第4章 変えられぬ過去と選ぶ未来 第3.5話 番外編 アベルのこと(ウィンリィとルートの想い)
【ウィンリィ視点】
『我が師アベルに合わせる顔がないわね』
あの坑道の中で、コーラが呟いた言葉。
『コーラ! アベル先生じゃない!』
ドライアドの幻覚の中で、はっきりと見た彼らの言うアベルの姿。
僕の知らない、見たことのない大人の姿だったけれど。
榛色の髪も、同じ色の瞳も、変化に乏しいその表情も、僕の知っている彼そのものだった。
――――――――――
「やっぱり……あれは、アベルなのかな……」
考えられることは、サムとコーラは、未来から来たということ。
この異世界に転移してくる僕らの世界の人間は、生きた時間に括られずにランダムに送られて来ているということ。
「はあ、インターに言わせれば、その仕組みの方が大問題なんだろうけど、僕は」
サムとコーラにアベルの話を聞きたい。
「でも、彼が誰と一緒にいるのかは、聞きたくないな……彼の手を取らなかった僕がそう思うのは勝手だと思うけど……」
師匠とか、先生なんて呼ばれるようになった君と、僕はどんな話をするのかな?
「そもそも、僕は生きているのかな? サム達の反応だと……」
コーラがたまにする、懐かしむような、あの顔が、
サムがたまに向ける、何だか複雑そうな表情が、
僕は、もうこの世にいないんだって、言っている気がしていた。
【ルート視点】
「リィ、はい、これ」
「わあ、ホットミルクだ。こんな所で飲めるとは思わなかったよ」
ここは、『時渡りの迷宮』の地下一層。
粗方、見て回って、取れるドロップ品を取り尽くした僕らは、落ち着ける場所を見つけて休んでいる。
「アプリにもあげたかったんだけどさ、もう寝ちゃったみたい」
サム達と出会ってから、毎日のようにアプリを抱きしめて眠っていたリィが、あの子が寝入るのを見逃すなんて。
余程、アベルのことが気に掛かっているのだろうと思った。
「アプリ、幸せそう……やっぱり、お母さんの腕の中が一番だよね」
それを見つめる彼女の表情は、穏やかで、とても優し気だった。
けど、
「? インター?」
僕は、リィの隣に腰を下ろし、彼女の肩を抱き寄せる。
「それ飲んだら、君も休みなよ。僕に寄りかかっていいからさ」
掴んだ肩は冷えていて、ホットミルクだけじゃ足りない暖かみを、僕で足してあげたくなる。
「でも、インターも横になった方が良いんじゃない? ここから下の階層だと、落ち着ける場所もあまりないし……」
「元より、迷宮内でしっかり眠ろうなんて思ってないよ。気にしないで、お休み」
飲み終わったカップを彼女の手の中から取り、ダメ押しとばかりに、防寒具で僕ごと、彼女を包み込む。
「ん、ありがと」
暖まったお陰か、程なくして、安らかな寝息が耳に届く。
「……ルートさん、本当に保護者が板に付いてますよね……」
向かいに座るサムが、何とも言えない複雑そうな顔でこちらを見てくる。
「ふふ。まあね」
彼は、まだ、僕が抱える気持ちの全てに気付いていない。
リィの未来の息子である彼には、もう少し黙っていようと思う。
僕が、この子を――
ウィンリィを、本当はどう思っているのかを。
ここまで読んで下さった方々に心から感謝致します。
次回からは、
毎週月曜日〜金曜日、夜9時の更新になります。
これから完結まで、基本週5更新から週3更新でやり切る所存です。(週3になる時はまた、お知らせいたします)
初投稿を完走する気持ちだけは強いです。
どうか見守って頂けると有り難いです。




