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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第4章 変えられぬ過去と選ぶ未来 第23話 深まる謎の未来

「ウ、ウェディングドレス??」


 ミルクブラウンの髪をアップにして纏め上げて、純白のドレスに身を包む女性。

 4歳のあの姿からでも、それが成長したあの子だとすぐに分かった。


 知りたい未来を映すというその姿見――そこにいたのは、花嫁姿の娘――ウィンディだったのだ。


「わあ、可愛いね。本当にリィそっくりだ……リィも大きくなったら、こんな風になるのかな? 楽しみだね」


 いや、ルートさん……母は、可愛いというか、美しい感じに成長します。

 あちこち女性的に大きく成長して、背も伸びて、とにかく大人びた姿になるんです。

 と彼に言うのはよしておこう。

 目の前の娘は、パーツこそ、ウィンリィと同じだが、まだ少女の域を出ないようなあどけなさの残る顔立ちだった。


 しかし、


「でもさ、まだ幼さが残るのに、雰囲気は立派な大人だね。このアンバランスさ……親としては、心配じゃない?」

「ルートさん……あまり、変な目で見ないで下さいね? うちの子のこと」


 そう、メリハリのある体付きは、大人になったウィンリィと全く同じである。


「あ、こっち見たよ……これ、誰かの視界っぽいね? 相手のかな?」


 ウィンディの相手か……考えたくもないけど、心当たりはある。


「はあ、どうせ、ジーニ……」

『お父さん』

「えっ?」

『ウィンディ、結婚おめでとう』

「オーレン!?」


 聞こえたのは、僕とコーラに何かあった時、ウィンディを託していた親友の声だった。


『さあ、行くぞ』

『うん!』


 ウィンディの満面の笑みは、今、オーレンに向けられている。


 ……そうか。


 「オーレン、ちゃんとウィンディを娘として育ててくれたんだ……」

「ああ、君たちが託してたっていう幼馴染くんだね」

「はい」


 なら、相手はやっぱり――


 考えて、はあ、とため息が漏れた。

 頭を過ぎるのは、娘の守護者を気取るいけすかない少年のこと。

 でも、ウィンディは彼によく懐いていたし、あのジーニアスがウィンディを他所の男へやるなんてこと、考えられない。


 何か納得はいかないが、彼以上にウィンディのことを思ってくれる奴もそういないだろうし、僕も目の前の事実を受け止めないとな……


 苦々しい思いで、改めて、目の前の姿見に注目する。

 ヴァージョンロードを歩くオーレンの視線が、ウィンディから、正面に向けられ……


「え……」

「ん?」


『娘をよろしく頼む』

『はい。任せて下さい』


 そこにいたのは、ジーニアスじゃなかった。

 でも、よく知る顔……というか。


「……僕に、似てるね」

「まさか……」


 漆黒の髪に、黒曜石の瞳の背の高い男――そう、ルートさんと瓜二つの容姿の男がそこにはいた。


「似ていますけど、黒子が左右逆で……ルートさんよりも少し癖っ毛ですね……」


 あまりのことに、冷静に目の前の男の容姿を分析してしまう。


「そうだね。でも、泣きぼくろまで同じだなんて、不思議だなあ……僕の子孫とかなのかなあ」


 その可能性は、あると思った矢先に、オーレンの視線が動いて、


『サム、コーラ、見てるか? お前たちの娘は、綺麗に成長したぞ? それと……』


 ああ、僕とコーラの写真を持ってきてくれたのか。


「!?」


『ジーニアス、お前は不服だろうが、ウィンディの幸せをどうか、祝福してやってくれな』


「……え?」


 ジーニアス、死んでいたのか?

 そんな……オーレンの一人息子で、アニの忘形見なのに、と彼の死に思いを馳せる暇もなく、オーレンがその視界に映した彼の写真に僕は絶句する。


「あれ? この子も僕そっくりだ」


 僕は、固まってしまった。

 僕の知るジーニアスは、7歳の姿で止まってて、その姿は、オーレンにも、その妻、アニにも似ていて……ルートさんと結びつくことは、今までなかった。


 しかし、本当は、心のどこかで、そうなんじゃないかと思う自分はいた――母の過去を見た僕だからこそ、たどり着いたその考え。


「でも、黒子はないみたいだね? 体にはあるのかもしれないけど」

「いえ、ありません。flowersフラワーズは、黒子が出来ませんから」


 赤子のうちに魔法紋を固定する影響なのか、僕らには、黒子がない。


 その事実は、あの過去のルートさんが、赤子の頃に魔法紋を固定していなかったということを物語っている。


「まあ、二国と一国はさ、長期間戦争状態とはいえ、隣り合っているからね。不思議なことでもないのかな」


 いや、不思議だし、不可解なんです。

 ルートさんの考えは読めない。本人の様子からも、何にも知らないようにも見えるし、知ってて知らない風を装っているようにも感じるし……わけがわからない。


 ただ、今はそれよりも――


「ウィンディちゃん、幸せそうだね」

「はい。うっ、良かった……です」


 うう、僕がヴァージョンロード一緒に歩きたかった。


―――――


 帰りも電撃魔法で高速帰還した僕らは、宿屋に戻り、四人で食事を取った。


 コーラはまだ眠っている。

 僕の使える回復士の魔法で、問題なしと出ていたが、それでも心配は消えない。


「まあ、心配だよね? 僕も、あの精神ロープを使った反動でしばらく長時間睡眠が必要になることは分かってたんだけど、あれしか方法がなくてさ」


 少し申し訳なさそうに話すルートさんに、僕は手を振って、


「いえ、精神疲労が回復したら、自然と目を覚ますでしょうし、大丈夫ですよ。って分かってはいるのですけど、はは、こんなに話せなかったのは、初めてで……寂しいんです」


 言って、妻の頬をすり……と撫ぜた。


「話したいこと、たくさんあるよね……」

「はい」

「僕にも、いつか聞かせてよ。話せる範囲で構わないからさ」

「あはは、ルートさんのやらかし伝説をですか?」

「むむ……僕、そんなにやらかしてるの? まあ、リィの最愛を葬ってる時点で、特大のやらかしをしでかしているとは思うけど」

「他にもたくさん、ですよ?」


 心に重いあの過去も、ルートさんやコーラに聞いてもらえれば、自分の中で昇華させることが出来そうな気がする。


 それは、もちろん、忘れるということではなくて、きちんと整理して、心の本棚にしまう作業だ。


 そして、母達の想いは、しまわないで、ずっと心の隣に置いておこう。


 次世代へ託した、僕らに託された彼らの想いを、僕らも次の世代に託すために。


―――――


 夜、寝る前。

 色々と頭を整理したかった僕は、外へ出た。


 夜風にあたりながら、頭を冷やして、冷静に思考したかったのだ。


 アプリは、今日もウィンリィと就寝している。

 未来のウィンディの無事を確認できた僕は、今日こそ、手放しでアプリを抱きしめたかったのだが……


―――――


「アプリ寝ちゃったよ。サムの顔がさ、穏やかに戻ったから安心したみたい。」


 ウィンリィの部屋を訪ねたら、食後、すぐに横になり、そのまま熟睡しているとのことだった。


「……心配させちゃったね……」

「いいんじゃない? 家族なんだしさ」


 まだ13歳とはいえ、ウィンリィは、やっぱり母さんなのだと思う。


「ウィンリィ、アプリのこととか、色々、有難う」

「全然かまわないよ。だって、仲間だし」


 にっ! と笑った顔はあどけなく、年相応な子供のものだった。


 けれど、いつだって頼りになったあの頃の母と、同じ顔に見えた。


―――――


 母の過去から戻ってすぐに、崩壊寸前のめちゃくちゃな頭で座ったベンチに、また腰を下ろす。


 すると、あの時と同じように、ルートさんが現れて、隣に座った。


「ルートさん、今日は夜のご予定はないんですか?」

「あはは。最近はね。控えてるんだ」


 コーラは眠り続けているし、僕もずっと頼りなかったからだろうか。

 ここ数日、彼は宿から出ていない。


「サム、これに入れといたからさ」


 渡されたのは、僕の携帯型端末で、アプリの電撃魔法具での充電をお願いしていたものだ。

 そこのトップ画面に、あの姿見で見た未来の映像が映り込んでいる。


「えっ? ルートさん! いつの間に録画していたんですか??」

「ふふ……この端末で撮ってたよ」


 裾を捲った彼の手首には、腕時計型の端末。


「わあ、ぬかりな。いや、有難うございます。コーラが目覚めたら、一緒に見ますね」

「うん!是非そうしてね。それでさ、この画像をAI検索にかけて、彼らの素性を調べたんだ」

「えっ? 一国がAI大国だということは知っていましたが、そんなことも出来るんですか?」

「うん、出来るよ。でね、この僕にそっくりだった男の子たち……二人とも、僕のひ孫なんだってさ」


 ということは! ジーニアスの母、アニは、ルートさんの孫ってことか。


「どこで繋がるか分かりませんねえ……あはは」

「あれ? あんまり驚かないね? 想像の範疇だったかな?」


 怪しく笑うルートさんに、笑って必死に誤魔化す僕。


 過去で、ジンを葬ったルートさんの魔法紋は、ジニアの花だった。


 ジーニアスの魔法紋も、ジニアだし、その母アニのも同じだ。


 ……ということは、ルートさんは――


 そんな人が、一国の筆頭魔導士に納まっているのは、何故なのか。

 彼は自身の素性を知っているのか?


 まだ、ルートさんに聞くには、整理が必要な内容だ。

 何分、彼の敵国の魔導士という立ち場は変わらないので、情報開示は慎重にならないと……


「あ、それとね、戦争、終わったみたいだよ」


 え?


「ほら、この、オーレン君の視線が回遊しているところ、他の招待客が映ってるんだけどさ」


 ルートさんが指を指したその招待客、彼らがつけているその腕章――嫌というほど見慣れたソレ。


「!? 一国の腕章に三国の腕章!?」

「そ。戦争状態にあった三カ国の人間がこの場に揃ってる」


 娘の結婚式という良き日に、敵国の軍人が駆けつけているという事実。


「ほ、本当に終わったんだ……戦争……」

「そうみたい。良かったね」

「あ、はい」


 ウィンディは、戦争に行かずに済むんだ!

 少なくとも、この結婚式の後は!


 手放しで喜びたい気持ちと、数多のルートさんに纏わる謎に、頭の中はまだ雑然としている。

 しかし、今は、とにかく喜ぼうと思う。


 愛娘の門出を。

 戦争のない未来を。

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