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娘を置いて異世界へ――飛ばされた夫婦の帰還冒険譚  作者: 相沢春人


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第3章 13歳の母と漆黒の魔導士 第6話 朝食と四年前の縁

 昨日は、コーラが市場を見たいと言うので、朝食は市場飯だった。

 今日は、取り直した宿屋が食堂付きだったので、そこに集まって食事を取っている。


「さすが、保護者歴半年のルートさんが選んだ宿屋ね」


 半年……という言葉に棘を感じなくもないが、ビュッフェ形式の朝食に、アプリは目を輝かせており、それを見つめる妻の顔も優しく微笑んでいたので、褒めているのだろう。多分。


「あっ、これこれ! オススメなんだ! お野菜が苦手でも、これは美味しいと思うよ?」


 そう言って、母がアプリに勧めたのは、かぼちゃのパウンドケーキだった。

 あしらいとして、かぼちゃの種も散っており、栄養価も高そうだ。


 アプリはそれをじっと観察してから、一切れ皿に盛り、匂いを嗅いで、もう一切れ盛った。


「良い匂いだよね! もし食べられなくても、僕がいるからたくさんチャレンジしてね、アプリ」

「そうだよ、アプリ。リィはね、底無しの胃袋を持っているから遠慮しないでね」


 相変わらず、という言い方は正しくないか。

 子供の頃から、母は大食漢だったらしい。

 僕を育ててくれていた時も、よく食べる人で、成人男性の1.5倍ほどの量をいつも完食していたのを思い出す。


 そんな母が、3年前、あっさりこの世を去るとは露ほどにも僕は予想していなかった。


「アプリ、生野菜も食べましょうね」


 コーラがすかさずトングひとつまみ分のサラダをアプリの皿に盛った。

 その時のアプリの顔には、はっきりと、ガーン! と書いてあって、野菜のパウンドケーキで許されると期待していたんだろうなと見てとれた。

 可哀想に。


 各々好きなものを取ってテーブルにつくと、さっそくルートさんが口を開く。


「で? どうするの? 依頼」

「それなのですが、ルートさんから見て、僕たちは上難度の依頼をこなせると思いますか?」


 ルートさんは、うーんと腕を組んで悩む素振りをした後、母、ウィンリィに目線を移し、母も彼の顔を見上げた。


「……むぐ。僕はいけると思うよ? コーラは、戦闘力特化の上級魔導士で、サムは、魔力は高くないけど、細かな魔法が使える補助術士でしょ?

バランスの取れた良いコンビだと思う……まあ、子供の僕の意見だけどさ」


 母は、先程アプリにも勧めていた野菜のパウンドケーキを一切れ食べてから、また口を開き、


「でも、アプリは、まだ子供だからさ、2人が依頼をこなす間、僕が預かるよ。それで、自衛の術を身につけさせようと思う。どうかな?」

「ウィンリィ、それは有難いけど、具体的にどんなことを教えるつもりなの?」


 母は、僕とコーラの師でもあった。しかし、それは大人のウィンリィの話で、この13歳の彼女に他者に教える技術が果たしてあるのだろうか。


「んーとね、先ずは、攻撃を避ける訓練をするよ。アプリは、その、運動能力に長けているはずだから、すばしっこさを攻撃回避に活かせると思うんだ」


 昨日の依頼の行き帰りのアプリの飛ぶような軽快な山歩きを見ての判断か。

 あとは、獣人としてのポテンシャルかな。


「あとね、魔法に関しては、僕に考えがあるよ……アプリ、君は、魔法を使うことを躊躇っているよね?」


 アプリは、怯えるでもなく、ただ、こくりとルートさんを見て、頷いた。


「ルートさん、どうしてそう思うのですか?」


 本当は、分かっていた。この人なら、とっくに気付いてると。

 彼は、声に出さず、唇の動きだけで、それを口にした。


「アプリは、『    』でしょ?その腕輪で転送してるのかな? 余分な分をね」


 『魔力の子』とはっきりと動いた唇に、隣のコーラは、少し身構えたような気配を出し、僕も、固唾を飲んだ。

 しかし、目の前のルートさんの雰囲気は穏やかなままだ。


「……あ、コーラ、サム、この人は、大丈夫だよ。警戒しないで」


 それまで黙っていたアプリが発した言葉に、僕とコーラは、彼女に注視する。


「アプリ、もしかして、お知り合いなの?」

「……うん。あの村に私を連れてきてくれたの、このルートさんだよ」


 ん?? 僕らは思わず、顔を見合わせて、そのルートさんを見る。

 僕は、彼と出会った時に思いを巡らせる。

 確かに、アプリは、初めて会う高魔力の人間を前に、全く警戒していなかった。

 好意的なウィンリィがいたからだと思って、あの時は気にしていなかったのだが。


「うん、そうなんだ。大きくなれて良かったねえ、アプリ」

「インター、どういうこと? 僕、何にも知らないんだけど??」

「あんまり君には話したくなかったんだけど……」


 ルートさんは、バツが悪そうに歯切れ悪くなってしまった。何か、母に知られると不都合になるようなことがあるのだろうか?


「アプリがあの村に来たのは、まだ赤ちゃんの時分だったと聞いているわ。4年前のアプリをどうやってあなたは、村に連れて来たのかしら?」


 そう、今、アプリは4歳なのだ。ルートさん達がこの世界に来たのは半年前……計算が合わない。


「あーっ!! あの時でしょ!? 時渡りの迷宮で、4年前に飛ばされた時!」


 母が叫んで、理解した。ルートさん達は、すでに時渡りを経験済みだったのだと。


「そ。ほら、君が単独で依頼を受けていた間に保護してね。一番近くの獣人の村に連れて行ったんだ」

「つまり、赤ちゃんのアプリを、獣人の村に捨ててきたってこと?」

「……そうとも言うかな?……はは」

「何でさ! 僕が育てたのに!!」

「子供が子供育ててどうするのさ? それに、僕ら4年後の人間だし。ほら、4日後、強制的に元の時間に戻されちゃうじゃない? だからさ、育てるのは無理があると思ったんだよ」

「……むう。それはそうだけどさ」


 母は、頬を膨らませてはいたが、返す言葉がなったのか、口を噤み、リンゴジュースに口を付ける。


 しかし、2人が既に迷宮に入っていたとは、話してくれてもいいのにと、正直、思った。


 ルートさんとは、まだ短い付き合いだが、全てを包み隠さず話さない節があるなと思う。

 こういうところ、やはり、敵国の魔導士らしいなあとも。


 ともかく、時渡りの話は詳しく聞きたいが、今は、アプリの訓練の話が先だ。


「ルートさん、アプリに魔法の指導をしてくださるんですか?」

「うん、そのつもり。とりあえずは、さっきリィが言ったように自衛の範囲内でだけどね」


 言って、アプリに向かってウィンクをして見せるルートさん。

 彼は、僕の国と戦争状態にある強国、第一国の筆頭魔導士。説明するまでもなく怪物だ。


 魔法を教わるならこれ以上ない人材。しかし、コーラが納得するかなあ。


「あなた、2人に任せましょう。私たちよりも、的確にこの子に必要な術を教えてくれそうだわ」


 そうだった、僕の妻は、こういう時、私情を挟まないんだった。


「僕もそう思っていたところだよ。ルートさん、ウィンリィ、アプリを宜しくお願いします」

「やったあ! いっぱい一緒にいられるね! アプリ!」

「……うん。ご指導……お願いします」


ぺこりとお辞儀をする4歳児。アプリって、本当に精神年齢が高いよなあとつくづく思う。


「ふう。リィ、遊びじゃないんだよ? 分かってる?」

「……むう。分かってるよ。それに僕、体術はflowersフラワーズの中でもNo.2だし! 良い先生になれるもん!」


 おや? 13歳の時点では、2番だったのか……僕の知る母は、同世代の中でNo.1だったはずだが。


「へえ、一番は誰だったの?」

「ジンだよ! 僕、もうちょっとで、彼に勝てるはずだったのになあ……悔しいよ」


 ジンとは、燃えるような赤い髪に真紅の瞳の魔法少年で、母と同じ拳闘士タイプ……そして、


 母の――ウィンリィの最愛だった人だ。


 当時、母と父に次いで、No.3の実力者だった彼は、僕とコーラの世代の良き指導者になり得ただろう。


「子供の頃からずっと、僕の組み手相手でさ、目標だったんだ! 彼に勝つの」


 生きてさえ、いれば。


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