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28歳の息子と13歳の母の異世界冒険譚  作者: 相沢春人
第8章 エルフの里、再び

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行方不明の竜

「よし! 次の目的地は、ウィンターンの隣、廃国跡地で――」

「あ、もう一つ言わなくてはならないことがあります」


 出発の話を締めようとしたところで、イオが再び口を開いた。


 僕は、遮られて、ガクッと下がってしまった体勢を立て直して、イオの方を向く。


「廃国跡地は、500年前から無人でして、今まで人の出入りはほとんどありませんでした。なので、手付かずの貴重な魔導書や古い文献がゴロゴロ転がっているそうです。もしかしたら、転移のヒントになるかもしれないと思って、その者も侵入したのかもしれませんね」


 なるほど、そうなると、その人も、意図的ではなくて、僕らと同じように偶発的に転移してきた可能性があるな。 

 あれ? でも、ウィンターンがその土地を放置するのは変じゃないか? 軍事国家なら、真っ先に領土にしそうなものだが。


「へぇ……でもさ、ウィンターンからしたら、寒くない土地が真横にあるのに領土にしないのはおかしくない?」


 ルートさんも僕と同じことを考えたのだろう。これは、土地自体に曰くがありそうだ。


「それはですね、長らく竜が浄化中の土地だったからです。しかし今は、それも終わり、そこを担当していた竜も、ほとんどが移動済みです」

「ほとんど?」

「はい。一人だけ、始祖竜アルの一番目の子供、ルアのみ、残留していました。しかし、この前、アドに様子を見てくるように頼んだのですが、何処にも見つからなかったようなのです」

「それは……」


 何を示しているのだろう……あまり良いことではないような気がするけど……それに――


「竜って番(つがい)で行動するよね? ルアの番は何をしてるの?」


 僕が聞く前に、ルートさんが僕と同じ疑問を口に出した。

 すると、いつも淡々としていて、揺らぐことのないイオの爬虫類の瞳が、ほんの少し、揺れ動く。


「ルアの番、スアは、事故で亡くなりました。本来、始祖竜とその第一世代までは不死ですが、物理的な衝撃には竜の体も耐えられません」

「そうなんだ……」


 みんな、痛ましい顔をしていた。

 

 ルアが、アルの一番目の子供ということは、スアはきっと二番目の子供だ。そしてイオは、アルの末子。

 つまり二人は、イオにとってお兄さんとお姉さんのはずなのだ。


「あのさ、ルアが留まっていたのは、スアと過ごした場所だからだよね……」

「それもありますが、竜は、番とともに生きることを前提に生み出されています。なので、番を失ったルアは、後は静かに息を引き取るつもりだったのでしょう」


 僕は、番を失って、孵ることのなかったイオの卵のことを思い出した。

 それでもイオは、その子に生まれてきてほしかったと言っていたことも。

 その思いの大きさに、イオたち竜のことを、ただの世界のシステムだなんて、やっぱり到底思えない。


「……」


 僕も、もしコーラを失ったら……きっと立っていられなくなるだろう。


 重苦しい沈黙の中、この場にいる誰もが、自分の大切な相手を重ねているように思えた。


「私も、カイがもしいなくなったらと思うと生きた心地がしません」

「イオって、カイのこと、ちゃんと好きだったんだね……」

「好きとか嫌いとかそういう話ではなく、いないと息ができない……番とは、そんな存在です」


 なんと……これは、とんでもないラブコールではないだろうか。


 アプリを優先して里に残り続けたイオを置いて、寂しそうな目をしながら竜の砦へ先に帰ったカイの姿を思い出す。


 その時のイオは、カイよりもアプリのことを優先していて、全然寂しそうに見えなかった。


 けれど、イオの瞳は、変わらず揺らいでいて……本当は側にいて欲しかったのだと僕は思い直した。

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