銃魔法
「ルートさん、僕は……高魔力保持者です」
彼は瞬きの後、分かっていたかのように頷いた。
「僕の師、リアさんによって施された術式は、固有魔法を魔力容器に結びつける術式だけではありませんでした。同時に魔力封じの術式もかけられていたんです」
「それは……エルフの里にいた間に解けないほどの強固なものだったの?」
「ええ、認識阻害だけで、200近く重ねがけされていて、まだ肝心の術式までたどり着けていません」
「200……」
ルートさんの黒曜石の瞳が見開かれる。
「我が師ながら、恐ろしい腕なんですよ……ははは。エルフの里にいた時も、一日2個ずつ解除していったんですけれど、魔力だけでなく、精神力も食うので、廃国探査旅に出てからは解除は中断しています」
「賢明な判断だ。君はやっぱり賢いね。で? サムはそれを一気に解除するつもりなのかな?」
「ええ。このパーティは強いです。ですが、これから神獣人二人に加え、アプリと同じ無限の魔力を有するウィンターン王と対峙しなければならないかもしれません。やれる策は全て講じないと、と思いまして」
ウィンリィがアプリのために魔力を満タンにしたのを見て、僕も娘のために出来ることをしたいと思ったのだ。
「一日、2個解除が限界の強固な術を一足飛びに解除する方法か……それ、禁呪とかの類いだよね?」
「まあ、そうなりますね。なので、デメリットはあります」
「制約付きの解除ってことかな?」
「はい。あ、でも、最終手段ですよ? とりあえず、術式だけ組み立てたので、いざという時に発動できるようにしておいてます」
「ふふ。僕もリィもコーラもアプリも居るのに、君が高魔力を解放しないといけないほどのピンチなんて考えたくもないな」
「ですね……僕も何も無いと思いたいのですが……」
神獣人とそれを従えるウィンターン王、そして、彼らが集めた魔獣たちのことを考えると、不測の事態が起きないとは限らない。最悪、捕えられているかもしれない竜のルアも敵として立ちはだかるかもしれないし。
「ま、君の、やれる事を全力でやる出し惜しみしないところ、僕は好きだよ。守りたいものがあるなら、そう来なくちゃね」
彼の言葉に僕は笑みで返した。ルートさんもウィンリィのことを守りたいと思っているだろうから、僕らは根本で気が合うのだと思う。性格的には合わないけども。
それにしても、魔力封印のこと、あっさり受け入れてくれたなあ……
「ルートさん、全然驚きませんね」
「そりゃあね。二国最強の魔法少女と魔法少年の息子が並みの魔力量なわけないからさ。あと……」
ルートさんは、僕のへその辺りを指差す。
そこは、二国の魔導士たちにとって、魔力の起点になるところ。
「僕も、同じものを施されていたからね」
「えっ!? 何故……」
それは、いつの話なんだ? ルート=インターが魔力封印を施されていたなんて聞いたことがないぞ!?
「何故、か……君を育てたウィンリィと同じ理由なんじゃない? 母親ってのはさ、ちょっと過保護な生き物だよね。それでさ、サム……」
ルートさんは、一瞬だけ、寂しげに細めた目を宙に向けたが、直ぐに僕に視線を移し、黒曜石の瞳を光らせた。
「魔力封印の話が本題じゃあないんでしょ?」
そう、ルートさんにお願いしたいことが僕にはある。
「ルートさん、僕に銃魔法を教えてほしいんです」
本来、僕の職性魔法は『銃魔法』。しかし、並み以下の魔力量では、銃の形成までは出来ず、中に込める弾丸、ひいてはその中の火薬のみの生成しか僕には出来なかった。
僕自身の魔力を使えるのなら、僕はこの『銃魔法』をちゃんと扱えるようにしたい。
「たしか、君のお父さん――スノークの職性魔法も『銃魔法』だったよね?」
「はい。その通りです。なので、ルートさんにお願いするのはちょっと気が引けますが……」
僕の世界のルートさんに留めを刺したのが、父の銃魔法だったので、その息子の僕にその魔法を教えるのは気持ちの良い話ではないと思う。
「はは、スノークのことはさ、前にも言ったけど気にしなくていいよ。敵対国同士なんだから仕方のないことだったんだ。だから、僕が殺したジンのことも僕は悪いとは思わないよ。むしろ……」
ルートさんは、目を細めて口の端をほんの少し上げて見せる。
「君の世界の僕、グッジョブとすら思ってしまうな。兄貴分装っといて、虎視眈々とリィのこと狙ってたんだから、当然の仕打ちじゃない?」
めちゃくちゃ悪い笑みを浮かべる彼を見て、スノークに殺される未来よりも、ウィンリィの恋人にジンがおさまる事実の方が彼の逆鱗に触れていたことを思い出した。
「当然とは、思いませんけど……それに、ルートさんも似たようなものでは?」
僕からすると、
人畜無害な保護者を演じているルートさんと、
人畜無害な兄貴分を装っていたジン。
これで、もしルートさんが将来ウィンリィの恋人におさまるようなことがあったら、まるで同じじゃないか?
「サム、火薬魔法が使えるってことは、弾丸は生み出せるでしょ? とりあえず、僕の銃に君の弾丸を込めて撃ってみようか」
ルートさんは僕の苦言をあたかも無かったことのように、本題に入っていく。
「……都合の悪いとこは聞き流すのやめてもらえます?」
「何のこと? ほら、僕らも休まなきゃいけないし、時間ないよ? 早くやろう」
器用にも、ルートさんは話しながら手の中に黒い短銃を生み出して、僕の手にそれを置いた。
それから、僕らはけっきょく、コーラたちが起き出して来た昼過ぎまで訓練を行った。
銃声には認識阻害を施したので、決して、僕らが煩くてみんなを起こしてしまったわけではないと付け加えておく。
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