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28歳の息子と13歳の母の異世界冒険譚  作者: 相沢春人
第9章 還る竜と少女の決断

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吐息

「発動させたからね、魔法使えないでしょ? この雨はね、触媒だよ……魔力封じの結界のね」


 敵地真っ只中の上、目の前には魔力なしでは到底敵うはずのない強者が二人。


 振り続ける雨と絶望的な状況の中、隣にいた妻がスカートの上から太ももに手のひらを滑らせた。


 そこは、コーラが隠し刀を忍ばせている位置だ。

 僕が肩に手を置いている娘のアプリも、ストンとしゃがみ込み、床に手を付く。

 これは、うさぎ獣人である娘が魔法に頼らず魔獣と戦っていた時のファイティングポーズだ。


 ルートさんは、分厚い軍服の上着を脱ぎ捨て、拳闘士がするような構えを取り、ウィンリィも同じようにいつもの拳闘士の構えを取った。


 魔法が使えないからって誰も諦めていない。

 なら僕も、些細な違和感を見逃さないようにこの目でよく見てやろうと、目の前のレインとエリフルを見据えた。

 

「何だ、やる気満々か……さすが、この星、最古の人類と言ったところかな?」


 レインがまた白魚の手を伸ばす。

 今度こそ、神獣人が使う強力な攻撃魔法が来る。

 見極めてやる。素手で戦う活路を!

 

 パシャン!


 その時、張り詰めた空気を打ち壊すように、それまで階段に留まっていたエリフルが雨が降る室内へと足を踏み入れた。


「あっ! エリフル! 雨の中では傘をさせって! 君が風邪を引くとアレフが煩いんだよ!」


 レインが怒鳴るとエリフルは、スカートの下から折りたたみ傘を取り出し、無表情でそれを広げ、僕らの横を素通りしようとする。


「待って、エリフル。何処へ?」

「もうすぐだと思うから、様子見てくる。その人たち、無力化出来たなら、私いなくても平気でしょ?」

「あっそ。好きにすれば」


 エリフルは、僕たちの横を通り過ぎて行く。水面を蹴るような足音は、真っ直ぐに奥へと向かっていた。

 まずいな……もしかして、卵の部屋を見に行くのではないだろうか?


「じゃ、今度こそ、始めようか……水の創造画(イドロ・ディミウルギア)!」


 地面に溜まる水と今も降り続ける雨の両方が集まり、巨大な一匹の竜が形成されていく!


 雨の中、よく分からないが、多分今、僕の体は冷や汗を流している。それでも、震える声で言葉を紡いだ。


「派手な魔法を使うと、ここのガラス檻、壊れるのでは?」

「別に構わないよ。魔獣なんか、また集めてきたらいいだけだからさ!」


 形成し終わった竜の口が大きく開き、濁流が噴射された!


 ドッバアアアアア!!


 全員、四方に散り、それを避けた! 高圧の水流が僕らのいた地面を大きく抉る!

 その後も間髪入れず、第二、第三撃と次々撃ってくる!


 あんなもの結界なしで受けたら、体が圧殺されてしまう!

 やはり、レインを階段の前からどかして逃げるしかないか。


 僕は避けながら、コーラに目配せをした。今、僕らの中で物理武器を持っているのは妻だけだ。

 自分の妻に危険なことをさせたくないが、レインを怯ませて退かせるならコーラが適任だ!


 意図を察した妻が、姿をくらませるようにガラス檻の合間に入って行く。


 後は、レインの注意を一秒でも長く僕らで惹きつけて、コーラが攻撃する隙を作るだけだ。


 皆、下手に攻撃せず、全員があちこち逃げ回って、攻撃も分散させることに成功している。


 これなら、やれる! と確信した時、


 ドゴオオオオオオオオオオン!! と奥の方で爆音が響いた!


「エリフルのやつ……やったな!?」 


 レインですら、それは予想の範疇外だったらしく、水龍の高圧濁流がぴたりと止まり、僕は後ろを振り返った。


 そこにあったのは、卵の部屋があったはずの場所に出来た天井まで突き抜けるほどの巨大な穴と、焼き切れたような溶け跡だった。


――《エリフル視点》――


――寸刻前


「卵がない……」


 きっとあの人たちが回収したのだろう。

 ないならないで、ガラス檻が軽くて楽だ。私は両手で檻を押して移動させると、その真下にあった地下に続く階段への入り口を開けて、中を降りた。


 地下二階にあるその部屋はほぼ丸ごとガラス檻で囲まれている上に、レインの掛けた最硬度の結界で覆われている。


 その中に、元の鮮やかな色を失った土気色の大きな竜は横たわっていた。


「竜、あなた、ルアというのね。あなたの子供たちは、あなたの兄弟の友達が連れ出してくれるよ。私たちに任せるよりもその方が安心、だよね?」


 竜はうずくまったまま、微動だにしない。


「あなたの望み通りに、後は花火にしてあげるね。でも、本当に良いの? 子供たちを置いて行くのが、本当にあなたの望みなの?」


 ルアはやっと顔を上げた。綺麗だった瞳も外皮と同じくくすみ、土気色をしていた。


 頷くでもなく、見つめるのみのその瞳をじっと檻越しに見つめ返してから、私は檻を開けた。


「なら、望み通りに解放するから、なるべく派手に暴れて出て行って。それで。あの子が、自分の子供達が逃げる隙を作るのよ」


 とうとうルアは起き上がり、口に魔力を集中させた。

 そうして、口の端から圧縮された高魔力をダラダラと垂れ流しながらも放たれた魔力吐息(ブレス)は見事、天井を突き抜けていった。

「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「今後どうなるの!!」


と思ったら


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