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28歳の息子と13歳の母の異世界冒険譚  作者: 相沢春人
第9章 還る竜と少女の決断

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うさぎの子、パンダになる

 翌朝、僕ら五人は全速力で追跡を開始した。

 幸い、神獣人二人組の魔力は、特徴的で追いやすく、見失うことなく、僕らは進むことが出来た。


 獣人の本能なのか、魔力の子としてのものなのか、神獣人にとても怯えていた娘のアプリも、いつも通りに軽快な走りを見せている。


「アプリ、疲れたり、恐怖を感じたら言うんだよ? 彼らの魔力は特徴的だから、一日二日経ったくらいじゃ見失わないからね」

「分かった……でも大丈夫、もう怖くないよ」


 昨日、滝のような汗をかいて震えていた娘の様子を思い出す。本人は大丈夫と言っているし、実際、装備も万端にして出てきたが、僕はまだ心配だ。


 装備といえば、今アプリは頭に大きな黒色のニット帽をかぶっている。

 それは、ウィンリィが貸してくれたもので、元の世界で大人気のネズミのキャラクターがいるテーマパークのグッズだ。

 大きな黒色の丸い耳が付いているそのニット帽は、アプリの持つうさぎの耳には及ばないが、とても可愛らしく、不謹慎だが、目に映す度に少し口元が緩んでしまう。


 うさぎの耳もすっぽり中に入る大きさがあるが、アプリが自力で獣濃度をゼロにしているので、もし、帽子が取れてもうさぎ獣人だとバレる恐れもない。


 アプリが、二段構えでうさぎ獣人としての特徴を隠すのには理由がある。


 それは、今朝のこと――


「……私が獣人だってことが分からなくなれば、神獣人を怖いと思わなくなるかも……」


 アプリ自身も彼らに対する恐怖心が何処から来るものなのか明確には分かっていないようだった。

 それでも、できる限りの策を講じて、追跡に付いて行くと娘は言ったのだ。


 先ず、獣濃度をゼロにして、頭からうさぎではなく、ネズミの耳のニット帽を被ったアプリは、


「このお帽子の耳、獣人の村にいた友達の耳にそっくりだよ」

「その子はネズミだったのかしら?」

「ううん、パンダだよ。それでね、すっごく強い子なの。ウィンリィみたいに素手で魔獣をやっつけちゃうんだ」

「へぇー! 僕、会ってみたいな!」


 それは……恐ろしい友だちだなあ……


「弱いうさぎ獣人じゃなくて、強いパンダ獣人なんだって自分のことを思えたら、神獣の前に出ても平気だと思う……あと」


 アプリは、着ていたフードのポケットをまさぐり、紙に包まれた手のひらサイズのものを取り出した。


「あっ、それ! 販売所で買ったチーズ細工人形だよね!」

「うん」


 ウィンリィが言い当てると、アプリがその包み紙を開いて中のものを取り出す。

 それは、デフォルメされた可愛らしいオオカミのキャラクターの人形だった。


「これね、昔のノアに似てるんだ」


 狼にしか見えないその人形の顔と、僕らの知るノア君の顔は全然違う。


 ああ、やっぱりノア君は、アプリを傷付けないように獣濃度を人寄りに下げて、狼獣人としての爪や牙を隠していたんだ。


 アプリは、それを愛おしそうに撫でると、頭からかぶり付いた!


 パキンっとチーズ人形が二つに割れる音がして、僕は慌てた。

 ウィンリィも心配そうな顔でそれを見ている。


「アプリ……食べちゃっていいの?」

「うん。ウィンリィがチーズを食べて魔力を満タンにしたって聞いて、思いついたんだ。私の場合は、魔力はいつも満タンだから、これはね、ノアがいつでも一緒にいるっていう暗示だよ」


 チーズ人形もウィンリィが昨日噛み砕いたクセロティリで出来ている。

 流石に昨日のウィンリィのように噛み砕くことはせず、アプリは時間をかけて舐め溶かして完食した。


 ゴクン! と最後のかけらを飲み込んだアプリは満足そうに微笑むと、


「これでノアも一緒で、姿も強いパンダ獣人……大丈夫、私はもう、神獣人は怖くない」


 と言い聞かせるように呟いた。


 いや、その帽子の耳、パンダじゃなくて、ネズミのキャラクターなんだけど……アプリがパンダだと思うなら、何も言うまい……


 ウィンリィとコーラがアプリの言葉を肯定するように肩に触れると、娘は心底安心した時に見せる柔らかな笑みを二人に返した。


 それを見て、アプリの不安を払拭するのは、本人の暗示だけでなく、やっぱり僕ら仲間の存在なのだと僕は思った。


「アプリ、昨日も言ったけど、君はいくつもの不安を乗り越えてきた僕の自慢の弟子だ。神獣人がいかに高魔力で、身体能力に秀でていても、君が引けをとることはない。僕らもそれなりに強者だし、遅れは取らないと約束するよ」


 ダメ押しとばかりにルートさんが念を押す。


「うん。ありがとうルートさん。私、自分を、みんなを信じるよ」


――かくして、僕らは今、全速力で神獣の足跡を追っている。


 一日遅れとはいえ、あちらも歩きのようだったし、これだけ急いでいるのだ。半日もあれば追いつくことも可能かもしれない。


 ルートさんの高速移動魔法を使う案もあったのだが、早過ぎて追い抜いてしまう恐れと、電撃の白い光の帯が目立つため選ばなかった。


 正直、ずっと走り通しなのは、回復と調整の魔導士である僕には体力的にはしんどいのだが、ウィンリィから分けてもらったクセロティリのお陰で、お腹も空くことなく追跡できている。


 そして、走り続けて日も傾きかけた頃――


「エリフル、もうほとんど残ってないだろ? 早く帰ろーぜ……」

「嫌だ……まだ、小さなやつなら、転がってるもん。鳥目には見えないだろうけど……」

「ああ!? 俺は鳥目じゃねーよ! つーか、暗闇で見えなくなるのは鳥類の中でもニワトリだけだっつーの! ヘタな情報ばかり真に受けんなよな」


 神獣人という強大な存在とは程遠い間の抜ける会話。


 僕らはとうとう、目的の人物たちに追いついたのだった

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