探査魔法ファン・ジン
「サム、複雑な術式だけれど、あなたなら、きっと扱えるわ」
僕の調整魔法の師、リアさんが教えてくれたその魔法――
最強の探査魔法であるソレを、私情のために使うことになろうとは、子供の頃の僕は、カケラも思わなかった。
――――――――――
「はあ、やるぞ」
この、ルートさんが撮ってくれていた娘の結婚式動画……
これを探索して、ウィンディの夫がどんな奴なのか、馴れ初めはどんなものか――確かめてやる。
僕は、携帯型端末を起動し、動画に奴が映ったところで、一時停止、そこに手を翳して、呪文を唱えた。
「すべての熱を生み出せし神よ、あなたのその情熱を考察し尽くし、その思いに見合うだけの物質へと昇華させることをどうか、お許し下さい……」
静止動画と自分の手を繋ぐ魔力が完全にその複雑な術式を組み上げたことを認識して――
「情熱の塊(ファン•ジン)」
カッと光り輝く携帯型端末。
光が消えたそこには、5冊のB5判冊子が現れた。
①と書かれた一冊を手に取るが、大分厚みがある。
「一冊130ページ前後といったところか……」
ちなみに、内容には規制をかけた。
ファン・ジンは、強力な魔法だ。何もしなければ、全て白日の元に晒してしまう。
考えたくもないが、夫になるような男ならば、その、親に見られてはいけないようなことも、あると思ったので。
「はあ、お陰でただでさえ、魔力消費の激しい術式だから、魔力ゼロになっちゃったけど、娘のプライベートを丸裸にするのは、父親としてもどうかと思うしな……」
そもそも、娘の夫との馴れ初めを勝手に探索魔法で本にして読むこと自体、プライバシーの大侵害だと思うが。
「ごめんね、ウィンディ。父さんは、どうしても、君の相手の素性を知りたいんだ」
どうか、異世界に飛ばされて、結婚式にも出られなかった哀れな父の我儘を許しておくれ。
そして、ページを捲った僕は――娘を襲った、あまりにも理不尽な運命に、悲鳴を上げながらも最後まで一気に読んだのだった。
―――――
「サムー、今日、女性陣たちさ、市場のスイーツ展行くってさ。僕らはどうする??……って」
「あ、ルートさん……おはようございます……」
「いや、何があったの?」
今、僕の部屋は、荒れ放題だ。
妻のコーラが、昨日はウィンリィとアプリの三人で就寝したことを心の底から感謝するほどに。
「ふうむ、なるほど。この本にウィンディちゃんとあの夫くんの馴れ初めがねえ……で、僕もコレ、読んじゃっていいの?」
「……構いません……ですが、コーラには、内緒でお願いしますね……」
とてもじゃないが、母親には見せられない、こんなの。
ルートさんは、言わないよーと軽い返事をし、ぺらりとその本を捲る。
「わっ! 漫画なんだ……凄いね、絵うま……こんな探索魔法があったなんて驚きだな……」
あ、これ、術式を解読してるな……
チートなルートさんなら、解読どころか発動させることも、夢ではないかもなあ……なんて考えていると。
「わあ、やるなあ……僕のひ孫。へえ、でも、ウィンディちゃんも、満更ではないみたいだね?」
「……言わないで下さい、ソレ」
律儀なのか、興味があるからなのか。ルートさんは今、①の1ページ目からしっかりと読み進めている。
内容は、娘が敵国――未来の夫の国に捕虜として捕らえられるところからスタートし、夫こと、ルーンくんが、その世話係になる話だ。
「へえ、ルーンって言うんだ……名前まで僕に似てるんだなあ……あはは! この子、とんだ執着系だ。ウィンちゃん、苦労しそうだね」
いやあの、母の過去で見て来たあなたも、とんだ執着系でしたけどね!? とは、黙っておこう。
「あっはは! 凄い! ウィンちゃんてば、対魔防壁を破壊したよ! 一国のは、上級魔道士10人の最高攻撃魔法での耐久試験を突破した代物なのに! さすが、リィの孫だね」
「あ、ルートさん、その、一緒に破壊した魔法少年――ネムくんは、ジンと母の孫ですよ」
「……へえ、そうなんだ」
結局、ルートさんには、過去で見て来た事象のほとんどを話した。
なので、母――ウィンリィに僕以外に子供がいて、しかも、ジンとの間の子だってことも彼は知っているのだが。
「確かに、顔がそっくりだな……ふん。僕だって、いつかは――」
母との間に子を成す――とか言わないよな? さすがに。
しかし、ルートさんからは、しっかり漆黒の魔力が漏れ出ており、心中穏やかでないことは明らかだった。
―――――
「はあ……面白かった」
そして、朝から昼過ぎまでかけて、ルートさんは、それらを全て読み切った。
「面白かったですか? 僕は全然楽しめませんでしたが」
「あはは、ごめんごめん。いやさ、息子三人育児放棄してる身としてはさ、ひ孫のラブストーリーを漫画で読めるなんて贅沢、棚ぼたでさ。嬉しくて、つい本音がね、出ちゃったよ」
正直過ぎる彼にじと目を送って、僕も再度、本を開く。
「まあ、漫画としては、面白い部類に入るかもしれませんね……ま、僕、物語はラノベ派ですけど」
「おやま、サムらしいね。僕はどっちも読むんだー。ねえ、」
突如、ルートさんの黒曜石の瞳がキラリと鈍く光る。
「この、ジーニアスくんのさ、動画あるかな?」
「……やっぱり気になります?」
ジーニアスは、僕の幼馴染オーレンの息子で、認めたくはないけれど、ウィンディの戦死した恋人でもある。
出した本の中でも、度々名が上がり、妻の恋人の上、自分と同じ顔ということで、ルーンくんの激しい嫉妬の対象ともなっていた。
「うん。この前のは、写真だけだったし、彼が動いている姿も見てみたいなあと思って」
ルートさんにとっては、ひ孫なのだし、そう思うのは当然のことだ。
でも、
「ジーニアスは、個人的に気に食わない奴だったので、動画も画像もないんです」
「そっかあ……」
ルートさんは、さして残念そうでもない様子で答えると、「お昼ご飯買ってくるねえ〜」と言って、出て行った。
後に残されたのは、荒れ果てた部屋と、僕の懸念。
「ごめんなさい、ルートさん」
彼に、ジーニアスの素性をあまり知らせたくない。
何故なら、ジーニアスの母、アニの親は、亡命途中で命を落としたと聞いているからだ。
つまり、ルートさんが育児放棄をしている三人の息子さんのうち、一人は、もうこの世にいないということ。
「ひ孫が幸せな結婚をした……彼にはその事実だけでいい。辛い現実は、伏せておいた方がいいに決まってる」
事実は、全て知らせる必要はないと思う。




