竜の家族
「サム、この先って……」
「うん。ルアは今、竜の巣穴にいるみたいだ……」
今、僕とウィンリィとアプリの三人は、手帳の魔力を追ってルアを追跡中だ。
足元には、ウィンリィがかけてくれた風の魔法を纏っている。
ルートさんの電閃道ほどではないが、自力で走るよりも遥かに短い時間で、竜の巣穴まで行くことが出来た。
着いてすぐに巣穴のなかに入ることはせず、僕は先ず、昨日巣穴周りに配置したウルツ鋼のカケラを確認した。
飛ばされないように地面に埋め込んでいたので、しっかり残っていた黒の鉱石のカケラに、僕は安堵する。
「二人とも、先ずは、巣穴の上に結界を張るよ。その後、どうやって手帳を回収するか考えよう」
二人が頷くのを見届けて、カケラに向かって意識を、魔力を集中したその時、
「サム、待って下さい。巣穴には私たちがいますので」
「イオ!?」
大きな翼を羽ばたかせて、穴から上がって来たのは、竜のイオだった。
ウィンリィとアプリが駆け寄ると、イオは見慣れた人型に姿を変える。
「ウィンリィ、アプリも、少し大きくなりましたね」
「えっ!? 別れてから三週間くらいしか経ってないよ? ねぇ、アプリ?」
「うん……」
二人の頭に手を乗せて微笑んだイオに、二人は不思議そうに顔を見合わせた。
「ふふ、精神的に大きくなったという意味です。二人とも顔つきが以前と全く違います」
「イオ、ルアは、昨日までウィンターンの研究施設に捕らわれていて、そこで大量の魔力を流されたんだ。だから、暴発寸前で、その――」
「大丈夫ですよ。下を見て下さい」
危険だから近くにいない方が良いし、昨日のように正気を失って襲ってくるかもしれないと言おうとしたが、イオはやんわりと僕の言葉を遮り、穴の底を指した。
そこにいたのは、ルアと、彼を取り囲んでいる8体の竜たち。
その中でも一際大きいのが鮮やかなエメラルドグリーンの始祖竜アルだ。
残りの7体も、緑を基調に鮮やかなグラデーションを身に纏った竜たちで、おそらくアルの子供たちなのだろう。
中央のルアは、暴れるでもなく、蹲り目を瞑っていて、その太い首には、鎖のようなものがネックレスのように掛けられていた。
「あの首のモノは……」
「竜用の魔力転送の魔法具です。あなたたちがリヴァイアサンの神獣人と対峙している辺りで、アドを飛ばして現状を知り、拵えました」
アドがあの場にいたとは、全く気付かなかった!
おそらく、ドライアドの持つ幻覚魔法で姿を消したのだろう。もしかして、僕が今まで施していた認識阻害魔法も、アドには必要なかったのかもしれない。
「ルア、落ち着いてる……」
「確かに……昨日はあんなに暴れていたのに」
「イオ、どうやって落ち着かせたの?」
ウィンリィの問いに、イオはルアの体の中心辺りを指しながら、口を開いた。
「体の中に精神安定の魔法を放っている魔法具があるようです。あれは……ルートの持ち物ですよね?」
「! うん! 僕たち、あれを取りに来たの! だってね、インター……が……」
ウィンリィの言葉がどんどん勢いを無くしていく。
ルアが助かる道があるとすれば、現状、あの手帳は体内から取り出すべきではないと気付いてしまったのだ。
「……ごめん、イオ。ルアは君の兄弟だけど、これだけは譲れないんだ。お願い、手帳を取り出すことを許して欲しい。お願いします」
頭を下げるウィンリィの肩をイオは掴み、「ウィンリィ」と名を呼んだ。顔を上げたウィンリィの大きな桃色の瞳には、揺らぎない決意の光が灯っている。
「元よりそのつもりです。ルアはもう、生きるつもりがありませんしね」
「イオ……ごめん」
「いえ、それより、ルアの行方を気にかけてウィンターンまで捜査してくれてありがとうございました。でも、あの国は危険ですから、もう二度とこんなことはしないで下さいね」
「「……うん」」
イオは、本当に心配してくれていたのだろう。後半は少し責めるような声音だった。
「さて、サム。私たち竜は、ルアを終わらせるために集まりました。これから彼を魔力に還し、大地を通って星へと還元する術を行います」
「そのために、一度戻ったのかい?」
「ええ。新たに術式を構築するのに時間が要りましたから」
ん? 待てよ? 竜の巨体を魔力に還元する術式なんて、あの手帳もルアと一緒に魔力に還元されて消えてしまうのではないか!?
「イオ、その前に手帳を取り出したいんだけど、何か良い方法はないかな?」
「私も考えたのですけど、普通に口から入るしかなさそうですね。幸い、竜の胃の中は広大な異空間ですから、狭い思いをするのはそこに辿り着くまでで済みますし」
異空間なのか! 胃液で溶かされないように体に結界を張って探す覚悟をしていたけれど、それなら大分快適だ!
「分かった。じゃあ僕、行ってくるね」
「ウィンリィ、牙とか当たらないように気を付けて」
「アプリ、うん、ルアには悪いけど、限界までお口を開けさせてもらうよ」
「僕は、ルアが動かないように、申し訳ないけれど、体に拘束の結界を張るよ。イオ、それで良いかい?」
「ええ、それで行きましょう」
そうして、僕らは巣穴の中に降り立った。
中にいた竜たちに挨拶し、事情をイオと共に説明してルアの前に立った。土色だった体がほんの少しだが、若草色を取り戻していて、胸が辛くなる。
本当に助かる道を閉ざしていいのだろうか、と迷いが生じそうだ。 あの卵だって、本当にルアとスアのものならば、生きて育てる道もあるんじゃないのか?
「イオ、ルアは卵を二個持っていたみたいなんだ。で、今はルートさんのアイテムボックスに入っているんだけど」
「卵? でも、スアがいないのにそんなわけは……」
「サム、何色だ?」
口を開いたのは、イオとルアの父、始祖竜アルだ。
「若草色の卵です」
「イオ、確かめてきてくれるか?」
「はい、長」
イオにルートさんの居場所を教えると、彼女はまた竜の姿になって、羽ばたいて行った。それを見送って、僕はアプリの魔力を借りてルアの体に拘束の結界を体に負担がかからないように気を付けてかけた。
されるがまま、未だ目を瞑るルアの大きな口にウィンリィが手をかける。開くと、竜の口は大きく、身長150センチほどのウィンリィならば、難なく中に入って行けそうなサイズだった。しかし、ルアが眉を顰めたので、僕はルアに苦しい思いをさせたくないと思ってしまった。その時、僕の頭にある考えが浮かぶ。
「よし! 行ってくるね!」
「待ってウィンリィ。テレポートの鉱石プレートを使って手帳の元へ一気に転移しよう。その方がルアも負担が少ないと思うしさ」
「それは良いね! あ、でも……僕、それ使うの苦手なんだ。上手く作動出来るかな……」
母――ウィンリィは、職制魔法にほぼ全振りした魔法少女だ。そのことは息子の僕もよく知っている。
「大丈夫、僕も付いていくから」
「え? でもサムは拘束結界を張り続けないといけないのに? ここを離れるわけにはいかないんじゃ?」
「ふふ、見ててね――分体」
『時渡りの迷宮』で見てきた父――スノークの魔法を僕は発動させた。 見よう見まねで、正しい呪文も知らないが、発動自体は成功して、結界を張っている僕の足元に小さな妖精サイズの僕が現れた。 その小さな僕を結界を張り続ける方の僕が持ち上げて、ウィンリィの肩へと乗せる。
「サム……その姿……」
「これ、父さんが得意な分体魔法なんだけど、僕がやると、綺麗には分かれなくて、片方は妖精サイズになっちゃうんだ。それでも、鉱石プレートの発動くらいは出来るからさ」
「ふっ……んん!!」
おや? いつも厳格な空気を纏っている始祖竜アルが笑いを堪えているような……
「何だその姿は……サム、大事な局面で笑かさないでくれ……」
イオの夫のカイまで、笑いを堪えている??
「サム、サイズは妖精さんだけど……それだと、ぬいぐるみが一番近いんじゃないかな……」
「サム、小さくてまん丸で可愛いね……」
「ん? まん丸?? ああっ!?」
自分の体をよく見てみると、何だか太い指に、短い手足、凹凸のない胴体で、正にぬいぐるみのようだった。
「ええ!? こら僕! 気付いてて黙ってたな」
「ごめん。僕でもあるし、気付かないならその方がお互いのためかなって思って」
結界を張る僕は、焦ったように頬をかいてみせた。自分なのに、何かムカつくな……
「あはは、でも、スノークが分体魔法なんて希少魔術使えたなんて、知らなかったな。使いこなせるサムも凄いと思うよ。さすが、親子だね」
「使いこなせてはいないよ。小さい上に、ぬいぐるみじゃあね……」
実を言うと、イメージは何度もしてきたが、試す暇はなくて、今回が初めての発動なのだ。だから、当然と言えば当然の結果なのだが、場が締まらなくてトホホだなあ……
「サム、我々も早くルアを送ってやりたい。笑いを取るのはやめにして、行ってきて……ぶふっ、くれ」
「う、うん、分かったよ」
カイの奴、滅多に笑わないくせに。さては、一度ツボに入ると長いタイプだな?
「じゃあウィンリィ、行こうか」
「うん!」
僕は両手で抱える鉱石プレートに意識を、魔力を集中させた。
瞬間、意識も体も飛んで、気付けば花畑の中に僕らはいた。
そこは以前、始祖竜アルが僕らを閉じ込めた結界の中に酷似していたが、一点のみ、違う点があった。
「あった! サム!」
「良かった……」
手帳はキラキラと光を放ち、花畑の中でも埋もれずにその存在を主張している。
「エリィ、迎えに来たよ。インター……ルートのところへ帰ろうね」
ウィンリィがそっと手帳を両手で包んだ。
その直後、目の前の景色が瞬く間に変わる!
森の中、古くて大きなお屋敷、その木陰、濃い緑の匂い……
「ここは……」
「ウィンリィ」
可愛いらしい声に振り向くと、ゆるくウェーブのかかった長いレモンイエローの髪が風に靡いて揺れていた。
「エリィ……」
ウィンリィが名を呼ぶと、彼女は大きな翡翠の瞳を細ませて応えてくれた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から、作品への応援お願い致しますm(_ _)m
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m




