第4章 変えられぬ過去と選ぶ未来 第26.5話 番外編① ルートとウィンリィの出会い
《ルート視点》
月明かりの下、舞うように戦う少女を見ていた。
一人、また一人と倒れていく部下達の叫びに仕方なく腰を上げて、その場に入り込む。
手の中の銃を少女の首に向けた時、彼女は口を開いて小さく呟いた。
次の瞬間、僕の肩を踏み台にして天高く舞い上がった少女に手を伸ばしたが、届かない。
きっとずっと届かないままならば、落ちてくるまで待とうと、その時は思ったんだ……
――――――――――
桃色の魔法少女が、魔法弾を突き上げたが、威力が足らず、高魔力砲は、真っ直ぐ僕ら目掛けて落ちてくる!
「くっ!」
落ちて来た少女を片腕で抱き留めて、右手の魔法銃に全魔力を込めて打ち出した!
瞬間、視界が魔力で満ちて――僕は気を失った。
―――――
薄暗い森の中で、目を覚ます。
全魔力を放ったので、すっからかんのはずだったが、何故か、残存魔力を感じることが出来た。
「あ、起きたの? じゃ、僕は行くね」
先程の桃色の魔法少女が、少し離れたところに立っていて、僕を見やると、背を向けて歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
体に流れる暖かな魔力は、僕のものじゃない。おそらく、この少女がくれたものだろう。
ならば、僕は、
「ねえ、待って! 子供一人じゃ危ないよ! 僕が保護者になるから!」
小さな背を追いかけた。
状況はまるで飲み込めない……ということもなく、星の中央から巨大な魔力の流れを感じるこの場所は、先ほどまでいた世界とは、違うのだと如実に物語っている。
目の前を早足で進む彼女も感じているはずだ。
この状況の異質さに。
「待ってってば! こんな何も分からない場所に子供だけ置いとけないよ! 一緒にいよう! ねえ!」
「要らないってば! 何で仲間を何人も葬ってる輩と行動を共にしないといけないのさ! 僕は、一人で生きる! 構わないで!」
可愛らしいピンクまみれの配色のこの少女は、全然似つかわしくない『僕』を一人称に、大きく声を張り上げている。
子供とはいえ、敵国の――おそらく強者側の魔導士を必死に追いかけるのには、理由があった。
この子をほっといてはいけないと言わんばかりに、胸がざわついたのだ。
その位置には、僕の心とも言えるお守りがあり、まるで、彼女の意思のようにも感じていた。
互いに早歩きとは言え、全く縮まらない距離に、走るしかないと、呪文を唱える。
おそらくまだ昼頃だというのに、陽の光が殆どささない暗い森に、青白い光が迸ったその時だった。
ぐー!
と、突如、前を歩く少女から大きな腹の虫が鳴って、彼女の歩みがピタと止まる。
「ぶっ! あははっ! 携帯バーならあるけど、食べる?」
「……むう」
少女は、悔しくてたまらないと言った表情で後ろを振り向き、
「食べる」
と絞り出すように声を出した。
------
「お代わり!」
「まだ食べるの? ひと月分の備蓄が無くなりそうなんだけど……」
この世界でも機能していた元の世界のアイテムボックスを漁り、最後の10本を手渡す。
「ありがと!……あ、君のは?」
すでに40本ほど食べておいて、君のもくそもないだろう……と僕は内心で笑いを堪えつつ、
「いいよ、まだお腹空いてないし。最悪、一週間は水だけで平気だから、僕は」
「……やっぱり、もうお腹いっぱいだから、これは君に返す」
僕の手の中に戻された10本の携帯バーと彼女の顔を交互に見やる。
すると、頬に大きなカケラが付いてるのを見つけた。
頬からそれを取り、自分の口に放り込む。
「これで充分だよ、ぼ」
え?
「もう飲み込んだの? ちぇっ、それは僕のだったのに」
いやいや、距離感おかしくない!?
「君さ、いくつ?」
「? 13だけど……」
「僕は、今年で28だ」
「あっ、それなら、僕は今年度で、13だよ!」
じゃあ、何か? 今、12歳ってこと!?
「うちの息子と同年代かよ……」
「そうなんだ? それで何で落ち込んでるの?」
「落ち込みもするよ……君からとはいえ、子供にセクハラしちゃってるんだから、息子に顔向け出来ない……」
元々、育児放棄してるけども。
「はあ、キスぐらいで大袈裟な。こんなの、僕の国では当たり前だよ?」
「は? どんな性教育受けてるの? 出会ったばかりだけど、君の将来が心配だよ」
「性教育? キスと関係があるの? それ」
マジか! 第二国やば!
「国が違い過ぎるね……だから、戦争してるのかな」
「よく分からないけど、戦争は早く終わらせたいね……せめて、僕の次の世代までには」
一瞬、大きな桃色の瞳が悲しげに揺れて、僕はどきりとしてしまう。
「ふ、終わらないよ。全然そんな兆しないし、もう100年以上も続いてるんだから」
「そう、かな」
あ、また揺れた。
大きな瞳がゆらゆらすると、こぼれ落ちてしまいそうで、何だか危ういな。
僕はそっと、隣の少女の肩を抱いた。
「……何?」
「大人の勤めじゃない? 落ち込む子供を慰めるの」
「僕は子供だけど、子供じゃない。二国は、そういう国なの」
小さな体が少し震えるのが、触れた肩から伝わってくる。
「二国の方針は知らないけど、君はまだ子供だ。親とか、大人に頼るべきだよ。」
「何で敵国の魔導士を頼らなきゃいけないのさ。
それに、親だって、とっくにいないし……」
え? この子、僕並みに人生ハードじゃない??
「そっか。人は見かけによらないねえ……」
「人生イージーに見えた?」
「うん。その見た目じゃね、日常でも、戦場でも有利に働くんじゃない?」
「はあ、ぜんっぜん、分かってないなあ! 外見で得した事なんかないよ。仲間たちだって、綺麗な子ばかりなのに、どんどん死んでいくし。虚しいよ、こんなの」
言って、桃色の一房を手に取り、乱暴に払った。
「そうでもないよ。少なくとも、僕は、君が可愛いから、面倒見ようと思ってる」
「あはは! セクハラがとか、息子に合わす顔がとか何だったの? その発言こそ、セクハラなんだけど!」
「他意はないよ。子供相手に妙な気も起こさない。大丈夫、約束するよ」
僕は、はい、と小指を彼女の目の前に差し出す。
しばらくその指をじっと見る彼女。
「……手袋取って。僕の国ではそうしてる」
言われるがままに、手袋を外し、再度、彼女の前に小指を差し出す。
すると、彼女の小さな口が僕の小指を含んで、中でガリっと音がした。
「いっ!」
「はい、僕のも早く切って」
ああ、もう! 二国式のやつか! やばい国だな、ほんとに!
僕は、半ばヤケクソ気味にあまりに小さな彼女の小指を口に含み、前歯でなるべく最小限になるように小さく傷を付けた。
そこまでやって、やっと小指を絡める。
ポタポタと滴る血が、地面に染み入った。
「僕達は、互いを裏切りません。はい、復唱」
「……僕達は、互いを裏切りません」
互いに目を合わせて、
「「ゆーびきーり、げーんまん! 裏切ったら、針千本のーます!」」
「「指切った!」」
指を離して、すぐに回復をかけようとしたが、手で制されて、
「これは、自然治癒に任せるの。でないと、効力が半減するから」
と眉を顰めた彼女に止められた。
はあ、僕の小指、思いっきり犬歯で噛み切られていて、血が止まらないんだけど。
「やり過ぎちゃったかな……貸して、止血する」
はい、分かってましたとも。
普通に再度、小指を咥えられて、今度は容赦なく止血された。
そんな彼女の様子を見て、固く決意する。
常識を教えてあげないと、と。
「よし、止まったね。絆創膏貼っとくから、これでよし!」
そう言うと、ペロリと自分の小指もひと舐めして、立ち上がり、げんまんをしていない方の手を僕に差し出した。
「さ、行こう。あ、僕はね、ウィンリィ、ウィンリィ=ウィンターって言うんだ」
名前は聞いたことがあった。二国のトップ魔法少女ウィンターコスモスだ、この子は。
彼女の手を取り、立ち上がった僕も名乗ろうとしたが、
「インター将校だよね? 部下が呼んでた」
と名乗る隙を与えてもらえなんだ。
それから、サム達と出会うまで、僕らは様々な依頼を受けつつ、打ち解けていった。
その過程で――この子が抱えているものの大きさにも気付いたけれど、気付かないふりをした。
きっと、いつかはそれに向き合う時が来る。
――でも、それは今じゃない。
「今は、子供らしくいられるように」
全力を尽くそう。君と関わった大人として。
そうしていれば、いつかきっと――
「選択肢の一つくらいにはなれるかな……」
狭い世界で生きてきた君の。
―オマケ―
《ウィンリィ視点》
目覚めたら、魔力が空っぽで、重たい体を何とか動かして、隊服に常備している仲間の頭花を口に入れた。
体内が魔力で満たされて、辺りを見渡すと、さっき戦場にいた敵国の魔導士が倒れているのが目に入る。
「……僕、この人に助けられたんだよね……」
仕方なく、回復して咲いた頭花を取り、倒れているこの人の口に押し込もうとしたが、
「はあ、飲んでくれないなあ……仕方ないか」
口に含んで溶かしてから、彼に口付ける。
こくりと喉の音がして、離すと、ちゃんと魔力が染み渡っていることを確認できた。
それにしても、同郷の仲間たちのような美形ではないが、整った顔立ちの人だなあ……それに、
「? なんだか見たことのある顔のような気がするけど」
どこで見たっけ?




