じゃあ、さ」


 ウィンリィが、背伸びをして、ルートさんの左の耳に触れた。


「君の魔力に耐えうる石を見つけたら、今度は僕がプレゼントするね」


 あ……


 そう言って、微笑んだウィンリィの顔は、息子の僕ですら見たことのない極上の笑みだった。


―――――


「ねぇ、コーラ」

「なあに? サム」


 今日も、アプリとウィンリィは、イオの部屋で就寝中だ。


 ルートさんはというと、今夜は何処にも遊びに行かず、隣の部屋で就寝中だ……珍しく。


「ウィンリィとルートさんのこと……どう思う?」

「野暮じゃないかしら? 仲間の事情に首を突っ込むのは」


 ぐ……ぐうの音も出ない……が!


「母さ……ウィンリィはまだ子供だし……」

「そうね。保護者が子供に少しだけ早い誕生日プレゼントを渡しただけだったわね」


 ぐ……確かに、そうともとれるが……!


「でも、でもさ! コーラ」

「私も、保護者……ウィンリィさんにアメジストのピアスを頂いたわ。14の誕生日にね」


 あ……それは――


「それと何が違うのかしら? ねぇ、あなた?」


 僕が、自分で渡す勇気がなくて、母さんに頼んだピアス。


「サム? どうしたの? ぐうの音も出ないのかしら?」

「……そうだね、何にも言えないよ、はあ」


 苦し紛れに隣のコーラの肩に顔を埋めた。


 妻は、くすくすと笑って、僕の頭を撫でている。


 コーラは、本当は知っているんじゃないのかな、それが僕からのプレゼントだってこと。


――オマケ――


《ウィンリィ視点》

 

 イオとアプリが寝静まったベッドの上。

 お祭りの余韻が消えなくて、中々寝付けなかった僕は、起き上がり、サイドテーブルに置いたピアスを手に取った。


「これ、上等の品ってやつだよね……」


 月明かりに翳してよく観察すると、サファイアの石の中に五芒星の魔法陣が見えて、これが強度と吸収を可能にしているのかなーと何となく思った。


「僕の探査能力じゃ、ちゃんとしたことは分からないや……でも、インターの魔力に耐えうるくらいだから、一級品なんだろうな……」


 こんな高価なもの、前の僕だったら、全力で遠慮してた。


 だけど今は――側にいられるうちにたくさん甘えようと思うんだ。


 本当は、彼の優しさを受けるに値しないけれど、ここにいる間だけは、どうかそれを許して欲しい。


「あと少しだけ……」

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