スノーク
「スノーク=スノーフレーク……スノーク?」
ウィンリィの声が震えている。
僕も、自分の瞳が揺らいでいるのを感じていた。
ルートさんは、そんな僕らに気を遣ったのか、僕らを残し、静観していたコーラとアプリの元へと歩を進めた。
「サム……」
「うん。ウィンリィ、開けてみよう」
「うん……」
ウィンリィが封を切り、中から出てきた手紙を僕にも見えるように広げた。
そこには――
リィへ。
君が姿を消してから、8年の月日が経った。
あの日、三国の高魔力砲が落ちたと聞いて、絶望したけれど、ジンから聞いたチュラの証言で、君は生きていると確信して、今、手紙を書いている。
俺は、あの軍命の後、ずっと君を無視してきた。
君を助けることの出来なかった俺を君がどう思うのか、拒絶されるのでは、そんな思いに囚われて、怖くて君と向き合えなかったんだ。
幼くて、自己を守ることしか考えられなくて、本当にごめん。
こんな俺に君を想う資格はないって分かっているけれど、それでも、言わせて欲しい。
君が好きだ。俺には、生涯、君一人だけだ。この命尽きるまで、君一人を想う。
それでね、勝手に決めてしまって、申し訳ないのだけど、君と俺の子をリアに産んでもらったんだ。
最強の魔法少女と魔法少年の子供だからね。軍も快く徴収した君の卵子を提供してくれたよ。
産まれたのはチェリーブロッサムの魔法紋の男の子だった。
名前は、不本意だけど、サムにしたんだ。
昔、君が、図書室で見つけた草花人の名付け辞典。
それに載ってたチェリーブロッサムの名前案。
君は、この中なら、絶対にサムがいいって言っていたね。
俺は、安直かつ、ダサいって言って、君を怒らせた。
でも、それを採用したら、まるで君が名付けたみたいになると思って、サムにしたんだ。
いつか、いつか君が、どんな形でもいいから、彼と会えますように。
愛しているよ。
スノークより。
―――――
ウィンリィの桃色の瞳からポロポロと涙が溢れていく。
ウィンリィは、手紙が濡れないように、頭の上でそれを握り締め、床を涙で濡らしながら座り込んだ。
それから、声を押し殺し、小さな肩を震わせて、ウィンリィは泣き続けた。
誰も、ウィンリィに駆け寄れなかった。
母さんの背中は、それを望んでいないように見えた。
スノークとの二人きりの再会なのだと僕らはきっと思っていた。
そんな中、僕は、不安定な漆黒の魔力を感じて、ウィンリィの保護者であるルートさんへと目を向けた。
父さんのことで泣いているウィンリィをルートさんは黙って見つめている。
いつもなら、すぐにウィンリィに向かって差し出される手も、拳を作って握り込まれていた。
その様子に、僕は母の過去で見たジンの姿を思い出す。
幼馴染のベリーの死に、6年の時を経て、和解し、抱き合うスノークとウィンリィを、ただただ見つめるだけだったジン。
恋人が他の男と抱き合うのを、邪魔もせず、ただ耐えた彼の気持ちを途方もないとあの時思った。
ふと、ジンの拳からは、血が滴っていたが、ルートさんの手は大丈夫だろうか……と彼の拳を凝視する。
しかし、強く握り込まれていた手は緩く開いていき、彼の足も、ゆっくりとウィンリィに向かって進んで行った。
「リィ、ほら」
嘘だろ……ルートさん……
彼は、微かな笑みを湛えて、ウィンリィの目の前で両手を広げた。
「っ……インター!」
座り込んでいたウィンリィが立ち上がり、迷うことなくその腕の中へ飛び込んで行く。
「うっ、ふぐっ、僕、僕ねっ……スノークのことっ……」
「……うん、うん……分かってるよ」
優しく背中を撫でてやるルートさんの表情は、酷く切なかったが、慈愛にも満ちていて……
僕は、ルートさんのウィンリィへの気持ちの深さを思い知ったような気がした。
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