第3章 13歳の母と漆黒の魔導士 第3話 母の保護者
子供の頃の夢を見た。
母と、その親友のリアさんと共に墓参りに行った時の夢だった。
父の墓の、遥か右に生えている木の下に、傷だらけの小さなお墓がある。
母に、どうしてこのお墓はこんなに遠くて小さいの?と聞くと、困った顔をするばかりで答えてくれない。
あれは、一体、誰の墓だったのだろう?
墓石の文字が思い出せない。
――――――――――
翌日、朝早くに、昨日の盛場前で待ち合わせた僕ら5人は、男性陣がギルドの依頼掲示板を、女性陣が市場で朝食の調達に向かった。
僕とルートさんは、彼オススメの初心者向けだが、実力がないとクリア出来ないラインの仕事を選び、無事に獲得。
今は2人で、ギルド横のカフェテラスでコーヒーを飲んでいる。
「ねえ、君らさ、二国の人間だよね?」
「……やっぱり分かってて、声をかけたんですね」
僕は、認識阻害で隠しているが、妻のコーラは第二国の魔導士の証、頭花を隠していない。
「うん。リィがさ、事情があるのかもしれないから、話してくれるまでは知らんぷりしようなんて言うからさ。黙ってようと思ってたんだけど……」
「ウィンリィは、エビフライのしっぽが目当てだったわけじゃなかったんですね」
母はいつもそうだった。意味のないように見える行動全てに理由がある。頭の良い人なのだ。
「あはは。しっぽが欲しかったのも、可愛い子を構いたいのも、美人が好きなのも、あの子の正直な気持ちさ……で? 君たちも、三国の高魔力砲でここに飛ばされたのかな?あと、君、あの子の何? 血縁者だろ?」
驚いた! 頭花だけでなく、顔にも認識阻害をかけているのに!
「答えて」
さっきまで和やかな声音だったルートさんの声が低くなって、僕はその顔を改めて見つめ直す。
長く伸ばした前髪の隙間から覗く黒曜石の瞳は、光を失ってベンタブラックのようになっていた。
「……はい。僕らも三国の高魔力砲でここに来ました。ウィンリィのことはよく知っていますが、彼女は僕たちのことを何にも知りません。
彼女、有名人なんですよ。何てったって、我が国最強の魔法少女ウィンターコスモスですから」
ルートさんから漆黒の魔力が溢れる。
まずい、はぐらかし方を誤ったか。
「とぼけるなよ。父親なんだろ? あの子の」
惜しい! 息子なんだなあ。でも、それは伏せておいた方がいいか。
「えと、遠縁なん」
「ああ、もう、面倒だな、読むよ」
言葉を遮られ、眉を顰めた瞬間、頭の中を他人が通り過ぎて行く感覚がして、僕は吐き気を催した。
「は? 息子?? 嘘だろ?」
この人、読心魔法の使い手だったのか! 高魔力の上に、余程器用じゃないと使えない。操り手の少ない希少魔法だ。
「うええ……本当です」
朝食がまだで、胃の中が空だったから、まだ堪えられた……ほんの少しコーヒーの味はしたけども。
「ふうん。父親は、誰?」
「スノーフレークの魔法少年だったスノークです」
ルートさんの眉がぴんっと跳ね上がる。
「知っているよ。嫌な名だ……」
ルートさんが、先程よりも更に低い声で呟く。
仲間をやられたのだろう。父は、母に次ぐ実力者で、敵国の戦闘系幹部の暗殺を命とし、何人も葬ったとされている。
「あの、ルートさん?」
それきり、右手で顎を捉えて考え込むように黙ってしまった彼に恐る恐る声をかけた。
すると、思いついた! と言った顔をして、
「君さ、頭花の下まで認識阻害かけてるでしょ。それとって、素顔見せてよ」
そう言った彼の様子は、すっかり元の雰囲気と口調に戻っていた。
しかし、何がこの人の琴線に触れるか分からない。
僕は言われるまま、それを解いた。
頬を撫でる風が、いつもよりよく届いて心地良い。
この世界に来て、初めて晒す素顔がこの人の前って、何だか複雑だ。
「……成る程。リィとスノーク半々の顔だ。紛れもなく息子だね」
「あはは、よく言われます」
足して2で割った顔立ちだと、両親をよく知る魔法少年、少女部隊、flowersの先輩方にもよく褒められたものだ。
「はあああー! まさか、リィがスノークと一緒になるなんてね……あんな事があったのに」
「あんなこと?」
「君は知らない方が良いよ。息子なら尚更ね」
そう言って笑う彼の顔は含みたっぷりで、僕は、よっぽど聞き出したかった。
しかし、山盛りの朝食を持ったコーラ達が遠目に見えて、慌てて駆け寄ったので、聞きそびれてしまう。
どういう事なのだろう? 父と母の間に、それも、13歳以前の2人の間に何があったというのか。
後にそれを知った時、ルートさんが僕に向けた、あの『怒り』の正体も判明するだろうか……
今夜も悶々と考え込んでしまいそうだ。
しかし、身に染み付いた母の教訓のお陰で、結局はすぐに眠りに入れてしまうのだろうが。




