第3章 13歳の母と漆黒の魔道士 第5話 今後の目的地と依頼達成
ルートさんの案内で、薬草の群生地へ向かう僕ら。
森の中を進む中、この世界の地図の見方や、異世界旅行者、異世界転移者についての話も聞かせてもらった。
「リィと僕もね、一応、元の世界への帰り道は、探しておこうと思っててさ。この国で得られるそれらしい情報は、取り尽くしたんだけどね……」
『一応』という言葉に引っ掛かりを覚えつつも、情報を早く得たくて、そのまま聞き流す。
「異世界旅行者は、滞在期間が短過ぎて、捕まらなくて、転移者に至っては、1人も見つからなかったんだ」
ガーン! ま、まあ、彼らもまだ、異世界歴半年なのだし、仕方ないか……
「でもね、一つだけ、元の世界に戻れる可能性を見つけたんだ」
「可能性……ですか。それは、どんな?」
「迷宮さ、この国には、『時渡りの迷宮』と呼ばれるダンジョンがあるんだ」
時渡り? 時を渡れるということか、なるほど、その魔法式を解読できれば!
「異世界転移に転用できるかもしれないってことですよね?」
「そういうこと。で、そこのダンジョンさ、内容的に行方不明者が大量に出ててさ。国が規制を出してるんだ。だから入れるのは、
①S級冒険者
②依頼難度中クリア数10件又は、依頼難度上クリア数3件の冒険者
③国が認めた国家魔道士
この3つの条件のうち、一つでも当てはまれる人物のみ、なんだよ」
「つまり、僕らが入るには、②の条件を満たす必要があると」
ルートさんは、満面の笑みを浮かべて、
「うん! 頑張ろうね!」
と言ったのだった。
そして、到着した群生地。
そこは、森を抜けた先にある開けた草原だった。
花が咲き、蝶が舞う。綺麗な風景に、コーラもアプリも見惚れている。
「あっ、アプリ! 僕と一緒に木の上で待とうね」
と、母ことウィンリィが慌てた様子でアプリを抱え、木の上へ飛び上がった。
つまり、この草原には目視できる範囲に目当ての魔物が現れているということか。
僕は、目に魔力を集中させて、出来る限り、広い範囲を一度に視界に納めてみる。
少し、僕の世界の認識阻害魔法とは違う術式だが、類縁の魔法痕が視界を移動するのが視えた。
一度視界に捉えれば、見る間に姿を現す魔物。
「いた。かなり、大きい」
僕の目に映ったのは、3mほどの背丈の、土のようなもので出来た魔物だった。
背中一面を蔦のような植物が覆っている。
依頼の薬草とは、これのことだろうか?
背中の植物以外は、子供の頃、訓練施設の図書室で読んだ、ファンタジー小説の挿絵に描かれていたゴーレムの姿に似ていた。
「サム、固定魔法は使えない。奴ら、人間にとっての自身の有用性を理解して対策しているんだ」
「打ち取ってから採取することは出来ないんですね……なら!」
僕は駆け出す! 背中に向かって!
体全体に認識阻害をかけたため、難なく背後に回ることが出来た!
後はこの蔦を出来るだけ多く、むしり取るだけと思い、蔦に手をかけた瞬間、ぐりんっとゴーレムの頭が後ろを向く。
「サムー! その蔦も体の一部みたいだよー?」
いや、アドバイス遅くないですか? ルートさん!
苦言を呈するより早く、ゴーレムに蔦を掴んでいた腕を掴まれて、ぽいっと放られた。
更に、起きあがろうとした僕の目の前に、ゴーレムの拳が迫り!
ガギンッ!
「コーラ!」
妻が攻撃を魔法刀で受けてくれていた! ゴーレムを倒すことのないよう、きちんと、峰打ちだ。
「あなた、私がこの子の相手をするわ。その間に取り尽くして」
ギィンッ! ガギンッ!
土のように見えたゴーレムの身体は、意外に硬いらしく、岩を金属で叩くような攻防音が鳴り響く!
「有難う! コーラ!」
「ヒュゥ、やるね、コーラ。見えないもの相手に、ハンディを感じさせない戦いをしてる」
「あの魔物、パワーはあるし、避けるスピードもあるけど、攻撃が大振りだからね。気配だけで戦うのには適した相手ではあるよ、それにしても……」
母は、一度言葉を切って何かを溜めていた。僕は、必死に蔦を引っ張って採取しながら、何を言うのか耳を澄ませていたのだが。
「美人の剣劇を間近で見られるなんて、眼福だねえ、美しいな〜惚れ惚れしちゃう。ね? アプリ?」
今、母はきっと、恍惚とした表情でアプリに同意を求めていると思う。
そんな顔を間近で向けられているアプリは、きっと困惑して頬を赤らめていることだろう。
自分の顔も美人だということを自覚してほしい。
「取り尽くした! コーラ!」
依頼書だと、採取数は一つと明記されていた。
ゴーレムの背に生えている分全てと認識して、間違いないだろう。
コーラに叫ぶと同時に、魔物から離れ、それを確認した妻も魔物から距離を取る。
魔物が攻撃を続けようとコーラに迫ったが、彼女が放った魔力込みの蹴りで、遠くに飛ばされて、次に起きあがる前に僕らは森へと逃げ込んだ。
―――――
「いやあ、結構な依頼料でしたね」
ギルドに採取した薬草を提出すると、想定していた量の1.5倍ほどだったとのことで、報酬に色を付けて貰えたのだ。
「サム、綺麗に取り尽くすんだもの。僕が取った時は、まばらに蔦が残ってる状態でも、一つとしてカウントしてもらえたよ」
一言、言おう。母は、大雑把な性格だ。
対して、僕は、几帳面というほどではないが、真面目な性格。これはきっと……父譲りなのだと思う。
「ともあれ、これで『時渡りの迷宮』に一歩近づいたね。それで、次からどうする? このまま、中難度をあと9件こなすか、上難度を3件こなすか」
「うーん。それなんですが、様々な依頼をこなして、この世界の魔物のことを知りたい気持ちと、あまり悠長なことを言っていられない気持ちが混在してまして……コーラと今夜、話し合って決めようと思います」
妻の方を見ながら、ルートさんにそう話すと、コーラも同じ気持ちだったようで、笑顔で頷いてくれた。
「そっか。まあ、どちらにしても、暫くは僕とリィがナビするよ。ね、リィ?」
「うん! たくさん教えるね! あと、アプリともっと仲良くなりたいから、取る宿も同じにしたいな! どうかな? コーラ、サム」
僕より先にコーラの名前を呼ぶ母。この短時間でも分かってしまったか。僕ら夫婦のパワーバランスが。
「ふふ。私達も、同じ意見よ。まずは、ウィンリィ達の宿に空きがないか見に行きましょう。オータンに来たばかりの私達よりも、子供向きの宿屋の目利きが出来ていそうですし?」
後半、ルートさんの方を見たコーラの瞳は、なんだか挑戦的で、親として張り合っているかのようにも見えた。
が、寝る前に彼女に聞いてみると、母の保護者たる彼のことを見定めたかったとのこと。
コーラにとって、僕の母は、義母である前に、師であり、産まれてすぐに親を亡くし、軍の孤児院で育った彼女を暖かく気遣ってくれた初めての大人でもある。
「サム、私ね、またウィンリィさんに会えて嬉しいの。たとえ、13歳の子供の姿、心であっても」
そう話す妻は、布団の中でぴたりと僕に寄り添い、珍しく甘えているなあと感じさせた。
「そっか、そうだね、僕も嬉しい……かな」
君が嬉しいなら、僕はそれ自体が嬉しいんだ。
君のことが大好きだからね。
ちなみに、今、アプリはこの部屋にはいない。
同じ宿屋に部屋を取り直すことが出来、就寝時刻の直前まで居座っていた母に連行されてしまった。
そのため、アプリは今、突然出来た姉貴分と共に寝入っていることだろう。
ルートさんはというと、今夜も食事の時にナンパしてきた美女と約束を取り付けていたので、部屋に戻るのは朝方だそうだ。
そんな態度で、果たして、コーラに認めて貰えるのだろうか……
どうでもいいが、心配してしまう僕であった。




