タグ付け
神獣人を羽交い締めにしていたコーラの背後を階段から現れたエリフルの鋭い爪が襲った!
避け切れずに妻はそれをくらってしまう!
「コーラ!」
しかし妻は、崩した体勢のまま、瞬足で走り、僕の隣に戻って来た。
「大丈夫、無傷よ」
「良かった……」
ウィンリィが付けてくれていた防御魔法――『タグ付け』が発動したようだ。僕は安心して脱力しそうな脚に力を込め、目の前の神獣人二人を睨み付けた。
「魔力の子を連れて来たのは殆どレインでしょ? 私が知るはずない」
「そうかな? 君、あの頃さ、アレフと一緒に四季の大陸担当してただろ? 魔力の子は一人もいなかったって言ってたけど、本当はいたんじゃないの?」
暗く光る金の瞳がアプリに注がれる。しかし、娘は怯えることなく、むしろ、強い意志のこもる瞳でそれを睨み返している。
「私は見てないし、アレフもいなかったって言ってた。それよりレイン、この人たちどうするの?」
エリフルの薄いスミレ色の瞳が僕らを見る。エリクスと下らないやり取りをしていた様子からは想像できなかった冷たい目だ。
「どうするって……僕ら神獣人だよ? 草花人相手にケンカするのはまずいでしょ。絶滅危惧種なのにさ」
「そうだよね。じゃあ、お帰り願おうよ」
「あ! でも、その魔力の子は置いて行ってもらおう! 一人だけじゃあ、焼け石に水だろうけど、アレフの機嫌も少しは良くなるんじゃない?」
ウィンターンは、魔力の子の無限の魔力を糧に天候掌握魔法を使い、止まぬ猛吹雪を止めている国だ。
僕らはこの国から魔力の子50人を連れ去ったが、魔力の転送先は、天候掌握魔法への供給装置行きにしている。
つまり、魔力供給は以前と変わりないはずなのだ。それなのにアプリを欲する理由が分からない。何より――
「渡すわけない。僕の、僕らの大事なアプリを、モノみたいに扱って……サム、この人、一発殴ってもいい?」
「ウィンリィ、いいけど、僕が先だ。ちょうど、ショコラさんが作ってくれた釘バットの試し撃ちをしたかったところだし」
「サム、そこは僕が教えた銃魔法でしょ? 娘のためなら魔力解放も辞さないって言ってたじゃない? ああ、でも、僕が直にお灸を据えてもいいかもね」
「みんな、気持ちは分かるわ。でも、ここは母親である私に譲るべきではないかしら?」
はい、全員ブチ切れモードである。当たり前だけど。
「ふうん、君たち、強国ウィンターンの極秘施設に不法侵入しておいて、その態度なんだ……ならさ」
レインと呼ばれた神獣人の端正な顔がぐにゃりと歪み、白魚のような細く長い指が僕らに向かってあげられた。
僕は結界を発動させようと身構える!
「草花人だろうと容赦しない。水の――」
「タグが付いてたよ。そのサイドテールの女の人」
レインが手を下ろし、降り続いていた雨がより一層強くなる。そして彼は、鋭く尖らせた金の瞳でエリフルの瞳を刺すように睨み付けた。
「そんな訳ないだろ。『タグ付け』は僕らリヴァイアサンの神獣人の固有魔法だ。草花人に使えるわけがない」
レインはリヴァイアサンだったのか! 僕の国でも海を統べる神のイメージがあるファンタジーでお決まりの種族だ。
「兄弟の誰かが付けたとか? とにかく、手応えがあったのにその人無傷だったから、タグしかないと思う」
「はあ? 僕以外のリヴァイアサンはみんな海の底でパラスに仕えてるんだぞ? 僕以外に付けられるわけがないだろ」
よく分からないが、この世界にも『ただの一度だけどんな攻撃も防いでくれる防御魔法』があり、しかも、僕らの世界と同じ『タグ付け』という名称だということらしい。
しかし、僕はエリフルに違和感を覚える。
この話、今する利点が彼らにあるのだろうか? 無理に振っているようにしか僕には思えないのだが。
「コーラ、今のうちに付け直すね」
二人が話し込む目の前で、ウィンリィがコーラの頬に口を寄せた。
ちゅっと音がなると同時に妻の体を光が巡る。
「ありがとう、ウィンリィ」
「へへっ!」
「は?」
ウィンリィとコーラのやり取りにレインの顔がまた歪んだ。
「ほらね、レイン。あの子が使い手だよ」
「桃色のお前……誰からその魔法を得た? 贈与か譲渡だろ?」
「誰かといえば、ライト先生たちが贈与してくれたんだけど、そんなに怒られる覚えはないよ! 5歳になったら付けてもらう通例儀式なんだからね!」
ウィンリィはレインに向かって、べー! と舌を突き出した。
空気を全く気にしないウィンリィの態度に、ルートさんは苦笑し、アプリも、張り詰めていた緊張の糸が緩んだのか、僕が触れていた肩が少しだけ落ちた。
「ライトだって? それは、僕が使ってる人間としての仮の名字だ」
「そうなの? 偶然じゃない? ライト先生も金の瞳に金の髪だけど、君みたいに嫌なやつじゃないから! べーっだ!」
二度目のべー! をするウィンリィにレインは先程のように顔を歪めるかと思ったが、俯いてぶつぶつと何かを小声で呟いたかと思うと、突如、晴れやかな表情で僕らを見た。
「そうか、だからあり得ないくらい血が薄かったんだ。なるほどね……なら尚更、加減しなくていいか」
レインの金の瞳が暗く輝いたかと思うと、全身を濡らす水が意思を持ったように波打ち、体に薄い膜が張られたような感覚に陥った!
瞬間、コーラの持つ魔法刀が型を無くして、消えて行く。
妻は、すかさずアイテムボックスを開いて魔法が使えない時の予備の武器である剣を取り出そうとした。が、宙に浮かんだボックスの口は、コーラが手を入れる前に溶けて消える。
気付くのが遅かった。
この雨は、電撃魔法を封じるためのものだと思い込んでいた。
しかし――!
「発動させたからね、魔法使えないでしょ? この雨はね、触媒だよ……魔力封じの結界のね」
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