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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第4章 変えられぬ過去と選ぶ未来 第4話 きのこの里と魔族のこと

前回の後書きにて、

更新曜日を「月曜〜金曜」と記載してしまっていましたが、正しくは「火曜〜土曜更新」となります。


失礼しました……!

改めて、よろしくお願いします。

 迷宮内だというのに、ルートさんと交代でぐっすり眠れた僕は、すっきりと目覚めることが出来た。


 そして、この後、僕は思い知ることになる。


 この迷宮が、どれだけ食材に恵まれているのかを。


――――――――――


 ルートさんが、アイテムボックスにあるもので作ってくれた朝食を取り、僕らは、下の階層に続く階段を探した。


 しかし、一見、木立に見えるが、通り抜けることが出来ない立派な迷宮に、僕らは同じところをぐるぐるしてしまう。

 そして、とうとう3回同じところに行きついてしまった。


「インター、あれやってもいい?」

「いいけど、3回までね」

「オッケー! よし!」


 母――ウィンリィが、右の拳に魔力を集中し始めた姿に、僕は、まさか! と思ったが……


 ばっこおおーん!


「おっ! ここ、出たの初めてだよね!」


 思った通りのことが目の前で起きて、可憐な見た目に似合わず、豪快だった母の姿が脳裏に浮かんだ。


「13歳のころから、ウィンリィさんは、ウィンリィさんよね、本当に」


 小声で、くすりと漏らしながら話してきた妻のコーラに僕も、うんうんと同意する。


 そうして、壁を壊すこと3回、見たことのない妙な部屋に行きつき、僕らは下の階へと進むことが出来た。


 長い階段を下りながら、僕は思う。

果たして、これは正しいダンジョンの進み方なのだろうかと。


「あの、ルートさん、今更ですけど、壁を壊して、今までに不都合はなかったんですか?」


「ん? 他の冒険者が向こう側にいないかぐらいはリィも探知出来るよ? 魔力とかでなくて、気配で感じてるみたいだけど」


 そうじゃない、そうじゃないんだ。


「いえ、あの、ダンジョン的に問題はないのかなーと思いまして……」


 ルートさんは、ああ! と手を叩き、


「全く問題ないよ。前にここを作った魔族に聞いたんだけど、たくさん壊して、修復させた方が魔力を消費出来るから、派手に探検してもらった方が助かるんだってさ」


 ん?


「魔族? 魔族がいるんですか? この世界!?」

「うん、いるよー。君たち、本当に来たばかりなんだね。ダンジョンはね、魔族が大地の溢れた魔力を消費させるために作ったシステムなんだ。

この、魔力を無尽蔵に生み出し続けてしまう星を、生き物の住める土地として保つには、必要なことなんだってさ」


「それは……竜と同じく、魔族は、この星のシステムということですか?」


 僕は、スプリーンで出会った竜のことを思い出す。

 汚れた土地から出る大気と自身の魔力を合わせて、浄化を行い、生き物が住める環境を保つ。

 彼ら竜は、自らの存在を『星の生み出したシステム』と呼んでいた。


「驚いた。竜に会ったことがあるんだね……」

「いや、あの、魔族に会ったことがある方が僕はびっくりなのですが……」

「サム、竜に会ったの!? いいなあ! ねえ、何処で会ったの? インター、僕らも今度、そこへ行こうよ!」


 コーラとアプリとともに、先行していたウィンリィが、こちらを振り返り、話に食いついてくる。


「リィ、それはまた今度ね。ほら、もう着くよ? 君の大好きな……」


 薄暗かった階段に光が差し込み、眼前に広がったのは、


「きのこの里にね」


 そう。

 先程の紅葉のフロアとは、少し違った緑の残る木々と赤や黄、茶色の葉っぱを携えた紅葉樹。


 そして、辺りに生える様々な種類のキノコ達。

 椎茸や、しめじ、舞茸などの食卓でお馴染みのものだけでなく、アミガサタケや、タマゴタケ、アンズタケなどの森でしか見られないものも、たくさん生えている。


「これは、見事ね」

「取り放題だね」

「でしょ? 戦場の森でさ、食用茸見つけるとテンション上がったの思い出すよねぇ……」


 大人達は、皆一様に、感心の声を上げた。


 僕とコーラ、ウィンリィの祖国と、ルートさんの祖国は、100年以上戦争を続けている。


 そして、二カ国の間に横たわるライン戦線場は、森の中だ。

 戦地で、野営中に携帯食ばかりでは、気持ちも萎えてしまう。

 故に、現地で手に入る食材であるきのこを嫌う軍人は滅多にいないのだ。


「この階層、きのこの里って呼ばれてるんだ」

「へえ」

「ちなみに他国の迷宮には、“たけのこの山”って階層があるらしいよ」


 ……名前の付け方に、何だか途方もなく馴染みを覚えたが、黙っておく。


 だって、この階層……


「また、虫型魔物だらけとかじゃないですよね?」

「あはは。全く出ない訳ではないけど、ここで注意すべき魔物は、別に居るよ。それより……」


 はい、と、蔦で編まれた籠を渡される。


「取れるだけ、取り尽くそう。うちには育ち盛りの大飯食らいがいることだしね」


 ちら、とウィンリィの方を見るルートさん。

 どんな魔物が出るのか聞きたかったが、きっと、紅葉ダンジョンの時と同じで、教えてはくれないんだろうなあと思い、僕はその籠を素直に受け取る。


 周りを見ると、女子三人は、既にキノコ採集に夢中のようだ。


「アプリ、これは、食べられるきのこだよ」

「……うん。これは?」

「これは、毒だね……あ、そうだ! サム、視覚共有で、一番きのこに詳しい人の視覚を共有しようよ!」

「良い案だね。じゃあ、ウィンリィの視覚でいこうか」


 母は、食べることが大好きだった。

 子供の頃、僕とコーラに戦地で生き残る多くの術を授けてくれたのは、母だ。


 これまで、ウィンリィと行動を共にして分かったことがある。

 13歳とはいえ、僕らの知っている母の知識量と差分がないということ。

 そして、幼いアプリを、迷宮に潜っても何の懸念もなく進んでいけるほどに仕上げた指導力。


 母――ウィンリィは、いくつであっても、信頼の足る人物だということだ。


「サムは、リィのことを信頼しているんだねぇ」

「はは、一応、息子ですからね、僕」


 小声で話すルートさんに言葉を返して、僕は、目の前のきのこに集中した。


 そして、粗方取り尽くした頃に、ウィンリィがぼそりと呟く。


「そろそろ、来るかな」


 ぼこんっ! と地面が盛り上がり、見上げるほどの巨大なきのこが現れ、僕らの上に影を落とす。


「よっし! みんな! これを倒せば、この階層はクリアだよ!」


 ウィンリィがよく通る声で、叫ぶと、巨大きのこが、体を大きく振るった!


 ぶおおんっ! と大きな風鳴りを立てて、迫り来る巨体を、僕らは各々飛び退いて、躱す。


「胴体だけを攻撃して! 頭の傘部分への攻撃は、胞子を撒き散らすだけだから控えて!」


 ウィンリィの言う通りに、コーラが胴体目掛けて、刀を横に薙いだ!


「!」


 浅く切って、妻は、後ろに大きく飛び退る。


「コーラ! どうしたの?」

「弾力が凄いわ……ただ硬いものを切るより、骨が折れそうよ、これは」


 上級魔導士であるコーラは、国屈指の魔法刀使いだ。

 この世界で一番の硬度を持つ『ウルツ鋼』ですら、綺麗に切って見せた妻の言に、僕は凍りつく。


「コーラ、刀貸して」

「ええ、調整頼むわ」


 とはいえ、どんな調整を施せば、アレが切れるのか、皆目見当もつかない。


 今は、ウィンリィとアプリが、素早く動き回って、きのこ魔物の動きを足止めしてくれている。

 今のうちに、策を考えないと!


「サム、コーラ、前回、リィは、あれを一人で倒してるんだ。でもね、倒したのに魔力吸収が出来なかったんだよ。何故だか分かる?」


 いつの間にか、隣に移動してきたルートさんが、僕らに囁く。


「ただ、倒すだけならリィに任せればいいよ?

どうする? 『お母さん』に倒してもらう?」

「!」


 これは、そうか、そういうことか!


「いえ、僕らでやります。コーラ」

「ええ」


 普通の調整で、刀の切れ味を上げるだけでは、恐らく、切れない。

なら!


 僕は、刀を持つ両の掌に、魔力を集中させる。

 そして、唯一、自分が持ち得ている攻撃の魔法――火薬魔法を組み込んだ。


 魔力容量が平凡な僕は、使用魔力の大きい攻撃魔法は、魔力が空にならないように配慮しなければならない。

 しかし、最小の力で、最大の威力を引き出すのは調整魔術を得意とする僕の"おはこ"だ。


 カッと、刀が輝き、付与が上手くいったことを僕に告げる。

 それをすかさず、手に取ったコーラは、ウィンリィとアプリに向かって、叫ぶ!


「やるわ! 逃げて!」


 それを聞いた二人は、即座に戦線を離脱し、僕とルートさんのいる場所へと駆ける。

 直後、コーラが放った刀撃が、二人の間を通り抜け、きのこ魔物の胴体を大きく薙いだ!


 その瞬間!


 ドガアアアアン! と大きな爆発音が響いて、魔物の胴体は、真っ二つになる。

 刀に込めた火薬魔法が上手く爆発を起こしたようだ。


 僕の職性魔法は『銃』だ。

 だが魔力量が足りず、形を維持できない。

 それでも、諦めずに生かす術を試し続けて、火薬だけでも魔法として発動させることに成功したのだ。


 銃魔法の名手だった父――スノークには、顔向け出来ないけども。


 途端、頭から黄色い胞子がブワァッと舞い上がったので、僕はアプリの肩に触れ、僕らの周囲に半円状に結界を張った。


 魔物の体が消滅するが、魔力の帯が出現しない。

しかし、舞っていた胞子が魔力の粒子に戻っていく。それを見て、すぐに結界を解除した。


「……綺麗」


 大きな赤い瞳を震わせて、上を見上げたアプリが呟く。

 魔力粒子は、キラキラと舞いながら、僕らの体に吸い込まれていき、消耗した魔力が、大分回復したことを実感した。


「サム、コーラ、よく僕とリィの意図することが分かったね?」


 にんまりとした笑みを浮かべるルートさんだが、これを汲み取るのは、誰でも出来るわけじゃないと思う。


「つまり、きのこ魔物は、死を感じ取ると胞子を全放出する。しかし、その直後に絶命すると、胞子は肉体と同じく、魔力に戻るということですか?」


「そういうこと。よく分かったね?サム、コーラ」

「僕の打撃魔法だと、胞子を撒く前に絶命しちゃってさ。コーラの刀撃なら、確実に仕留めるのと同時に絶命するまでの余韻を持たせられると思ったんだ!」


 聞けば、ウィンリィは、前回の迷宮探査後にきのこ魔物の魔力を吸収する術を、他の冒険者達に聞いて回ったそうだ。


「それにしても、本体に魔力が殆どなくて、胞子に魔力が集中しているなんて、やっとの思いで倒した冒険者の気持ちを挫く嫌な魔物ですね……」


「だね。ま、理不尽なことは、これから先も腐るほど出てくるよ。そこを観察力と、探査、工夫で何とかするのが、君でしょ? サム?」


 言って、ニコリと微笑んだ彼に、僕は苦笑いを返す。

「はは、善処しますね」


 まだまだ短い付き合いだと言うのに、ルートさんとは、10年来の友人のような親しみが芽生え始めている。


 この人が、将来、母の――ウィンリィの敵に回るなんて、考えたくもない。


「ルートさん、迷宮探査の最中に、アレなんですが、ちょっと、お話したいことがあります」


 僕は、今度こそ決意する。

 ルートさんに、僕の知る未来を全て話してしまおうと。

次回からは、

毎週「火曜日〜土曜日 21時更新」となります。


しばらくは週5更新を予定しておりますが、

執筆状況に応じて、今後は週3更新へ移行する可能性があります。

その際は、改めてお知らせいたします。


初投稿作品ではありますが、

最後まで書き切る気持ちだけは強く持っています。


これからも、サム達の旅を見守って頂けたら嬉しいです。



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