表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

第3章 13歳の母と漆黒の魔導士 第9.5話 番外編 ルートとウィンリィの初時渡り【ルート視点】

 これは、僕とリィが初めて時渡りを経験した時の話。


「っ、リィ、大丈夫?」


 ダンジョン最深部にて、高い魔力を放出していた部屋を探索していた僕ら二人。

 全く魔力を帯びていなかった姿見にリィが触れた瞬間、事は起きた。

 強い光が鏡から溢れるのと同時に、触れていたリィの手が中へ吸い込まれて行き……


 次に目を開けると見覚えのある森。

 腕の中には小柄な少女。


 咄嗟に彼女の手を掴んだからか、部屋の中にいる人間ごと飛ばす仕掛けだったのかは定かでないが、少女の温もりに、心底ほっとした。


「うーん、インター? 何か頭の中、ぐるぐるする……この感覚、初めてこの世界に来た時みたい……」

 リィのこの症状は、急に魔力が空になってしまった時の副作用の代表例だ。

 そう。あの時と同じで、魔力も空っぽになってしまっている。


「やっぱり、異世界転移と時渡りの仕組みは同じなんだ。飛ばされた直後、魔力が空になるのも、対象者のそれを動力に発動させる術式だからか? ならば、同等の高魔力同士のぶつかり合いで生じる魔力交差は、ゲートを開くためだけに作用している可能性がある。あと……」


 魔力交差に晒された体の防衛本能が、転移を引き起こしている可能性有り。更に、異世界転移と時渡りが人体に及ぼす作用の酷似。これは、異世界だと思っていたこの世界が、途方もなく過去の……


「……インター」

「……」

「インターってば!」

「はっ! ごめん、なあに? リィ」

「色々と熟考中、申し訳ないけど」


 ぐううううう〜


「お腹空いたよ、ご飯どうにかしよ?」


 あらら、半泣きだ。


「アイテムボックスの中の食料から作れるものを用意するね!」


 僕らは、魔物の気配から遠く離れた場所を野営地に決め、腰を下す。


「うう、お腹空き過ぎて、気持ち悪いよ……早く食べたいから、僕にも手伝わせて」




 リィは、体の小ささの割に魔力容量が巨大だ。空になった時の不快感は、空腹時のそれの何倍にも膨れ上がってしまう。


 故に、早く用意してあげたいのは、やまやまだが、先にこれを渡さないと。


「はい、リィ、とりあえず、これで身を守ってね」

「メリケンサックだ……有難う。素手で魔物退治しなきゃいけないと思ってたよ」


 可憐な彼女に似つかわしくないそれは、この世界で一番硬い鉱石、ウルツ鋼で出来ている。

 岩どころか、砕けないものはないと、露店商に言われて購入したものだ。


「僕はこれにしようっと」


 自分用には、剣を出して、腰に携える。

 これから、魔力が回復するまでの間、僕らは肉体のみで戦わなくてはならない。その為の武器は、常時、アイテムボックスに入れてある。


 リィには、ペティナイフも渡して、根菜の皮剥きをお願いした。

 僕としては、皮ごと調理してしまいたかったのだが、一度、おやつにと、野菜の皮でチップスを作ったら、彼女のお気に入りになってしまい、それ以来、野外調理時の定番品となってしまっている。


 火は、火打ち石をアイテムボックスに常備しているので、難なく付けられた。

 鍋で野菜を炒めてから、手持ちの水を入れ、沸騰させる。

 繊細な作業が苦手なリィは、灰汁取りの時には離脱して、周辺警戒をしてくれていたが、何も出ず、料理は完成間近であった。

 しかし、


「ガルルル」


 本当にあと少しで食べられるところで、魔物が現れてしまう。


 3mはあろうかという巨大な熊のような魔物に、リィは、怯むことなく立ち塞がり、


「僕、本当に本当に! お腹が空いて、限界なんだ! だから」


す……と、彼女の空気が鋭利な刃物の切先と化す。


「加減しないよ」


 バキッ! ドゴッ! ゴギッ!


 魔法なしで、メリケンサックのみの拳で、ボッコボコに凹んでいく魔物の体。


 魔物は、それでもめげずに噛みつこうと、牙を剥き出しにして、大きな口を開けたが、


 バキィンッ!


 太く鋭い2本の牙は、あっさりと、ウルツ鋼メリケンサックによって、地に落ちていく。


 僕は、味の最終確認をしつつ、それを見て、可愛いのに末恐ろしいなあ……と他人事のようにその惨劇を見守った。


―――――


「ふええ、美味しい。グスッ」

「あはは、お疲れ様。たんと召し上がれ」


 感激のあまり、半泣きで食べるリィを可愛いなと思いつつ、僕もシチューを口に運んだ。


「はあ、さっきの魔物、少しでも魔力が残ってたら、肉固定でお肉ゲット出来たのになあ……」

「まあまあ。まだまだ在庫あるからさ、焦らなくても大丈夫だよ」


 いつもは、物凄いスピードで食べ尽くすリィも、この時ばかりは、味わって、いつもよりゆっくり目で食している。


「はあ、ご馳走様。一国のシチュー、美味しくて僕、好きだな」

「ふふ、それは良かった。二国は、カレーが主流なんだっけ?」

「そうだよ。カレーはさ、何入れても美味しいと思うんだけど、仲間はそうじゃなかったみたいで、僕、作るの禁止なんだよね……だからさ、インターは、手伝わせてくれるから、楽しいよ、僕」


 おや、嬉しいことを言ってくれる。


「そだ、インターってさ、魔力空っぽでも、アイテムボックス使えてるよね? 何でなの?」

「うーん。特に何もしていないよ? 強いて言うなら、ボックス内の魔力循環を良くしてるかなあ……常時ね」


 リィは、驚いた顔をして、


「常時!? つまり、電池的な効果を魔力に持たせているってこと??」

「そうだよ」

「何ソレ、そんなの、チートじゃん。インターさ、ルート=インターじゃなくて、チート=インターに改名しなよ」

「……ダサいからごめんだよ」


 何だろう、リィは、少し、ほんのすこーし、センスがズレているように感じる……


「 むう! ダサくないよ! スノークみたいなこと言うなあ。僕のネーミングセンスは、安直かつ、ダサくないもんね」


 べっと舌を出す仕草は可愛らしくて、ほっこりするが、スノークの名が出たことにだけ、僕は眉を寄せてしまう。


「リィってさ、話しても、可愛いままだけど、言動にセンスを感じないことが多々あるよね」

「そ、そんなこと……あるのかも……悔しいけど、仲間達にもたまにソレ、言われてたんだ……特にスノークに」


 しまった。話題がスノークから離れない。でも、どんな風に奴が言ったのか気になるな……はあ、もう読んでしまうか。


 僕は、リィに気付かれないように、読心魔法に認識阻害をかけて作動させた。


『スノーク! 草花人の名付け辞典見つけたよ!』

『ふうん、あ、チェリーブロッサムだ。君のお父さん、そうじゃなかった?』

『そうだよ! ふむ、名前案は……チェリー、ブロッサム、サムか……この中だと、僕はサムが良いと思うな!』

『俺はそれ、安直かつダサいと思うけど』

『なっ! そ、そんなこと、お父さんの名前は、ダサくないもん!』

『あ、君のお父さん、サムだったか。それはごめん』

『……むう。君だって、スノーフレークでスノークじゃん。変わらないでしょ』

『ふ、まあそうだね。君もウインターコスモスでウィンリィだし?』

『そうだよ。僕らの名付けは、花から取るの今も定番でしょ?』

『わかった、わかったから、そんな拗ねた顔しないで』

『むう、別に拗ねてないもん』

『まあ、その顔も可愛いけど』


 はい終了! 全く、隙あらば、くどこうとして! 子供のくせにとんでもない奴だ!


「インター? どしたの? また熟考してる?」

「えっ? ああ、何でもない、何でもないよ」

「?」


―半年後―


「ねえ、サム、僕、君の名前の由来知ってるんだよねぇ……」

「え? チェリーブロッサムだから、サムなだけですけど、由来も何も」


 おや? サムは知らないのかな? 自分のおじいちゃんと同じ名前だってこと。


「それだけじゃないんだけどね? リィにさ、聞いてみなよ」

「……それ、母に全部話せってことですか? まだ早いですよ、それに」


 彼は、言葉を切って、考え込む仕草をしてから、


「ルートさんと過ごす『今』が母は楽しそうですしね、だからまだ黙っておきますよ」


 そう言って、笑みを浮かべたサムの顔は、2人が笑った時の顔にそっくりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ