番外編② 両思いになった日
前線の守りを魔獣と高魔力砲で固めていた第三国に対し、100機もの魔獣発生装置をたった一人で撃破し、高魔力砲の砲台も突き止め、9割を破壊。とうとう前線という矢面に三国の筆頭魔導士らを引っ張り出した鬼神のごとき魔法少女――それがうちの娘だ。
しかし、その快進撃も、恋人だったジーニアスを失ったが故の自棄だったのではないかと、後の夫ルーンくんは、苦々しそうに語っていた。
「やっほー、サム。あれ? またその本読んでたの?」
「あ、ルーン……ルートさん、どうも」
探査魔法で出したその調査本を閉じて、ルートさんの顔を改めて見る。
ルーンくんは、ルートさんのひ孫に当たるから、顔がそっくりで、どっちがどっちだか、本を読んだ後だと、分からなくなるなあ……
「もう、間違えないでよ。そうだ、それもコーラには見せないの?」
前にルートさんが録画しといてくれた時渡りの迷宮で見たウィンディの結婚式の映像を、僕はコーラに開示できないでいる。
理由は簡単。知らない方が良いことの方が多かったからだ。
「え……これ、母親に見せていい内容ですかね……」
この調査本も同じ理由で見せるわけにはいかない。
それに、ルーンくんは、性格もルートさんによく似てて、なんというか……
考えていたら、ルートさんに本を取られてしまった。彼は、パラパラとめくって全体を読んだ後、口を開く。
「ふむ、ちょっと執着系で、たまに病んでて、愛情が行き過ぎて、監禁したくなっちゃうだけでしょ? 別に平気じゃない?」
それのどこが平気なんだ!?
「身内に甘いんですね、ルートさんは……」
「そう? 普通だと思うけど」
「とにかく、コーラには見せられません。ジーニアスのこともありますし」
戦死したジーニアスは、僕とコーラの親友――アニとオーレンの一人息子だ。
あの結婚式の映像も、ジーニアスの死亡が見てとれる内容だったので、見せられなかった。
「……ああ、そうだったね。それは伝えるのに覚悟がいるよね……」
伏し目がちになったルートさんを見て、彼にとっても、ひ孫に当たるジーニアスの死はあまり気持ちの良いものではなかったのだろうと感じた。
「ええ。なので、ルートさんもまだ黙っていてくれませんか?」
「それはいいけどさ、夫婦の間に隠し事は良くないんじゃないの?」
「ぐ……それはまあ、そうなんですけど」
「それにさ、サム、コーラに隠し事なんかしても、すぐにバレちゃいそうだよねぇ……今までに浮気とかさ、バレずにできた試しあるの?」
突然、何を言い出すんだこの人は!
「コーラ以外に目を向けたことなんて、一度もないですよ!」
「そうなんだ? あはは、冗談だって、怒らないでよ」
「怒りますよ! 僕は、5歳の時から、23年間、ずっとコーラ一筋なんですから!」
「あら、そうだったの? あなた」
ヒートアップしていた僕は、扉が開いていたことに気が付けなかった。
「コ、コーラ……」
恥ずかしさのあまり、顔に熱が集まってくる。
「ふう、ご馳走様。じゃ、僕は部屋に戻るねー」
「ちょ、ちょちょっと待って下さい、ルートさ――」
バタンと無常にも扉は閉じられた。
後に残るは、僕と妻のみ。
「ふふふ、何を慌ててるのかしら? あなた」
「べっ、別に慌ててなんか……」
「それにしても、ルートにはベラベラ話すのねぇ……私には何にも言ってくれないのに」
「そ、そうかな」
僕の隣に腰掛けたコーラは一言発するごとに距離を縮めてくる。
「そうよ。たまには、聞かせてくれないかしら? あなたの想い」
コーラの人差し指が僕の唇をとんと叩く。
「っ……! き、聞いたって気持ち悪いんじゃない? 特に昔のことは」
「どうしてそう思うの?」
「どうしてって……だって、コーラは、オーレンが好きだったじゃないか」
言ってしまった! ずっとずっと子供の頃から思ってたことを!!
「いつも、オーレンのことを目で追って、僕でなくてもみんな、そう思っていたよ」
「……」
コーラは、動きをピタッと止めて、しばし沈黙していたが、だんだん肩を震わせて笑い出した!
「ふふっ、ふふふふ、どうして、そうなるの? ふふっ」
「な、何がおかしいの?」
「オーレンを目で追ってた、だなんて……私が見ていたのは、アニよ」
「え?」
「アニの隣にはいつもオーレンがいたからかしら? それにしても可笑しいわね」
「つまり、アニのことが好きだったってこと!?」
「……友達としてね」
コーラはそう言って笑ったが、その笑みは少し寂しそうに見えた。
え? え? これはまさか、本当にアニが本命だった可能性がある、のか……?
「私、気を抜くと、一番好きなものばかり目で追ってしまうから、気を付けていたのよ。それで、いくら見つめても大丈夫なアニのことを見ていたわ。アニも、困ったらこっちを見ればいいって言ってくれたしね」
んん?? ますますわからなくなってきたぞ?
「まだ、分からないの? ねぇ、サム……」
うんうん唸っていたら、コーラの顔が真ん前にあって、次の瞬間、唇を塞がれていた。
「んっ……」
――どれくらいそうしていただろう。
長いそれに、すっかり力が抜けてしまいそうだった僕は、後ろに片手を付いて、倒れないように必死だった。
「あら、あなた、強情ねぇ」
「えっ?」
その手を払われて、ベッドに押し倒されてしまう。
「え? コーラ?」
「分からず屋さんには、分からせてあげなくちゃね?」
するりと、胸を撫でられて――
翌朝、僕はとても充足した気持ちで目を覚ました。
コーラは早朝から朝練に励むから、隣にはもういなかったけれど。
「ふふ、ふふふふ、幸せ……」
いなくとも、昨日の記憶を辿れば、世界で一番幸せな人間になれたのだった。




