表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/64

第4章 変えられぬ過去と選ぶ未来 第11話 不幸な事実と幸せな現実

 娘のウィンディが生まれた時のこと。


 自分にそっくりな顔に、同じ魔法紋、高魔力を持つ孫を目の前にして、母――ウィンリィは、戸惑いの色を見せた。


 しかし、それは一瞬のことで、すぐに満面の笑みに変わったので、僕は何ら不審に思うことなく、母に笑みを返した。


 あの時の母の戸惑いは、ウィンディが、自分と同じ目に遭うのではと危惧したからではないだろうか?


 だとしたら、僕は――


――――――――――


 ロアが去った後、重い足取りで、あの広場に戻って来た僕は、目を見開く。


 そこに居たのは――


 白銀の髪に、分厚い睫毛に覆われた灰銀の瞳。

 陶器のように白い肌の美しい少年。

 写真や画像でしか見たことがなかった父――スノークの姿が、目の前にあった。


 傍らには、母――ウィンリィ。

二人は、訓練前の準備体操をしているようだった。


 遅れて、眠そうに目を擦りつつ入ってきたのは、


 赤からピンクに変化するグラデーションの長い髪。

 大きな同じ色の瞳の女の子のような可愛らしい顔立ちの少年。


「ベリー! おはよう!」


 名を呼ばれた彼は、頬を赤く上気させて、嬉しそうに二人に向かって駆けて行く。


 この3人は、訓練が始まる前からずっと一緒にいた幼馴染だ。

 見た目からして、今、12歳前後だろうか。

 ウィンリィの姿が、今、僕が行動を共にする13歳の彼女とあまり差異がない。多少、幼くは見えるが。


 他にも、続々と子供達が集まって来て、各々準備体操を始めていく。

 僕の時代と変わらない朝の風景だ。


「ベリー、タグ付けてあげるね」


 準備体操を終えると、母は自分よりも小柄なベリーにキスをする。


 訓練が始まる前にキスで発動する防御魔法の『タグ付け』をするのも、昔から同じか……


 先程のショックが大きくて、働かない頭でその様子をぼんやりと眺めていた僕だが、母が放った言葉に現実に引き戻される。


「ベリーの魔力は、やっぱり苺味だね! 甘酸っぱくて、美味しいよ!」


 苺……先程のクレープ暗号に出て来た"苺"は、まさか、このベリーのことじゃないよな……


「そんなこと言ってるの、イーリだけだよ……ねえ、スノーク?」

「そうだな。魔力に味があるなんて、分かるのは君だけだよ、リィ」

「……むう。こんなにはっきり分かるのに、みんなに伝わらなくて、僕もどかしいよ」

「スノークのは、白味のアイスなんだっけ?」

「そうだよ。食べたことのない味だからさ、そう表現するしかなくて……分かりにくくてごめんね!」


 ああ、"白いアイス"とは、父――スノークのことだ……


 このまま、ここにいたら、母がされたことを全て目の当たりにすることになるのか??


 嫌だ、無理だ、そんなの……今だって、こんな、無邪気に楽しそうに会話している3人を目の前にして、心が張り裂けそうなのに!


 僕は固く目を閉じて、頭を抱えた。情けないけれど、重すぎる事実に目を向けることが出来そうもない。

 すると、回りの音が遠ざかって、また、時が運ばれて行く感覚に陥った。


 恐る恐る目を開けると、目まぐるしく流れて行く景色の中に父の苦悩に満ちた表情が一瞬、見えた。

 そして、無意識に強く鷲掴んだ胸元――自分の体に目を落とす。


 母と父が、産み出した筈の、この命。

 僕自身。

 そうだ、二人がそれを乗り越えた証が、この僕なんだ。


『そうだよね……? 父さん、母さん……』


 寄る辺なく、自分の身体を抱きしめる。


 絶え間なく流れ続ける景色に、あの軍命の後、気丈に振る舞う母の姿が映し出されていた。

 軍命で行われたそれを、他の仲間達に話すわけにはいかない。

 誰にも話せずに、母は、どれほど辛かっただろう。

 そうしているうちに景色は止まり、僕はとても綺麗な光景の中にいた。


 一面、色とりどりの花で埋め尽くされた場所。


 しかも、この花……


「凄い! 全部ウィンターコスモスだ!!」


 最近聞き慣れた、母――ウィンリィの声に振り向く。


「こんな場所があったんだ! アベル!」


『あ……アベル先生』


 母の隣には、榛色の髪に、同じ色の瞳の少年。

 僕とコーラの世代の先生であるアベルが、子供の姿でそこにいた。


「ウィンリィが、喜ぶと思って……」


 え……!? アベル先生が笑ってる!?


 寡黙で、無表情……それが、僕らの中の彼に対する共通認識だ。

 でも、


『こんな風に笑う人だったのか』


 その笑みは、ウィンリィのことが好きで好きでしょうがないと物語っていた。


『ルートさんの言う通り、13歳のウィンリィの好きな人がアベルなら、二人は両思いってことになる……』


 二人は花畑に腰を下ろして、紙袋から様々な種類のパンを出して、食べ始めた。

 微かに笑い合って食べる子供の二人。


 僕は、スノークとウィンリィの息子だ。


 なのに、このまま、この二人が一緒に大人になれたら……と願ってしまいそうになる。


 そのくらい、仲睦まじい光景だった。


 でも、訓練施設に戻って来た母は、心配そうに見つめるアベル先生を振り切って、自室に入ってしまう。


 そうして、ベッドに突っ伏した母は、小さな声をあげた。


「アベルに甘えちゃダメだ……綺麗な彼に僕は、ふ、相応しくないから」


 続けて、うっ、ひっく……と啜り泣く声が聞こえてくる。


 小さな肩も震えるように揺れていて、僕は、触れることができないと分かっていても、そこに手を伸ばす。


 コンコン。


「……」


 コンコン!


「……」


 ドンドン!


「……」


 ドドドン!!


「はっ、はあい!」


 母は、慌てて涙を拭きとり、ドアに向かった。


 ガチャ……


「えっ、リア」

「ガレットもチュラもいるわよ」

「突然どうしたの?」

「パジャマパーティーするわよ!」


 そこには、僕もよく知る母の親友のリアさんと、チュラさん……話には良く聞いているガレットさんの姿があった。


「ほら、あんたの好きなチーズケーキ」

「……バタークッキーも」

「仕方ないから、餃子の皮でチーズ包んで揚げたやつ! 食堂で作って持って来たわよ!」


 母は、きっと、親友である彼女達にも、何も話していない筈だ。

 だけど、彼女達には、お見通しだったのだ。

 きっとその上で、いつウィンリィに優しくするべきか、タイミングを計っていたのかもしれない。


「……みんな、有難う。でも、良いのかな?誕生日でもないのに」


 その言葉に、リアさん、ガレットさん、チュラさんの3人は、顔を見合わせた。


「はあ、あんたね、誕生日とか関係ないでしょ。私達がウィンリィに優しくするのに」

「……そうだよ、君が好きだから、思い立ったらいつでも、こうして集まるんだよ、僕たちはね」

「べっ、別に! 私は暇だったから! 来ただけよ! ふん!」


 ああ、チュラさん、この頃から、ツンデレだったのか。僕の回復魔法の師でもある彼女。

 ふんわりとした黄色のボブヘアを揺らし、大袈裟にそっぽを向きながら、ウィンリィに話している。


「っ……みんな、ありがとう。僕は幸せ者だね」


 涙を堪えているのだろう。母の目元にはうっすらと雫が浮かんでいる。


 女の子同士の友情がこんなに美しいものだったとは……


 泣き笑いをする母を3人がきゅっと抱きしめるのを見ていたら、場面がまた、流れて行く。


「わあ! ココさん! これ、本当に全部僕の分なの??」

「そうだって何度も言ってるのに。ぜえんぶ、ウィンリィちゃんのものよ」


 母の両手の中には、大きなクッキー缶がある。


「ココさんのクッキー、とっても美味しいから、あっという間に食べ切らないように、大事に食べるね!」

「いいのよ、そしたらまた、たくさん作ってあげる!」

「えー、でも、悪いよ……だってさあ……」


 母が、ちら……と、ココの隣で、複雑そうな顔をしている男に目を遣った。


「別に構わないぜ? 俺への差し入れが滞ったりしないならな」


 ははっ! と笑ってそう答えたのは、燃えるような赤い髪に、真紅の瞳の、


「ジンの分は、今まで通りにちゃんと作るわ? 彼女を舐めないでほしいわねぇ」


 将来、ウィンリィの最愛になる筈のジンだ。

 彼には、母と父が相思相愛だった頃から、付き合っている彼女がいた。それが、このココだ。


『ココさんの作ったクッキー、また食べたいな……』


 僕が子供の頃、彼女の墓の前で、寂しそうにそう呟いた母の声をよく覚えている。


 母から彼女の話はよく聞いていた。

 それこそ、最愛だったジンよりも、最後の夫だったはずの、スノークのことよりも。


 楽しそうに談笑する三人の姿も、流れて行く。

 その後も、親友のリアさん達、ココとジン、他の仲間達と、楽しそうに過ごす母の姿。

 その中には、あのロア=ライトと焼肉を食べている光景まであった。


『母さん、楽しいこともあったんだね……良かった』


 ポロポロと涙が流れて、情けないけれど、嬉しかった。

 母を、大事にしてくれる人が何人もいてくれたこと。酷い目に遭った母に、笑って過ごせる時間があったことも。


 ただ、その光景の中に、父であるスノークの姿も、幼馴染のベリーの姿も何処にもなかった。

 そのことが意味するのは、あの軍命の後、彼らの関係が壊れたことに他ならない。


『父さん……』


 幸せな光景が続いた後に、目を背けたくなる戦争の光景もあった。

 何人も何人も、仲間が倒れても、最後まで諦めずに、一人でも多く救おうと、前線に立つ母の姿がそこにはあった。

 そして、止まった風景の中、僕は目の前の人物に目が釘付けになる。


「何で! 裸なの!?」


 打ち捨てられた古い砦――その中に、黒の軍服を羽織った14.5歳くらいの姿の母と、


 鍛え抜かれた筋肉を惜しげもなく晒す、上半身裸の男。


『ル、ルートさん??』


 漆黒の髪に、黒曜石の瞳の第一国筆頭魔導士の姿がそこにはあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ