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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人
第4章 変えられぬ過去と選ぶ未来

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番外編 裏切り者の系譜

「お前らの命は一個しかねえ!

その一個を守れるのもお前らしかいねえ!

ヤバくなったら遠慮なく逃げやがれ! そのたった一個を全力で守れよ!」


 これは、私が生徒にいつも言っていること。


 生存率30%を叩き出しちまった前代、ロア=ライト。

 その後釜に納まっちまった自分。


 だからこそ、コイツらの生存率を上げたかったなんて、そんな殊勝な思いなんかじゃない。


『ライト先生!』


 ちゃらんぽらんな私に纏わり付く小さな命。


 ただただ、それを守りたかったロアの思いを知っちまったから。


 守れなかった現実に、ロアが耐えられなかった結末を知っているから。


 だからこそ、私は——


――――――――――


 これは、サムの後輩リーン=ライトがチーフ指導教官になった時の話である。


「はあー今回の任務も、かったるかったああ!」


 リーンは、軍の本拠地、『ガーデン』にて、任務完了の報告もせずに、中庭でだらけていた。


「リーン先輩、こんなところにいたんですか……探しましたよ、司令が呼んでます」


 呆れ顔の後輩レクスに引きづられ、司令室へ向かうと、思いもがけない内容が彼女を待っていた。


「上級魔導士リーン=ライト、お前を本日より、flowersフラワーズのチーフ指導教官に任命する」

「はあ!? チーフ指導教官て、正気すか??

こんな自分のことしか考えてないちゃらんぽらんぽらりーのな私に!?」


 司令は、はあ……とため息を吐いて、


「そうだ。ちゃらんぽらんぽらりーのなお前にやらせる事は、決定事項だ。覆らない」

「はあ、何でなんすか……そりゃあ、ライト家は、指導教官の名家ですけど、前代が脱国して、その風習も、潰えていたじゃないですか……」

「一時的にだ。後継が触発されて、脱国する恐れがあったからな。今は、一世代挟んで、再開するには丁度良い頃合いと見ている」

「ええ……それにしたって、他にいるでしょーよ、適任者が!」

「結界術は、身を守るのに、最も重要な魔法だ。この国一番の使い手であるお前以上に、それを教える適任者は、いない」


 それまで、だらけ切った態度とはいえ、一応、司令の正面に立っていたリーンは、くるりと踵を返し、


「はあ、そすか、なら、私、脱国します」

「それは困るな。ならば、これならどうだ? 指導教官としての仕事が始まるのは、お前が最も世話になったサムとコーラの娘が訓練生になる年からだ」


(ウィンディが、訓練生になる年? てことは、あと4年は猶予があるってことか、でも、)



 リーンは、また司令の方を向き、更に、不敬になるなどと気を巡らすことなく、机をバン! と叩く。


「同じことっすよ! 後か先かなんて!」

「22歳、魔力が一気に減退するこの時期に前線を離れられるのは、好都合だとは思わないか?」

「ていうか、その歳には、引退しますから」

「国一番の結界師にそれが許されると思うのか?」


(えー……マジで逃げられなそーだなあ。)


「てか、カルテット制は? なくすんすか?」

「ああ、元の訓練態勢に戻す方針だ。4人に1人、付けられるほど、人数に余裕はないからな」


(はあー、この前の小国一斉爆撃で大量に大人の魔導士失ったからなあ……)


「やらないといけないんすよね? 分かりました。前代の時みたいに、生徒の生存率30%とかになっても、減給しないで下さいね」

「そんな前例はないがな。安心しろ」

「へ? 前代は、それが原因で逃げたんじゃないんすか?」

「ロアは、別の理由だ」


 小さな声で、ぼそっと、『優しい奴だったからな』と司令が呟いたのを、リーンは聞き取る。


「ただの裏切り者じゃないってことっすね? 分かります」

「とにかく、現場入りは四年後だが、立場としては、今日からだ。任務以外の日は、現場の指導教官達に付いて、勉強しなさい」

「へ? や、休みは?」

「月に2回は、やろう」


 リーンは、すでに脱国したい気持ちでいっぱいになり、ちくしょー! と捨て台詞を吐きながら、司令室を出て行った。


―――――


「リーン、お前が担当した子供達の生存率が出たよ」


 数年後、彼女にそれを告げる司令官は、サムとコーラの親友、オーレンに代替わりしていた。


「そっすか……何%なんすか?」

「驚異の80%超えだ。国も褒賞と功績授与をするそうだ。良かったな」


 リーンは、はあ、と溜息を吐いて、オーレンから目を逸らす。


「司令の息子は死んだのに、よくそんなこと、言えますね」

「ジーニアスのことは、誰のせいでもない」


 リーンは、ギリ……と奥歯を噛み締める。


 ジーニアスは国一番の優秀な回復士だった。その上、オーレンの義理の娘、ウィンディの恋人でもある。


 更に、オーレンはリーンにとって、サムやコーラと同じく敬愛する先輩の一人だ。


 彼女は、そんな先輩達の子供の命を一番に守るつもりで、彼らを導いたつもりだった。


(生存率が高くても、一番守りたかった命を守れなかったんじゃ、意味がない)


 リーンは、思う。ロアは、どれだけこの虚しさを味わってきたのだろうと。


(ロアさんよ、私も結局、アンタと同じさ。都合よく戦争が終わったから、解放されそうだけど、そうじゃなかったら、私もきっと逃げてたよ)


「オーレン先輩、今後、自分はどうなるんすかね?」

「授与が済めば、取り敢えずの長期休暇が与えられる。元・教え子達の顔でも見てきたらどうだ?」


 80%もの生存者がいるリーンには、勿論、たくさんの"生きた"元・教え子達がいる。


 その中でも、彼女の心に残るのは……


「じゃ、先ずはオーレン先輩の家にお邪魔しまっす!……ウィンディに会いたいんで」


 サムとコーラの一人娘、ウィンディであった。


「ウィンディか。あの子はな、今はそれどころじゃない」

「? どういうことっすか?」

「恋愛沙汰で忙しいのだ、娘は」


 途端、輝いたリーンの金の瞳に、オーレンは、慄き、しまったと思ったが、時既に遅し。


「それは大変だ!! 今すぐ先生として、助言しなくちゃ!」

「止めておけ」

「ああ! 相手は誰なんですか?? 天国のジーニアスに代わって、自分がそいつを見定めてやりますよ!」


 はあ、と深い溜息を吐いたオーレンは、仕方なく、その男の名を口にする。


「ルーン……ルーン=インターだよ。第一国筆頭魔道士のな」

「インター?……ヤバいっすね。だって、その系譜は……」

「そうだな。しかし、二人には関係のないことだ」


 サムとコーラは、娘の未来をまだ知らない。


 そして、彼女の選択が、どこに繋がるのか——


 誰も、まだ知らない。

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