幕間 神獣が生まれた経緯
《??視点》
「竜か……まさか、俺たちがいない間に星が新たにシステムを作るなんてな」
赤い髪と目の彼は、エッジの効いた目元をいっそう吊り上げて言葉をこぼし、
「彼らの役割は、生物が住むことで汚染される土地の浄化なんだけど、その時、生み出される瘴気が獣を魔獣に変えてしまうみたいなんだ」
白銀の髪とスカイブルーの目の彼女は、話しつつ、徐々に長い睫毛を伏せていく。
「魔獣かあ……僕らで蹴散らせばいいんじゃない?」
「それじゃ何の解決にもならないよ。新たなシステムの弊害は、新たにシステムを作ることで解決しないと」
薄緑色の髪と目を持つ彼女は、見た目の儚さとは真逆の提案をし、代わりに、この場にいる誰よりもガタイの良い黒髪黒目の彼は、理知的な言葉でそれを諌めた。
「うーん、魔獣が食物連鎖の頂点だからいけないんだよね……だったらさ、魔獣を食べちゃう生き物を作るとか?」
桃色の髪と翡翠の瞳を持つ彼女の提案に、皆が同意する中、僕だけが眉を寄せた。
「システムを回すためとは言え、上位存在を生み出し過ぎているよ。もうすでに、精霊王を6体、女神を一体、男神を一体、生み出していて、更に竜まで生まれてるんだ。もう少し慎重にならないと」
「確かにな……だが、現状、魔獣を捕食する生き物はいないんだ。既存の生物にも被害が出ているし、とりあえずは、魔獣を食物に変えられる術式を編み出して、世界に周知させるまでは、魔獣を捕食する生物に頼るほかないだろう」
赤い彼の言うことはもっともだった。新たな術式の構築そのものは難しくないが、それを世界全域に周知させるのは骨が折れる。
それに、今や普通の獣も多くいるこの地で、わざわざ攻撃性の高い魔獣を食べるために狩る種族も現れないだろう。
僕は一つ息を吐いてから、彼に向き直った。
「君の言う通りだよ」
「言っておいてなんだが、お前の意見も尊重したい。新たな上位存在の創造は、これで最後にしよう。それで、名前はどうする?」
みんな顔を見合わせた後、言い出しっぺの桃色の彼女に目を向けた。
「わ、私が決めちゃっていいの? なら! 『魔獣王』とかどうかな!?」
「それだと、魔獣の親玉みたいじゃねーか……お前、本当、ネーミングセンスねえな……」
「むう……みんなが私の顔を見たから、提案したのに……」
僕は、唇を尖らせて俯いてしまった彼女の肩を抱き寄せ、頭を撫でて慰めた。
「ふむ……魔獣の親玉ではなくて、天敵……天……神……『神獣』……」
『神獣……』
白銀の彼女が呟くようにこぼした単語に、六人全員の声がハモる。
「決まりだな」
「異議なし!」
「神獣、シンプルでとても良いと思うよ」
「そうだね。魔獣王より、ずっといいよ」
「なっ! 君ってやつは! さっきまで私を慰めてた優しさは何処へ行ったの!?」
桃色の彼女の抗議に、僕は笑みを向けた。
君のことが僕は世界で一番大好きだけど、妻のネーミングセンスの無さは、夫の僕が一番理解してたりもするんだよね。
僕は赤い髪の彼をチラリと見遣る。
当の彼は、自分の妻の方を見ていて、僕の視線には気付いていないようだ。
分かってる。僕らは互いの妻を、夫を、誰よりも大切に思ってるって。
だけど――
かくして、新たに創造する上位存在の名前は、『神獣』に決まったのだった。




