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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第5章 王室と魔族 第5話 ハーフエルフの鍛造所


 マロン王への謁見後、僕らは、王宮内の部屋に案内されて、ハーベスト滞在中は、なんと、王宮で寝泊まりすることを許可してもらえた。


 用意された部屋は、隣接した三部屋で、各部屋、風呂もトイレも完備で、自由に使って良いとのことだ。何て有難い。


 ちなみに、イオも泊まることになった。

 アプリとウィンリィと一緒にベッドにダイブしたイオは、王宮の極上のふかふかを一番堪能しているように見えた。


 一応、イオの滞在の理由は、子供たちと遊ぶためではなく、海を渡った先にあるウィンターンまで、僕らを乗せて飛ぶためだ。そのために、カイも呼んでくれるらしい。


――――――――――


 ハーベストの朝は早かった。

 日が昇るのと同時に店が開く。

 僕とコーラとルートさんの三人は、昼間から始まる収穫祭の前に済ませたい用事があって、未だ眠る子供たちをイオに任せて、外出していた。


「ここだよ、鍛造所フォージ


 ルートさんの案内で、着いたその店を見上げる。

 全体が石畳で舗装されたハーベストの街並みにあって尚、とても目立つ綺麗に目地の揃った赤レンガ造りの家。


 二階建ての屋根から突き出た煙突からは、黒い煙ではなく、雲のような白い煙がもくもくと立ち上っている。


 僕もコーラも、この世界に来たばかりの頃、ほぼ魔力のない状態での戦闘を余儀なくされた。

 その経験を踏まえて、魔力切れの状態でも戦える武器を作りに来たのだ。



「可愛らしいお家ねぇ……」

「店主もね、可愛らしい人だよ」

「ハーフ……なんですよね? エルフとの」


 このオータンという国は、人間族のみの国だが、ハーフや、クォーターといった人々ならば、少数住んでいるそうだ。


 しかし、エルフとは……僕の世界、というか、祖国にも、彼らの血をひく人間が僅かにいるが、何百世代も前の血なので、普通の人と何ら変わらない。


 ハーフだなんて、どんな見た目の、どんな魔力の持ち主なのだろう。


 扉には、蝶の形のドアノッカーがある。

 僕とコーラの後ろに下がったルートさんに促されて、僕はそれを鳴らした。


 コォーンコォーン。


 金管楽器のような綺麗な音が響き――


 キィ、パタン。


「おやまあ、収穫祭の朝にお客さんなんて、珍しいねぇ……」

「えっ!?」

「あら」


 何と、扉の目線の高さにある小さな小窓から出てきたのは、


「妖精!?」

「いかにも、お前さん方、妖精を見るのは初めてかえ?」


 初めてではないが、ドライアドとはまた違う出立のその妖精は、キタテハの羽に、頭に花は咲いておらず、お団子にした灰色の髪に赤い玉の付いた簪のような髪飾りを刺していて……


「あらまあ、可愛らしいお婆ちゃんですこと」


 そう、お婆ちゃんの姿だったのだ!


「ノードさん、こんにちは」

「おや、ルートじゃないかえ……ウィンリィは来ていないのかい?」

「リィはまだ寝ててね。早めに頼んでおきたい仕事があったから、大人だけで先に来たんだ」


 僕とコーラの後ろで何故か屈んでいたルートさんが姿を見せると、お婆ちゃん妖精は、声を一段高くして、急かすように中へ入れてくれた。


「ここで、待っとくれ。あの子も、そろそろキリが良いはずだて……」


 お婆ちゃん妖精――ノードさんが通してくれた客間の椅子に座り、僕らは、店主を待った。


「ノードさんはね、ここの店主の親代わりなんだ」

「え……店主は、まだ子供なのですか?」

「うーん……エルフのハーフとしては、まだ若い方なんだと思うけど、子供……ではないかな」

「ふふ、楽しみねぇ……あのノードさんも、アドとは違うタイプの妖精さんのようだし」

「アドは、王が生み出した魔物で、ノードさんは、自然に発生した妖精なんだ」


 聞けば、魔物とは、精霊王や竜、魔族などの、高魔力で構成された高位存在によって、生み出された使い魔のようなものらしい。


 今、森の中にいる魔物は、過去、精霊王たちが使い魔として生み出したものが、自然繁殖したものだそうな。


「待たせたね、茶菓子とお茶を用意させたから、時間がかかっちまったよ……ほら、ショコラ」


 ドアの端から、おずおずと、人数分のお茶を乗せたトレイを持った小柄な女の子がヒョコと、顔を出す。


 とてとて……と顔を俯いた状態で、机の前まで歩き、


「どうぞ……」

「あっ有難う」


 僕らの横に来て、音を立てずにティーカップを置いてくれた。

 紅茶には、カカオニブ……だろうか? 数粒浮かぶ黒が、仄かにチョコの香りを放っている。


 最後に自分の分も置くと、座布団? クッションだろうか? 三個ほどそれを椅子に積んでから、その上に腰を下ろした。


「サム、コーラ、この子はショコラ。この鍛造所の店主だよ」

「あっ、ショコラ、さん。初めまして、サムです」

「コーラよ。よろしくね、ショコラさん」


 真っ直ぐに切り揃えられた黒髪の下から覗く黒目がちな瞳を僕たちは、見つめた。

 が、ショコラさんは、俯いていて、目を合わせてくれない。

 人よりも少しだけ長くて、尖った耳も、心なしか下を向いて垂れているように見える。


「ショコラ、人見知りも大概にしな」

「うっ……ご、ごめんなさい……初めてのお客さんは久しぶりで……ショコラです。えと、依頼内容をお願いします」


 僕は、ウルツ鋼採取の依頼時に、山主に売ってもらった大人ほどのサイズの塊をアイテムボックスから取り出した。


「こんな大物……世界最硬度のウルツ鋼を、どうやって切り出しを……」

「ええと、僕の妻……彼女が魔法刀で切り出したものです。それで」

「これを使って、刀を一本と小刀を四本……子供用に柄の細い小刀も二本。それと、この人に何か丁度良い武器を作ってもらえないかしら」


 ショコラさんは、目を見開いて僕らとウルツ鋼を何度も交互に見ていたが、ピタリとその動きを止めて、息を吐き、


「分かりました。ただ、"刀"というのは、知識としては存じてますが、実物を見たことがありません。剣とは、全くの別物だとは、理解していますが」


 それを受けて、コーラは、魔法刀を目の前で出して見せ、それを見た店主は、目を輝かせた。


「は……何て綺麗な……これが、刀……なるほど……反ってる……斬ることに特化した形か……これなら、ウルツ鋼をも……」


 ショコラさんは、刀を両手に乗せたまま、ぶつぶつと感想を口にしていたが、ノードさんにこめかみをデコピンされて、我に返った。


「これ! お客さんを放置するでない」

「あ……ごめんなさい。あの、作れます……と思います。あ、あと……」


 魔法刀をコーラの手に戻したショコラさんは、僕の顔を見上げて、


「あ、あなた、見たところ、普段の攻撃手段は、ありませんよね??」

「そうだねぇ……サムは、補助術士だから、そもそも、魔法武器を使っていないし」


 あー……そうなんだよなあ、僕自身、唯一使える攻撃系の魔法は火薬のみで、しかも、あまり実践投下出来ていない。


「一応、訓練でナイフは、多少扱ったことはあります。ので、僕にも魔物や魔獣相手に戦えそうなナイフをお願い出来ますか?」


 ショコラさんは、俯き、両手で顔を支えるようにして、考え込んだのち、顔を上げて、答えた。


「あなたさえ良ければ、安全に、尚且つ、いざという時にダメージを与えられる物を私の独断でお作りしたいのですが……どうでしょう?」


 ここは、武器造りの職人さんに任せた方がいいかな……丸投げしてるみたいで、申し訳ないけども。


「それで、よろしくお願いします」


―――――


「いやあ、楽しみだね。サム専用の武器」

「結局、丸投げしてしまって、申し訳ないです、僕は」

「丸投げかしら? ショコラさんは、あなたを見て、何が合うのか、直感で理解したように見えたけど?」


 祭りの準備に、賑わい始めた街を見ながら、僕らは並んで王宮を目指している。


「あの、ルートさん、エルフって、もっとこう、なんて言うか、繊細な種族のイメージがありまして、鍛冶を生業にしているの、意外でした」

「ああ、よくあるファンタジー小説のようなドワーフの刀鍛冶を想像してた?」

「そう、それです。想像してました。でも、この世界にはいないのですね、ドワーフは」


 正直、期待していた。竜や魔族がいる世界なのだ。ドワーフも、いるんじゃないかと思ってしまうのは、当然ではなかろうか。


「ドワーフはいないけれど、あの子、ショコラは、エルフの中でも、『土渡り』と呼ばれる頑丈な種族なんだ」


 ルートさんの説明によると、エルフには、風渡り、火渡り、水渡り、土渡りと呼ばれる四種がいて、それぞれ、その名の属性の魔法に長けているそうだ。


「ショコラはね、土渡りだけじゃなくて、火渡りの血も受け継いでてね、その二つの属性魔法を合わせて、鍛冶を実現しているんだよ」


 今度、鍛冶現場を見に行ったら? と言われ、僕もコーラもそれに頷く。


 見たことのない魔法を駆使した武器造りは、とても興味深いし、きっと今後の参考になる。


 色々話しているうちに、王宮に着き、僕らは、少し遅い朝食を取ってから、また街に――収穫祭に繰り出したのだった。

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